17:勇者サイド1
今回は題名の通り勇者サイド。
それでも宜しかったらどうぞ。
ここは人の国≪ユートピア≫……勇者誕生、始まりを意味するアルバの町外れ。
小さくも手入れされた森の中に佇む無人の教会は、朝の日差しを浴びて幻想的で美しい。
歴史上、最古の教会として度々信者が訪れる教会でもあった。
そんな歴史ある教会前広場に、勇者一行のショータとモエは降り立った。
「うわボッロ!」
……そんな歴史ある教会を以ってしても、学生の価値観はこんなものである。
「声が大きいって! ……敵とか出てきたらどうするつもりなのよっ!」
「ははっ! そんなの、俺がこの鬼切丸でぶっ倒したら良いだけだろっ! 」
黒い学ランの上に紺色のブルゾンを羽織っているショータの腰には、専用のベルトに挟まれた、黒い鞘に収まる禍々しい刀が一本ある。
ショータが初期武器に選んだのは≪異世界武器:刀≫
勇者・賢者・聖人(聖女)が選ぶ初期武器は特別仕様になっている。
ある手段で特別な素材を入手出来れば、進化させる事が出来るのだが……今この場では、割愛する。
「……はぁ。念の為って言って、神様がポーションやエーテル多めにくれたけど……ここはゲームじゃないの」
「……だから?」
「……攻撃されたら痛いし、下手したら死んじゃうのよ? もっと、ちゃんとして!」
モエはセーラー服の上から茶色のポンチョタイプのコートを着用。
彼女は右手に持った賢者の杖をショータに突き付け、睨み上げた。
魔法使いらしく、モエは初期武器に≪杖・棍棒≫を選択していた。
「うっ……分かったよ……」
その後、ショータとモエは道なりに進み、町民達に話しかけると恭しく案内されながら冒険者ギルドにやって来た。
「この時をお待ちしておりましたよ、勇者様!」
アルバの町、ギルド長兼町長であるハルパは汗を大量に飛ばしながら勇者一行を出迎えた。
何でも≪ユートピア≫の王都、エイデン城に住まう高名な神官から勇者来訪を伝えられていたらしい。
神のお告げがあった。迎える準備をせよ、と。
ちなみに、アルバの冒険者ギルドは2階建てで、入り口に扉はなくそのまま入れる仕様になっている。
1階には受付カウンター3つと買取カウンター1つ。
そして採取・護衛・討伐・緊急依頼に分かれたボードが左右の壁に取り付けられている。朝一番に依頼を受けたのか、冒険者の数はまばらだった。
ショータ達は2階にあるハルパの部屋に通され、ソファに座りながら色々と話を聞いていた。
「そのお告げの中に、此度の勇者一行には聖者が居ない事も含まれておりましたので! このハルパ、近隣で活動していた聖魔法持ちの冒険者達を近くの宿に集めておきましたよ!」
ハルパの話によれば、何代か前の勇者一行も聖者が居らず、このアルバの町に居た聖魔法持ちの冒険者と共に旅立ったらしい。
それゆえの提案だった。
ハルパの勢いは物理的にも暑苦しいが、この提案自体はショータとモエにとって有難い事だった。
ショータは回復役が居ない事を気にしていたから、特に。
それでも、やっぱり暑苦しい。
「…………う、うん。ありがとう」
ショータは、引きつる頬のままそう答え。
「今っお呼びしますかっ!?」
「…………お、お願いします」
モエも、似たような顔で……それでもまぁ、何とか微笑んで答えた。
ショータとモエは、汗と頭頂部を輝かせながら部下に命じる事なくギルドを飛び出して行ったハルパを見送り。
ほんの少しの不安と、非現実的な何かを期待して心を揺すぶりながら。
ショータとモエは、こうして異世界での生活を始めた。
今回は短いので連続投稿します。
明日の朝6時予約投稿してます!
追記
内容はほぼ変えず少し書き直しました。




