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15

 



 ディルムッドさんの奇行に、皆あわあわしていたけれど。



「……マイは、……俺の……っ」



 その真っ赤な顔と言葉1つで、私はどうでも良くなった。



「……それは……もしかして、私をお嫁にしたいって事ですか?」


「……っ」



 見上げた私に、ディルムッドさんは真っ赤な顔で何度も頷いてる。



「……恋人通り越して……私の家族に、なりたいんですか?」


「……!」



 うん。首がもげるんじゃって心配する位頷いてくれる。



「……私達、昨日出逢ったばかりなのに?」


「……」



 私を抱き締める腕に少し力を込めながら、ディルムッドさんは大きく頷いた。



「……言葉にしてくれるなら、私も考えてあげますよ。ぇっと………………ディル?」


「っ! ……ぉ、……俺、の……家族に、なって?」



 そう言いながら私の頭にほっぺすりすりしてくる。

 ……ぁああああ可愛すぎる、この虎にゃんこ!


 私の顔もでろでろに緩んじゃうの、しゃーないやん!!!



「……ふふっ。どうしよっかなぁ〜!」


「ふにゃっ」


「「「「「え、ぇえ〜っ!!?」」」」」




 うんうん。私もびっくりやね。


 異世界で一晩過ごしたら、メルヘン通り越してまさかのファミリーゲットだよ。




 それから、宿を貸し切りにしてのどんちゃん騒ぎ。


 何と皆さん、ディルムッドさんと同じ故郷出身らしく。

 私達の事なのに、我が事のように喜んでくれました。


 お酒に弱かったディルムッドさんを双子が早々に潰してからも騒ぎは続いて……続いて。


 慣れやお酒の力もあったのか。

 私は猫目のお月様が天辺に来たのを確認してから、ディルムッドさんが借りている部屋の中、彼と同じベッドの中に潜った。



 ……今夜は、殆ど眠れないだろうなぁと思いながら。







 そして、多分……朝。

 目覚めて最初に目にしたのは、私にくっ付きながら頭に頬を擦り付けうにゃうにゃ寝言を言ってる可愛い人。


 うん。鼻血出そう。



「……おはよう、ディルムッドさん」


「……にゃ…ぅっ………………おはよう、マイ」



 背と尻尾を猫の様に伸ばしてから起き上がったディルムッドさんは、私を見て…………安心したように尻尾をゆるく揺らして「にぱ〜」っと可愛く笑ってくれた。



 ……私も貴方に、ちゃんと笑っておはよう言えてるかな?







『ディルムッドには、もう家族はおらんのじゃ』


『あいつが5歳の時に、私らの住んでた村がモンスターの群れに襲われてね……私の子供も、旦那も……こいつらの嫁さんや親も。みぃんな食われちまったのさ』


『……ディルムッドは、本来なら7歳で行われる教会での振り分け儀式を、……その場で無理矢理行ったんだ。食われていく家族を、村の皆を助けようとして……彼の幼かった体に、心に……どれ程、強い負荷があったことか……』


『……しかもディルムッドの奴、≪陽動≫なんてクズスキル、取りやがってよぅ……ぐすっ。自分に、モンスター惹きつけて……俺らの事、ひっく……守ろうって……多かったポイント、無駄遣いしやがってよぅ……』


『俺達、そん時まだちっさくてさ。覚えてる事少ないけど……モンスター討伐に来た、国の軍人達が到着するまで……ディルムッドが、俺達の盾になってくれてた背中は覚えてる。……っディルムッドのお陰で、俺達生き残れたんだ!』


『…………お願いだよ、マイ。どうか…………』







 ディルムッドさんが酔い潰れた後。


 皆からぽつぽつと語られる話を聞いて。


 ……私は、決めた。




 ディルムッドさんに、私にしか出来ない事があるって分かったから。


 決意を新たにしてから、私は彼の美しい金色の瞳を見た。



「……あのね、ディルムッドさん」


「う、……ディルが、いい」



 あ、やめてやめて寝起きの顔で潤んだ瞳と甘々ボイスはやめて決意がひび割れてそこから血吹くからっ!



「げふんっ……あ、ごめんなさいまだ慣れなくて。……えっとね、私、ディルにお願いがあるの。これは…………()()としての、大事なお願いなの。……聞いてくれる?」



 私の言葉に、ディルムッドさん改め、ディルは大きく頷いてくれた。



「ありがとう。……まず1つ。めんどくさがらないで、ちゃんと言葉で物事伝えて下さい。頷くだけは、禁止です。……ディルの声好きだから、私が聞きたいの」


「!?」



 あ、顔真っ赤。可愛い。



「2つ。2人っきりや気心知れた人の前なら良いけど、よそ様の人目あるところで膝の上に乗せる様な過剰なスキンシップは禁止です。……手を繋いだり、腕組んだり……尻尾腕に絡めるのまでは、まあ、許します。それ以外は、2人っきりの時だけです」


「!?」



 あ、ちょっとしょんぼりした。かあいい奴や。



「3つ。…………モンスターや、敵と戦う時。何かの拍子に、私が側を離れていても……その目に、私の姿が映っていなくても。ディルは不安にならず、全力で戦って下さい。……だって、私は絶対に()()()()から」



 私の最後の言葉に、彼はその美しい金色の瞳を潤ませたのが分かった。



「っ……ほ、ほんとぅ?」


「本当です。だって私のスキル、どんな攻撃だって防げる≪結界≫Maxなんですよ?……仮に、相手が凄い強敵でも、耐え抜いてみせる。そうしたら……私が、身を守ってる間に……ディルが助けに来てくれるでしょう?」


「…………うんっ! 俺、マイのとこに走ってく! ……マイ、大好き!」


「ぶぐふっ」


 感極まったディルに押し潰された私は、彼に落ち着いてもらおうと背中を必死に撫でた。


 た、体格差考えてっ!

 潰れちゃうっ私潰れちゃう!


 筋肉は重いねんで!!?



「……ぅ、うん。待ってるね」



 それでもあったかい体が離れてしまうのは悲しいから、我慢しててんけど。



「……あ、そう言えば忘れてた」


「?」



 私はディルの下から何とか這い出て、ベッドの上で2人向かい合って座り直した。



 いやいや。私、大事な事言うの忘れてたわ。



「えっと……私ね。私の作ったご飯を、美味しいって笑顔で食べてくれる……可愛いディルが大好きです」


「!」


「不束者ですが、これから宜しくお願いします!」



 ぺこ、と三つ指ついて頭を下げれば。



「っ…………ぉ……俺も、……マイ……ずっと、好きぃ」



 マタタビ咥えた猫みたいにメロメロに感極まったディルに、私はまた抱きつかれて頬をぺろぺろされまくった。





 うん。知ってる。


 でもディルの好きは、……私の好きとは、きっと違うんだろうね。





 不思議な程、舐める(その)行為に性的な意味合いが含まれていない事が、未経験の私にも分かったから。







 それはまるで、親猫が子猫を可愛がる様に。


 それはまるで、子猫が、親猫に甘える様に。








『…………お願いだよ、マイ。どうか…………幼いまま、心の時間が止まってしまったあの子の側に……』




 悲しい出来事の後。


 ディルは軍人と共に討伐に来ていた、ユートピアの第一王子に気に入られた。

 そして王子の力添えもあり、幼いながらもディルは城で軍人としての教育……15歳で成人を迎えた日からは任務の日々を送っていたらしい。



 時々聞こえてくる、生きる伝説並みの噂話を肴に。

 アニスさん達生き残った人々は心配する傍ら、喜び合っていたんやって。



 そんなある日。

 ≪ユートピア≫の白虎(ホワイト・タイガー)……ディルの通り名やったらしいねんけど、兎に角彼が軍を辞めた、との噂話を聞いてしばらく。

 アニスさん達はディルと、サルーの町で久し振りの再会を果たした。



 そしてアニスさん達は、彼の異常に気付いたらしい。



 真っ白で優しく、純粋で……ディルは姿こそ成長していたけれど。

 その中身は、アニスさん達の記憶……思い出の中そのままのディルが目の前に居たんやって。




 そう。

 彼のその心は、幼い当時……5歳のまま。




 ……そういう人も、まあ、居るのかも知れん。


 でも、子供っぽい人で済ませられない程に……ディルの心の成長は止まったまま、世の常識を知識として取り込んでいるのに、それが使えていない状態らしい。



 ディルは人の言葉を鵜呑みにしてしまう……だからどんな言葉でも、信じて騙されてしまう。


 情緒的部分が、全く成長出来ていない。



 体は大人、頭脳は子供。

 ……なんて笑えない話。



 強引に振り分け儀式をした代償なのか、モンスターに両親を奪われた心の傷からなのか……あまり、考えたくないけど。


 ユートピアの軍人達が特殊な育て方をしたのか……アニスさん達にも、それは分からない。



 当時、まだ3歳だった双子と共にディルを引き取るつもりだったアニスさん。



 でも王子様の「彼の力は、人々を守る為に有るべきだ」という言葉と……幼いながらも、両親の死に涙こらえるディル本人が王子様と共に行く事を決めたから……手放した。



 アニスさん達、生き残った大人組は……どうしてあの時、自分達の手でディルを育てなかったのか。


 それを、彼等は今でも悔やんでいる。




 再会してからは医者を頼り、薬を頼り、色々試してみても。

 ディルの心に、成長の兆しは無かった。



 実力だけがうなぎ登りし、不釣り合いに強くなっていって……そのアンバランスさに、アニスさん達が危うさを感じていた時。




 私が、ディルの前に現れた。


 彼の……()()として。





「…………ディル。大好き」


「っ……うん、嬉しい! ……俺も、マイ、好き!」




 うん。むぎゅっと抱き締められるのも……甘い声で好きって言われるのも、凄く嬉しい。


 うん。……嬉しいのは、本当。

 今は頭の中が複雑過ぎて、言葉に出来ないけど。



 彼の「好き」は、おそらく親子の間にある親愛であって……男と女の、恋慕ではない。



 ディルはどうしてか出会ったばかりの私に、誰がどう見ても愛情を持って接している。


 これはアニスさん達の望んでいた変化であり、心の成長に繋がるんだと……出逢ったばかりの私でもそう思う。




 いつか。


 彼が()()()()()()()、誰かにホントの恋をする。



 その相手は……このまま、側にいる私かもしれんけど。

 ……私じゃない可能性も、結構あるよね。



 だってお世辞にも私、美人とは言えんし。

 年齢特有の肌荒れは、化粧っ気無いお陰でちょっとはマシやけど……どこにでも居る、ふっつーの日本人顔やし。

 ……それに、ペチャパイやし?(涙)



 食事は気に入ってくれてるから、この感じやと母親……姉的存在に思われてるんやろなぁ。



 だからその時が来たら。

 私は母として、姉として……()()として。



 ……愛しい彼を、見送らないといけない。



 強くて、優しくて、可愛いくて、騙されやすい、まっさらな……無自覚に、残酷なこのひとを。



「…………マイ?」


「…………大丈夫。これ、嬉し涙だから!」



 舐める頬にしょっぱさを感じてか、ディルが不思議そうに首を傾げたのが何となく分かった。

 何となくなのは……私の視界、今ちょっと悪いからね。


 ……嘘ついてゴメンね、ディルムッドさん。


 皆から貴方の話を聞いて、私……貴方の事がめっちゃ好きやなぁって思っちゃった。


 もう、軽口でメルヘンゲット、とか言えないくらい。


 なんでかな……私自身の幸せより、貴方の幸せ優先出来る位には大好きやなぁって思っちゃった。




 きっと、これから大人になっていく貴方の事も。

 私はめっちゃ好きになると思う。




 だから貴方が、これから他の誰かを愛しても。


 ……お別れの日まで、私を大切な家族として側に置いてね。ディルムッドさん。



 貴方が可愛く、幸せに笑える様に……出来る事はするから!





今回も連続投稿します。

明日の朝6時です!



追記

内容はほぼ変えず少し書き直しました。

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