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お久しぶりです
予定より少し遅れましたが、よかったら暇つぶしにどうぞ
「ルシファー、重くない?」
『るるぅ、ルシファーおっきくなったの。まだまだ大丈夫なの』
サルーの町を出た私達は素早さ重視、特に私とサーリーの体力を温存する為に『聖域』までの道のりを成長したルシファーの背中に乗せてもらう事にした。
ディルとアオツキちゃんを肩に乗っけたノーランは、体力有り余ってるんで《ゲイル》を使って素早さUPさせながら低空飛行するルシファーと並走する予定やってんけど……。
「……ありがとうルシファー。オヤツに林檎、いる?」
『食べるぅっ!』
「……セイロンも、食べる?」
「あっありがとーやったねセイロン!」
『……ファレン、私はまだ腹は空いてぃむが』
光の加減で虹色にも煌めいたりする白銀の龍の口に優しくポーンと放り込まれたり、オレンジ色のドラゴンの口へは風の魔法を利用して問答無用でねじ込まれた林檎。
そして周囲に響く、ごりゅんごりゅんごりゅと芯ごと噛み砕かれる音としゃりしゃり咀嚼される音。
私、サーリー、ディルを乗せたルシファーと。
ノーラン、アオツキちゃん、……そして黒髪ツインテールのピクシーであるファレンちゃん達を乗せたオレンジ色のドラゴン、セイロンさんと共に私達はオヤツの林檎片手に『聖域』を目指して空を駆けていた。
――――――――――――
私達がサルーの町を出発して少し。
最初、町の方角からオレンジ色の物体が飛んでくるのを闇の精霊ラースさんが気付いて、早速来たかと全員が警戒体制に入った次の瞬間。
「おっ、追いついたーーっ!!!」
まだ距離がある筈やのに手のひらサイズの妖精、ピクシーであるファレンちゃんの半泣きでの甲高い雄叫びが周囲に轟いた。ああ、ディルがめっちゃ渋い顔して虎耳を押さえちゃった。
うん。ちっさな身体でこのパワフルさ。ファレンちゃんの愛らしくも綺麗な声はほんま、周囲にめっちゃ通るね。
オレンジ色のドラゴンは地面に降りた途端、淡い光に包まれて……現れたのはオレンジ色の長い髪、緩い三つ編みにしたエルフの男性であるセイロンさん………………うん。初めて会った時よりなんか豪華で優美な印象受ける白系の中華っぽい服、着てるな。着てるよな?
……ドラゴンの時、どう考えても服着てないねんけど。素っ裸ではないんか?
「にゃっ!!?」
「お、珍しいの着てるな」
ディルとノーランがセイロンさん見て感心して……いや、ディルはちゃうな。ものごっつ欲しそうにゴツゴツした手甲とブーツ見てる!
普段装備してる大剣とか槍とかそっち系ばっかやと思ってたけど、ディルは武器なら何でもええんかな!?
「す、すごいチカチカしてる服だぁ……」
『るるぅ、魔力だけで作った服すごいの!』
「えっ魔力だけ!?」
あの服も装備も、革や布、鉱石なんかを使わず全部魔力でって意味!? そんな事出来んの!!?
……そういえば、確かサーリーは魔力を色の粒で認識出来るって言ってたな。オール魔力の服って事は、もしかしなくてもサーリーにはド派手なカラフル装備に見えてたりするんかな?
「そうなの! 凄いでしょ凄いでしょ! 私の力作なのよ!!!」
「え」
その言い方はもしかせんでもファレンちゃんが作ったん……?
「「「「性能、大丈夫?」」」」
「失礼過ぎない???」
セイロンさんに向けての私、ディル、サーリー、ノーランの揃った気遣いの言葉でファレンちゃんが虚無った表情になった。はいごめんなさい流石に失礼やった。
「はぁ……ファレンは粗忽者ではあるが、竜の巫女として確かな実力がある。これ程の神具を創り上げられる者は2人と居ないだろう」
『るるぅ〜すごいねぇ』
……ちょっと。ちょっとちょっと?
セイロンさん、私にツッコミ入れてほしい?
色んな所にツッコミ入れてほしい???
私の脳内処理が追い付く前に、セイロンさんの言葉で復活したらしいファレンちゃんがサーリーの顔真ん前まで接近して……。
「そもそもサーリーが、私達のお願い聞く前に旅立つから悪いのよ!?」
「あっ! 忘れてた!」
その言葉と、ファレンちゃんがサーリーの左頬の大きめの絆創膏をべりっと剥がしたのは同時やった。
「あっ!!!」
時すでに遅く。
サーリーの左頬には白い線で縁取られた正三角形、その中に三日月と葉っぱを模様にした刺青の様な綺麗な痣がある。
これは、サーリーが既に亡くなったルシファーのお母さん龍の元主……私達だけが知ってる、今も何処かで転生を繰り返しながら神の罰を受けている最中であろうサタンの娘である証。
そして私達以外からすれば、サーリーが魔の国デスペリアに深い関わりがあるって証拠になっちゃう代物。なんせ国旗の図柄やし。
サーリーの頬を確認したファレンちゃんは、そのままサーリーに少し近付いたセイロンさんの肩に座り。セイロンさんも一定の距離あけたまま片膝付いた。
……ついさっき、ガルガディア王に挨拶したディルとノーランみたいに。
「……その頬の紋章……その魔力……やはり、古のデスペリア王家の末裔だろうか」
「っえ! こ、これの事知ってるの……?」
セイロンが近付いた時点でラースに抱き上げられたサーリーは、鱗まみれの腕に抱き込まれながら驚いてる。
セイロンは静かに頷き、セイロンの肩の上のファレンちゃんも先程までの賑やかさが消え去ってる。表情が強張って……緊張してる?
「……我らの祖国デスペリアには、不可侵の城と呼ばれるダンジョンがある。ランクは最上のSSS……今は誰も入る事が出来ない、未知数の場所だ」
「……噂、聞いた事ある。デスペリアにはどんなカラクリなのか、誰も門扉に触れられないダンジョンがあるって……その城周辺地域だけでSランクのアンデッド系モンスターが彷徨いてるから……もし《不死王》が復活してるなら、そいつの棲家最有力候補って…………にゃ?」
ディルが思い出しながら口にした言葉に、私もノーランも眉間に皺が寄った。
……そうや、忘れてた。
この世界に来て最初の頃、サーリーと出逢ったあの頃にディル……正確にはフェールさんに教えてもらったんやったか。
『……ずっとずっと、遠い昔の話なんだけど……病死してしまった自分の妻を、生き返らせようとしたダークエルフが居たらしい』
『上位の回復魔法は、失った腕や臓器を復活させることは出来ても……命までは、取り戻せない。だから一族の誰よりも魔法に長けていたそのダークエルフは、魔法の研究にのめり込んでしまって……』
『……自分が、≪不死王≫ってモンスターになっちゃったんですか?』
私はゾッとした。
だってつい最近、似たような話を私は……私達は聞かへんかった?
不死……死なない、死ねない。
例え死を望んでも、死んだら強制的に産まれてくる。産まれてきてしまう。
これはサーリーの父親、サタンその人の話なのでは?
「……知っているなら、話は早い。…………その不可侵の城に《不死王》は居る」
「……え?」
「私と、当時幼かったファレンは見たのだ……あの城に、招かれる様に開いた門扉に向かう……実在していたダークエルフの姿を……」
「これ、デスペリア国上層部のトップシークレットなんだけどね。……国内ではダークエルフって種族はもう滅びたって言われてたのよ」
何せここ数百年もの間その姿を確認していなかったから、とファレンちゃんは続けた。仮に隠居生活送っていたとしても、ここまで姿を見せないのは何かあるって考えられてたらしい。
「私達が護衛のヤツカ達とデカラビアに来たのは個人的な事もあったけど、外部でのダークエルフに関する情報を集める為……こっちではまだダークエルフは強くて珍しい種族って認識だけで、……でもサーリー。幼い貴女がサルーの町に現れた」
「……サーリー。今一度、聞く。……お前の両親は、何故亡くなった?」
『るぅ!』
「ちょっと待ち!」
そんなデリケートな話、突然始められてもサーリーが困るし悲しいの思い出すやないか!
サーリーを抱き抱えてるラースさんの前に私とルシファーが身を乗り出せば、その前にディルとノーラン2人も立ち塞がる。
「……サーリーの養い親、俺とマイ」
「その養い親の義兄弟って事で、俺もお話し合いに混ぜてくれよ」
話し合い、と言いながら2人の殺気が凄まじい。
「皆、大丈夫だよ! ……ラース、下ろして」
「……、……このままでは、駄目、か?」
「うん。……でも手だけ、繋いでてくれる?」
「!」
高速で頷きながらサーリーを下ろしたラースさん、手を繋げてめちゃ嬉しそうやな。
……こうして見ると、首飾りよろしく首に巻きついてたらしい甘えん坊な蛇型精霊の名残を感じるな。
「サーリー、いいの?」
「うん。この2人には私の事、知ってほしい。……ファレンちゃん、セイロンさん。……私は、千年前に魔王って呼ばれたサタンの、娘です。……私もね、本当に最近知ったんだけど……父様のスキルで永い、……本当に永い間、眠ってたらしいの」
サーリーちゃんの言葉に、セイロンさんとファレンちゃんは驚いた様に目を見開きながらも納得した様な雰囲気や。
「……成程、それなら滅びたと言われていたダークエルフが突然現れたのも、納得だ」
「うんうん!」
「……信じて、くれる?」
「勿論!」
「……緊急依頼が来る前、遅れていた本国からの連絡があった。不可侵の城周辺で、ダークエルフの子供らしき姿が多数目撃された、と……サーリーが眠っていたのは、不可侵の城だったのではないか? ……そうだとするなら、デスペリア王家の血筋でなければ開かれないと予測されていた門扉を通過出来たのも、Sランク相当のアンデッドモンスターがサーリーを見逃したのも納得するというもの」
「……ぁあ〜……それは……えっと〜……なんでかなぁ?」
サーリーの困った様な声に、私も複雑な気持ちになった。
……そうやんな。サタンがその不可侵の城っていうSSSダンジョンに居るなら。
理由があって会えなかったんかもやけど。そりゃ自分の配下にサーリーを攻撃させようなんて思うわけないもんな!
「……そもそも、セイロン達はどういった立場なんだ? デスペリアの軍人なのか?」
ここまで無言を貫いてたアオツキちゃんの言葉に、片膝ついてたセイロンさんは立ち上がる。
「……言ってなかったか?」
「もう! セイロンの話が長いからよぉ! 王様なんだからもっとしっかりしてよねっ!!!」
「……はぁ。ファレン……」
え? なんて?
おうさま……王様?
……セイロンさんがデスペリアの、王様???
「いやなんで緊急依頼受けてんのーーーっ!!?」
てか王様最前線に居ませんでしたかねーーーっ!!?
そんな訳で、お偉いさんとの語り合いパート2に突入します
ちなみに何故サーリーが困ったような声出してるのか
91:サーリーサイド2
を久しぶりに見ると理由がわかります
だいぶ昔過ぎて、読んでくれてた方々も忘れてると思うんで。伏線回収がんばるぞー