18:勇者サイド2
ここは人の国≪ユートピア≫にある始まりの町アルバ。
勇者一行としてこの町に降り立ったショータとモエは、ギルド長ハルパのお陰で聖魔法……回復役をパーティーに迎えることが出来た。
出来たのだが…………。
「もういいっ、勝手にしろ!!!」
パーティーの証である腕輪とネックレスを投げ捨てられるのを、ショータは憤慨しながら見つめていた。
アルバの町に訪れて、1週間。
ショータとモエはパーティー名を≪正義の刃≫とし日々を過ごしていたが……。
新たに加わっていた回復特化の弓使いが出て行ったことで5人目の脱退となり……最短脱退数記録を更新する、という不名誉な日々を送っていた。
「あーあー意味わっかんねぇ! 何だよアイツ!!?」
「……はぁ」
ギルドから初心者冒険者へと支給される皮の鎧と皮のローブにそれぞれ身を包んだショータとモエは、寝泊まりしている宿から冒険者ギルドへと向かっていた。
当面の金銭とレベル上げの為に、依頼を確認する為だ。
ちなみに、神からアイテムの類は貰っていたが、金銭はほぼゼロだった。なので2人はもう少しお金が貯まったら、大きな町で装備を一新する予定だ。
ショータは朝の出来事によって、まだ不機嫌なままだ。
その姿に、モエは溜息しか出ない。
「一体、何が不満なんだよっ」
「……私達まだレベル低いのにさ、高ランク任務受けようとしたショータが悪いでしょ」
2人肩を並べて歩く中、ショータの呟きにモエは当たり前の様に答えていた。
「高ランクって……弓使いのレベルが30いってたから、そのくらいの依頼受けようって……」
「ショータ、さっさとレベル上げたいからってモンスター討伐ばっかだから……」
そう。
ショータはレベル上げを急ぐあまり、危険度の高い依頼を好んで受けようとした。
確かに、ショータとモエは≪異世界初心者セット≫によって優遇されている。
進化前とはいえ、初めから強力な武器も所持しているし、体力(HP)と魔力(MP)は一般人と比べても段違いに多い。
しかしレベルはまだ低く、実践においての戦闘経験もまだまだ少ない。
ショータの所持スキル≪飛ぶ斬撃≫はレアスキルである。そして、Max特典があった。
それは≪飛ぶ斬撃≫がMP不要で使用可能になる事。
……結果的に、ショータの魔法属性を付加しない通常攻撃が≪飛ぶ斬撃≫になったと思えば分かりやすいだろうか。
本来ならMPを使用するスキル。
威力は高いのは当たり前で、ショータは率先してスキルを使用する。
しかし、これにはデメリットもある。
魔法攻撃は味方判定によってダメージを与えずに済むが、≪飛ぶ斬撃≫は物理攻撃の為そうはいかない。
戦闘経験の無かったショータに。
戦闘の流れで、味方が前に現れたから寸止めしよう、は出来ない話だった。
幸いにも、モエは魔法使いであったから常にショータの背中側に陣取っていたので問題無かった。
そして不運にも攻撃されてしまった新メンバーは、聖魔法持ち。
大事には至らなかった。
平和な異世界から召喚されたばかりだと、パーティーに入ってくれた彼等は分かっていた。
だから「慌てずゆっくり経験を積んでいこう」と新メンバー達に諭されるも……ショータは早く先に進みたい為に納得しなかった。
……腕がザックリと切り裂かれるも、回復魔法で治ってしまったのを見たのも、理由だったのかもしれない。
……ああ、これくらいは大丈夫なのか、と。
結果、言い争いに発展。
モエが仲裁に入ってもすでに遅く、相手は怒り呆れながら辞めていった。
「お前の様な愚か者が勇者などっ、……この世界も終わりだなっ!」
こんな言葉を投げ付けたメンバーも居た。
彼等に、まだ実感は無いのだろう。
この異世界の出来事は、決してゲームなどではない。
確かな現実なのである。
そして、人を生き返らせる様な蘇生魔法はこの世界でもまだ確立されていない。
ゲームの様にリセット出来ないのを、彼等はまだ理解出来ていない。
少しの油断が、命に関わる。
結局薬草採取などの簡単な依頼を受ける傍ら、採取場所に近寄ってくる弱小モンスターを討伐して2人は日銭と経験を積んでいる。
「……ちくしょう。あのばばあが着いて来てたら、今頃……」
「これ以上、マイさんに迷惑かけちゃ駄目よっ! ねぇ……私は、大丈夫だから。ゆっくり進もうよ、ね?」
「……」
ちなみに、彼等の初期ステータス、スキルがこちら。
――――――――
●相良翔太 (ショータ)
●レベル:1
●MaxHP:1100
●MaxMP:50
●力11
●魔1
●守6
●護1
●早1
●運10
≪特殊スキル≫
飛ぶ斬撃Max50p使用
鑑定Max10p使用
剛力Max10p使用
隠密Max20p使用
アイテムボックス5段階10p使用
≪魔法スキル≫
火魔法45使用
風魔法30p使用
≪武器スキル≫
異世界武器:刀Max20p使用
計195p
余り5p
――――――――
●園崎萌 (モエ)
●レベル:1
●MaxHP:50
●MaxMP:1100
●力1
●魔11
●守1
●護6
●早1
●運10
≪特殊スキル≫
鑑定Max10p使用
知力Max10p使用
錬金Max20p使用
アイテムボックス5段階10p使用
≪魔法スキル≫
火魔法1p使用
水魔法30p使用
風魔法1p使用
土魔法45p使用
闇魔法Max70p使用
≪武器スキル≫
杖・棍棒1p使用
計198p
余り2p
――――――――
レベルUP後のステータスは、また後日。
そして、依頼を受けようとギルドに訪れた勇者一行を見付けたギルド長ハルパは、慌てて自身の部屋へと案内した。
ソファを勧めながら、汗を滲ませ、苦渋に歪めたその顔を2人へと向けた。
「勇者様……話は聞きました。残念ながら、こちらで集めていた聖魔法持ちの冒険者は……そのぅ」
ショータ達も、勿論それは分かっていた。
あの時、呼びに行って引き合わせてくれたのは5人だったのだから。
「っち……つっかえねぇ奴らだったよ」
「ちょっと!?」
ショータの余計な一言に、モエは隣に座る彼の背中を一度叩いて抗議し、ハルパに申し訳なさそうに何度も頭を下げた。
ハルパもそんなモエに恐縮し、頭頂部を晒す様に身を縮こまらせていた。
「……こ、こちらとしましても、これ以上勇者様をお引き留めするのは申し訳なく……乗合馬車もありますので、隣町まで先に進むのも手かと……」
この言葉に、ショータの表情は憎々しげに変わった。
「っ……迷惑だから、さっさとこの町から出て行けってか?」
「め、滅相もありません! ……た、ただ。勇者様はモンスターが活性化した今の、この世界の希望なのですっ。この世界をお救い下さる為に必要な仲間を、一刻も早く見つけるべきなのです! ……この町で見つからぬなら、次に進むべきですっ!」
ハルパの表情と言葉に、ショータとモエは言葉を失った。
今の言葉に、嘘が全く含まれていない事が幼い2人にも分かってしまったから。
ここ数十年の間に、モンスターによる被害は増え続けている。
神から与えられた知識によって、2人はこの情報を知っているが……まだ実感は無い。
勇者とは何か。
勇者とはどうあるべきか。
これからの冒険によって、彼等の心にも変化は訪れるかもしれない。
しかしそれは、まだ先の話だ。
「た、大変ですっギルド長っ!!!」
ハルパの部屋の扉をノックせずに入ってきたのは、ショータ達も何度か世話になった受付業務を行なっている年若い青年職員だった。
「こらっ、暫く誰も近寄るなと言っておいただろう!?」
「申し訳ありませんっ! で、ですが……」
「……彼を、怒らないでやってくれ。私が無理を言ったのだ」
そう言って、青年職員の後ろから現れたのは。
純白の鎧に身を包む、明るい金色の髪と紫紺の瞳を持った30歳位の美丈夫だった。
その美しい男を、座った状態で見上げたハルパは次の瞬間には飛び上がる様に立ち上がり腰を90度に曲げた。
「……ゆ、ゆ、ユーリディア王子っ!!?」
「「ぇっえええ王子様っ!!?」」
ハルパの叫びにショータとモエも同様に立ち上がり。
ユーリディア……ユーリ王子は柔和に微笑みながら、勇者一行に目を向けた。
「初めまして、勇者様御一行。お迎えに上がりましたよ」
一旦勇者サイドは終わり。
マイ視点に戻ります。
追記
内容はほぼ変えず少し書き直しました。




