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 ディルに背骨ギッシギシになるほど抱き締められてる時に「くるるるるぅ」と周囲に可愛い音が響いた。



 褐色肌の美幼女、彼女の名前はサーリー。



 顔を真っ赤にしてうつむくのが可愛かったので、私は少し余っていたおにぎりを分けてあげる事にした。



 地下1階、地上2階建てになってる『ポポの道具屋』は2階部分が住居スペースになってるので、フェールさんの許可のもと皆一緒にお邪魔した。




「あふあふっ……あぐむぐむしゃむしゃ」


「あーあーサーリーっ、取ったりしないからゆっくり食べてよ。……ね?」



 住居スペースといっても、1階のお店部分にあったのと同じ木箱や壺が大量にあるので、半分は在庫置場になってるっぽい。


 それでも何とか存在する小さな丸テーブルと椅子があり、私達はサーリーを座らせた。


 そして私はサーリーにお茶を差し出し、彼女はその小さな口でおにぎりとお茶を交互に、必死に頬張り続けた。



 ……よっぽど、お腹減ってたんやなぁ。



「……俺の、夜食……みゃぅん」


「しっ! ……哀れっぽく鳴くんじゃない。ここで男らしく、夫らしく心のゆとりを見せないと……もしかしたら、マイに嫌われるかもしれないぞ?」


「にゃっ……嫌わ、れ…………俺、我慢出来る!」


「……ディルムッドが、子供好きだった、あのディルムッドが……執着を覚えて……良かった……良かったのぅ」


「え、何が良かったんです?」


「「「こっちの話」」」


「「???」」



 そんなやりとりがあった、10分後。



 ディル用に少し大きく握っていたおにぎり2個を平らげたサーリーは、今度は私の腰に抱きつきながら可愛い笑顔を向けてくれた。



「おいしかった〜! マイ、ありがと!」


「ふふ。気に入ってくれたなら良かった」



 サーリーのサラサラの銀髪を撫でてやりながら、さてどうしようかとフェールさん達と目を合わせた。



「サーリー。答えたくないなら、言わなくてもいいんだが……家族と一緒に、この町に来たのかな?」



 フェールさんがしゃがみ込み、サーリーと視線を合わせながら問いかけた。



「…………ううん。……2人とも、月に行ったの。だから、私1人で来たの」


「……そうか」



『月に行く』……それは、日本風に言うと『あの世に逝く』と同義。


 エルフやダークエルフみたいな長命の種族も、20歳位までは普通の人と同じ様に歳をとるから……サーリーも、見た目通りの年齢の筈。


 サーリーは悲しみに顔を歪める事なく、淡々と教えてくれたけど……その、今の姿の方が、彼女の悲しみと苦しみを私達に教えてくれた。



「…………俺に、……何の用?」



 ディルはいつもの無表情に首をこてっと可愛く傾げながらサーリーを見た。



「…………っ王子様の、弟子になりたいの!」


「……え、弟子?」



 王子様って呼ぶから、てっきりディルに一目惚れしたおしゃまな美幼女なんかと……。



「そうっ! ……私、強くなりたいの!!!」



 何でも、サーリーはつい最近≪デスペリア≫から人魚の住む村ローレライを通って≪デカラビア≫(こちら)にやって来たらしい。



 人魚の村を抜けて近くの町にやって来たら宴の最中。

 周囲の話を聞いてみれば、月の獣(ムーン・ビースト)がアンデット・オクトパス・キングを討伐してくれたから催された宴なんだ、と。


 最強の冒険者、その一角として名高いその人物が拠点にとんぼ返りしたらしいと聞いて、サーリーは食事も抜いて慌ててこのサルーの町までやって来たんやって。



 ここで私、ピーンと来た。



月の獣(ムーン・ビースト)って……もしかせんでも?」


「ああ、ディルムッドの通り名だよ。青みがかったグレーの髪は月明かりの下でとても映えるし、彼の瞳は金色だからね。いつのまにかそう呼ばれていたんだよ」



 フェールさんの説明に、ディルは表現豊かな尻尾をばっしばっし、と床に叩きつけるように大きく降って不機嫌さをアピールし始めた。



「……俺は、嫌って……言ってるのに」



 お、おお。どうやら、本人無許可だそうです。

 ……不機嫌なディルもかあいいなぁ(おい)


 ……むう。結構お似合いな名前やのに。神秘的で野生的な感じが素敵。可愛い中身とのギャップも良いよね!



「それに…………俺、魔法スキル……高くない」



 そう。

 ダークエルフのサーリーは、確実に魔法特化ステータスの筈。

 物理特化なディルとは、戦闘スタイルが違うと思うなぁ。



「そんなの、見たら分かる! ……それでも、身のこなしとか、モンスターと戦う心得とか、覚える事たくさんある筈なのっ!」



 覚えるなら最強って呼ばれる人のが良い、と見つめてくる美幼女の視線に…………ディルは困りきった顔(はたから見たら無表情)を私に向けた。


 なので私は、しゃがんでサーリーと目線を合わせた。



「どうして、強くなりたいの?」


「っ………………生きて、いたいから」


「「「「!」」」」


「……理不尽に、意味も無く、死にたくないから!」



 私の問いかけにうっすらと涙を浮かべながら答え、お願いします、と頭を下げて動かなくなったサーリー。


 彼女の口にした言葉は……本能に近い、1番シンプルな感情やった。


 ただ、生きていたい……こんな幼い子が、死にたくないからと、その為に、強くなる為に弟子になりたいと言う。


 そして、立ち上がりながらディルの方に顔を向けた私は……無表情ながら、何かの感情で渦巻いている彼の横顔を見て。



 場違いなのは分かってるのに。

 どうしてか、私の胸は高鳴った。



 数秒か、数分か。時間の感覚が狂う様な静けさの中、ディルはサーリーを見つめていたと思う。


 そんなディルが、私の左腕に尻尾を絡ませながらサーリーの前に膝をついた。

 私もつられる様に隣に屈んで、サーリーと同じ目線になった。



「…………俺、ディルムッド…………だから、ディル」


「……ぇ」



 ディルの言葉に、サーリーは顔を上げた。



「…………王子様、とか……≪月の獣≫(ムーン・ビースト)って、呼ばないなら…………良い、よね?」



 ちらり、と私にお伺いと言う名のおねだり視線を向けてくるディル。あざとい。


 ……その視線の破壊力に、パーティー名決まったなんて知らんのやろうなぁ。


 ……まあ、もともと反対するつもり、なかったけどな!

 だから私は、笑顔でサーリーに向かって頷いた。



「もっちろん! これから宜しくね、サーリー!」


「っふぇ…………っぐす。……ょ、よろ、しく……おねがぃしましゅ」



 緊張の糸が切れたらしく、サーリーは大粒の涙を紫紺の瞳から溢れさせ、ひっくひっくと小さくえづきながら私のお腹にしがみ付いた。


 そして私とディル、2人で落ち着くまでサーリーの頭と背中を撫で続けていた。










「……ほっほっほっ」


「……パーティーの新メンバーと言うより、親子3人って方がしっくりくるなぁ」



 ポルクさんとフェールさんの微笑ましげな表情を見るのは、5分後です。




追記

本編の内容はほぼ変えず少し書き直しました。



そんな、悪ガキの仲間かも知んないよっ、簡単に仲間にしたら駄目だよ奥さん!

と、思ってくれた優しいそこのあなた。


大丈夫。

マイさんは、悪ガキ達の顔を、全て確認済みです。




[悪ガキについて]



≪マイと出逢うちょっと前のディルと悪ガキ≫


「けほっこほ…頭いたいよぅ、苦しいよぅ」

(チラッ)


「……」

(回復アイテム差し出す)


「あ、ありがとう!」

(中級ポーションかよ、しけてんなぁ)



≪マイと出逢ってからのディルと悪ガキ≫


「けほっこほ…頭いたいよぅ、苦しいよぅ」

(チラッ)


「≪アンヘル・ヒール≫!」

(お前がタカリの悪ガキか!)


「っえ!?」

(体めっちゃ光ってるうぅ!?)←回復魔法によって悪ガキ(男)の体、数秒間神々しく発光


「にゃ…マイ…ありがとぅ」


「ふふ、そんなのいいの!…君、今のは全状態異常回復魔法だから。具合が悪いっていうのも、もう大丈夫よね!」

(だから次タカリに来たら、向こうでニヤニヤしてるガキ共と一緒に蜂の巣やぞごらぁ!/マイさん、マジック・ピストル見せながら微笑んでる)


「ひっ、ぁあありがとぅございましゅうう!」

(何この女っ、殺気やべぇ!!?)



それ以来。

悪ガキ集団に顔とおおよその中身を知られたマイによって、ディルムッドのぼったくり被害は無くなりました。

マイの所に早く帰りたいが為に、依頼中も常時素早さUPさせて行動してるディルムッド。

声を掛ける事も物理的に不可能な為、悪ガキ集団は真面目にコツコツ家の手伝いでお小遣い稼ぎしてます(笑)

ちゃんちゃん!



※アンヘル・ヒール:単体:回復小(全状態異常回復含)


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