13:ディルムッドサイド1
本日の投稿は題名の通りディルムッドサイドのお話です。
ほぼ初めてな第三者視点で書いてます。
それでも宜しかったらどうぞ。
『さあ。望みを言え、強き者よ』
ディルムッドが人の国≪ユートピア≫の軍を辞め、隣国でもある獣人の国≪デカラビア≫に移り、サルーの町を拠点に冒険者稼業を始めてからおよそ半年。
同郷の仲間達とも再会して、冒険者稼業にも慣れた頃。
ディルムッドはギルドから、ある依頼を受けた。
それは、ある闇の精霊がストレス発散に暴れたいらしいから、強い者を寄越せ……という緊急依頼だった。
これは教会からの緊急依頼。
つまり神からの信託、精霊の試練と同義である。
そんな馬鹿な理由で、と誰かは思うだろう。
しかし放っておくと、明日にでも町の1つ2つが更地になる……そういう歴史が少なからず存在する。
ギルドは、必死になって適任者を探した。
そうして、期日に現地に向かえる人材の中。
闇属性(耐性)は持っていなかったが、実力は申し分ないとしてディルムッドにこの依頼は託された。
Aランクダンジョン≪ヒヒの森≫には、秘密の地下洞窟がある。精霊は、そこで待っていた。
丸2日、闇の精霊と死闘という名の遊びに付き合わされたディルムッド。
彼は誰ともパーティーを組まず、独り戦っていたのだ。
出発前。
同郷でもある双子の冒険者が一緒に行く、としがみ付いても。
彼は千切っては投げ千切っては投げを繰り返して同行を拒否していた。
「「なら、生きて帰らなかったらぶっ飛ばすぞっ!!?」」
(こくこくこく)
「「いやそこは声出せよ!!?」」
「……にゃう!」
「「人語で返事しろやぁ!!!」」
……その激励があったからか定かではないけれど。
装備はボロボロになったが、ディルムッドは彼等との約束通り、五体満足で生き残った。
『闇の耐性を持たず、よくぞここまで耐えた。ふむ……このままポイントを渡すだけで帰すは、我の矜持に障るな。……さあ、望みを言え』
疲れて膝をついたディルムッドの前に、そう言いながらソレは立っていた。
継ぎ接ぎだらけの黒い中華風の民族衣装を身に纏う、地面につく程の黒い長髪を三つ編みにした20歳前後の男とも女とも呼べる美しい容姿の……闇の精霊グリード。
2日間の激闘を繰り広げて血の一滴、汗ひとつ垂らす事なくグリードは存在していた。
そして、話は冒頭に戻る。
「…………っ、……人を、もう襲わないで。……食べる、訳でも……生きる為でも、ないのに……ただ、殺すなんて……しない、で」
ディルムッドは荒い呼吸そのままに、最初に浮かんだ望みを口にしたが。
ディルムッドの言葉に、グリードは整った美しい眉をひそめてしまった。
『ぬ? それはお前の矜持……道徳の問題だ。お前の欲望から来る望みではないぞ?』
「…………無理なら、いい。いらない……」
『……むぅ。我はグリード……強欲こそが力とする存在であるぞ。欲の無いヒトなど、この世に居ない。……力か。金か。名声か。……それとも、女か? 口に出さぬは、お前の矜持と道徳が邪魔をしているだけだろう? 何でも良い、申せ』
「……? ……特に、無い。いらない。……また暴れたく、なったら……俺を呼んでくれたら、それで良い」
『………………ふむ、そうか。我が申しておるのに望みを口にせぬなら、仕方ない。……お前が拠点としている町に遊びに行こうか』
「っ!!!」
ディルムッドの尻尾は大きく膨らみ、絶望を乗せた顔でグリードの笑顔を見つめた。
『ん? やっと言う気になったか?』
「なっ…………なんで、そんなっ……」
『ははっ! ……お前が対価を受け取らんからだろう。これが、精霊と渡り合った者の定めと理。受け取るが道理! さあ、さっさと望みを言え!』
「……………………の……望み…………っ、急に……わ、わから、な」
『ぬぅ……ん? お前…………なんだ、図体がデカイだけか? ……仕方ない、か』
「……?」
『こんな時こそ、神頼みよ』
ぱちん、とグリードが指を鳴らせば。
『……ん? 呼んだか?』
『ご機嫌麗しゅうございます、我らの創造主よ。……1つ、知恵をお借りしたいのです』
「!!?」
そうして、ディルムッドとグリードの目の前。2人見合っていたその間に。
全てが白く輝く、幼女が現れ微笑んでいた。
今回も連続投稿します。
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