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教会入り口に立っていた騎士達の言葉で尻尾を力なくだらけさせたディルは……無表情であっても、どう見たって悲しげで、落ち込んでいる。
私の、家族が、傷付いてる。
「…………ふ」
ゆ る さ な い
この時、私の殺意を込めた微笑みに怯えたディルに気付いたけど。フォローは後で。
とりあえず、騎士2人に理由を聞いてやろう。
……許すつもりは毛頭ないけど。まあ、無いだろうけど、こっちに理由があったら少しは減刑する予定。
「いきなり何ですか。……教会の騎士ともあろう方々が、私の家族に大変失礼ですね?」
表情はにこやかに、声音は固くして話す私に古めかしい言葉遣いやった騎士の方が……ディルにではなく、私に少し頭を下げてきた。
「……お気を悪くしたのなら、同僚に変わって謝罪する」
「……は? そんな、上っ面だけの謝罪なんかいりません。余計に不愉快です」
謝る相手も違う、と私が突っぱねると騎士2人は固まった。
どうやら、私の切り返しに面食らったらしい。
……そういえばこの世界で私は幼く見えるから、こんな風に言い返すなんて思わなかったんかもねぇ。
私は、何があっても良いように無言で私とディル、サーリーを包むように≪結界≫をしっかり発動させた。
最近気付いてんけど、実は≪結界≫だけ、言葉として口にしなくてもスキル発動出来るねん。心の中で念じたら、ちゃんと発動する。
≪聖結界≫は無理やったけど。
私達3人の体が薄っすらと発光したから、何かのスキルを使って防御体制になった事に騎士達も気付いたらしい。
「……お嬢ちゃん達は、知らないんだな。そいつの事」
「…………何がや?」
始めに不愉快な発言した、軽薄騎士野郎がまた口を開いた。
うん。こいつにはもう、敬語は要らん。
「そいつはな、7歳で行われる教会での儀式を必要とせずにスキルを使いこなしたって話だが……それはあり得ない事なんだよ」
軽薄騎士が言うには、教会での儀式は、個人が一生に一度……この世をお造りになった姿無き神と会話出来る唯一の機会なんだそうで。
儀式では神自らがスキルとは何か、力とは何かを語ってくれるらしい。
騎士達の説明は熱意はこもってたし、色々優先してくれたから感謝も勿論してるけど……あのうっひっひ笑いの神様を、そこまで信仰出来ひん私がいる。
神々しさに、笑い方、大事やと思う。
そしてディルは……幼い頃の、あの悲しい出来事の時。
そんな神との会話をする事なく、スキルを使いこなして生き残った。
儀式のなんたるかを知る教会からしたら、物凄い異常事態だったらしい。
そして、当の本人は……ちゃんと教えてもらった、と確認しに来た教会関係者に言ったのだそうだ。
誰かは分からない、そんな、不確かな存在に。
そしてこの世界の歴史の中で、教会以外で神様の存在を確認された事は、無い。
「まあ、ガキの頃にだいの大人に詰め寄られて答えただろうから、正確な情報じゃあなかったかもしれんさ。……だがもし、これが事実だって言うならディルムッドは神以外の存在にスキルのなんたるかを教えられたって事になる。……そんな存在、この世にいるとしたら……」
軽薄騎士の言葉にトゲどころか嫌悪さえ混じり始める。
成る程……今回の、モンスター活性化の原因。
巷で噂になるくらい有力視されてる、可能性の1つ。
≪不死王≫の仕業やと思ってる訳か。
目の前の騎士2人……いいや、ちゃうな。
一部の教会連中は、この優しくて、可愛いかあいいディルが、悪の親玉の手下(仮)って言いたいのねぇ。そうなのねぇ。
ディルは今も、大きな体をしょんぼりと肩を落として落ち込んでる。サーリーがディルの顔見上げてるけど……その表情は、むすっと不機嫌のままや。
「……」
私の≪結界≫けっこう融通効くから、やっぱちょっと、お仕置きしたろうか?
例えば攻撃無効化するのを逆手に取って……空気さえ、無効化する位の気持ちを込めて騎士達にスキル発動させたら……この2人、息、出来るんかな?
出来るかどうか……実験台に、してやろうか?
そんな、私の心にブラック・マイがご降臨なされた時にサーリーの声が聞こえた。
「むうぅぅ………………ねぇ、マイっ」
「……なぁに、サーリー」
ちょっと待っててねすぐ済むからねとりあえず軽薄騎士の息の根止めるからね!
「私、教会に入りたくない。……だからスキル振り分け、自力でやる!」
その、サーリーの決意の言葉に。
「「「……えっ!?」」」
「……にゃ?」
サーリー以外の大人組は驚きの叫びと困惑の鳴き声をあげた。
え、自力? 自力って言った!?
宣言したサーリー本人は、繋いだままだった私とディルの手を引っ張って教会の門から離れようとする。
「だって、こぉんな意地悪な人達の所に居る神様は、もっともっと意地悪に決まってるっ! ……そんな神様に、私っ会いたくないの!」
「「ぅぐうっ!」」
そして美幼女の怯えと怒りを含んだ叫びに、騎士2人が大ダメージを受けたのが分かった。
はっはぁ!
あいつらざまあねぇな!
『……しくしく。ワシは意地悪なんかせんよぉ。しくしく……』
あれ……なんだか、お久しぶりに脳内で響く白い幼女(神様)にもダメージ飛び火してる。騎士2人のせいなのに。不憫。
「う、うーん。……神様は、優しいよ。私が保証する! ……悪いのは、あの騎士2人だから。きっと意地悪した2人にお仕置きしてくれるわよ!」
私も何かとお世話になってる神様やし。
それに、この世界の為に色々頑張ってるの何となく分かるし。
……ディルの事も、もしかしたら反則ギリギリの手助けしてくれたんかも。今の、私の脳内に呼びかけるみたいに。
「…………意地悪、されない?」
『しないぞぉぉ! ワシは良い子の味方なんじゃよおおぉ!』
目の前の美幼女と脳内の美幼女(神様)のダブル音声に若干の違和感を覚えるけども。
「……うん。優しい良い子には、ぜぇったいに意地悪しないわ。……そういう神様だから、怖がらないで教会に行こうよ。ね?」
「にゃっ!」
私の言葉に、ディルは屈みこんで必死に頷いている。
……そうよね。
ディル方式でスキル振り分けしようと思ったら……おそらく、死の危険があって初めて出来る緊急処置みたいなモノかもしれん。
……上手くいく保証、全く無い。
サーリーの言葉を聞いていた騎士達は、気まずそうにあーうー唸ってから、勢いよく頭を下げて来た。
「俺が、悪かった! ……創造神ツクヨミ様は、子供好きで有名なんだ。……ここのシスターに、今の聞かれたら……」
「そうねぇ……セル、レイド。2人は本日から丸3日、食事抜きよね?」
「げ、げえっ!?」
「シスター!!?」
騎士2人……クズ野郎セルと、古めかしいレイドが怯えているのはまだ20歳くらいのエルフの女性だった。
まあ、相手はエルフみたいやから実年齢は分からんけど。
今の騒ぎに気付いて、教会から出て来たみたいやな。
……まあ、それは置いといて。
クズ野郎、もといセルの発言の中に、引っかかった部分あるねんけど?
「えっと…………月読……様?」
『くすん。う……なんじゃ?』
い、いやいやいや!
めっっっちゃ、日本の神様のお名前なんですけどおぉぉ!!?




