140
季節のイベントで忙しい為にやっぱり遅くなりましたが、誰かの時間潰しになっていたら嬉しいです。
マイ視点で進みます。
はてさて。
朝から踏んだり蹴ったりで泣いてるリカルドさんに連れられ私達は今、ギルドにあった水鏡の部屋へとご案内されました。
いやー……なんでも朝早くに連絡があったらしくて。
『朝からすまんなぁリカルド。我が国の白虎と暴れ龍が其方に居ると聞いて、どうしても顔を見たくてな』
水鏡の少しの揺らめきの向こう側。
壁に流れる水面越しでも解る、高級そうな赤いベルベット生地の2人掛けソファに1人足組んで座ってる男性。
明るい茶髪に威厳を感じる厳しい顔には顎髭が似合ってる。シックながらもこれまた高級そうな貴族服姿なのに、何故かフレンドリーさを感じてしまう……人の懐に入り込めそうな雰囲気を纏う、なんとも為政者らしい人物。
≪ユートピア≫現国王、ガルガディア・フォン・ユートピア。
ユーリ王子の父親にして、ディルとノーランの生まれ故郷の王様が2人を一瞥してから探る目線で私達を…私とサーリーを見下ろしてる。
ディルと精霊の双子、その片割れであるアオツキちゃんはノーランの背中にしがみついてて、ガルガディア王に姿は見えてないと思う。
王様の姿を確認した瞬間、私とサーリーを庇う様に一歩前に出たディルとノーランは、片膝付いて頭を一度下げてから顔を上げた。
「「お久しぶりです、ガルガディア王」」
遅れながらも私とサーリーも片膝着いて頭を下げ……ん? あれ王様相手とか貴族相手への挨拶って許可もらってから頭上げるとか、ちゃうの?
ディルとノーランすぐ顔上げてたような?
まぁ私も漫画や小説で仕入れた知識やねんけど? あれ?
私のちょいとしたオロオロな雰囲気を感じたんか、水鏡の向こう側でくつくつって小さく喉奥で笑う音が聞こえてきた。
『やめろやめろ、堅苦しいのは好かん。リカルドからは凡その緊急依頼の顛末は聞いている。……ディランはやっと月に、否アイシャルーディの元へ向かったか』
ディラン、の所で悲しそうに…懐かしそうに目を細めるガルガディア王に、確か友人関係やったって話を聞いた事を思い出した。
その縁で、両親を失ったディルを城に連れていったって話やった筈や。
『ディルムッド・ホイール』
「はい」
『今この時、空に輝く沈まぬ太陽の原因を知っているか』
「はい、これから家族総出で問題を解決する為、旅に出ますのでご安心下さい」
ディルの流暢な語りにガルガディア王はやっぱり喉奥でくつくつ笑いながら一つ頷いて、視線だけをディルからノーランに移した。
『ホーク家は忠義深き一族。その血を色濃く受け継いだであろう男が間違いを犯すなど…ましてや弟の様に可愛がっていた友を傷付けたなど、我が部下どころか城下町一同、殆ど信じなくてな』
苦笑するガルガディア王と、自然と満面の笑顔になるディルとサーリー、あと機嫌良く尻尾振り出すルシファーが視界の端っこに映る。
皆、どんだけノーラン好きやねん…まぁ、そんな私もニッコニコになってる気がしなくもない!
ノーランだけが困惑してる! ホンマに鈍感やな!
「は、はぁ」
『全く、どちらが王なのか疑いたくなる程に民衆の心を鷲掴みおって……今からでも、アメリアの所に戻るか?』
その言葉にディルは一瞬でしょんぼりした顔になり、ノーランの背中にしがみついてるアオツキちゃんの雰囲気が殺伐としたモノに変わる。アオツキちゃんの変化に気付いた、いっちゃん後ろに居たリカルドさんが「ひえっ」て怯えた小娘みたいな声出してる。
アメリアって名前……確か、ノーランがお仕えしていたお嬢様、やったかな。
私がそんな事考えながら後ろからノーランの横顔見詰めてると、一瞬だけ視線が私達に向けられ。
でも何も言わず、ノーランはそのままガルガディア王に視線を戻した。
「有難いお言葉頂けて嬉しく思いますが、今は戻りません。……昔馴染みと番ったんで、俺のお嬢様への敬愛で不安にさせたくありません」
「「「「『つがっ……!?』」」」」
私、ディル、サーリー、リカルドさん、ガルガディア王の息の揃った驚きに「何でお前らも驚いてんだ」の顔を浮かべてこちらを見るノーラン。その背中には真っ赤になって喜ぶ、聖属性の精霊さん! 喜んでる場合か!!?
その言い方やとなんか、なんか……もしかせんでも、ノーラン手ェ出したんかっ!?
あんなマシュマロボディなぬいぐるみサイズやのに、ノーラン手ェ出したんかっ!!? 手ェ出されたんかアオツキちゃん!!?
「そんなケダモノに育てた覚えはありませんっ!!!」
私の雄叫びに、ノーランはむすっとした顔で不満そうにしてる。
「育てられてねぇけど……なんだよ、いいだろちょっと舌入れながら口吸うくらい」
「詳しく説明せんでいいし! やっぱ視界が犯罪や!」
『視界が犯罪になる相手』
あっ、ガルガディア王の顔が政治家とかの偉いさんの顔から虚無った顔に!
私が1人焦っていると、ノーランの背中にくっ付いてたアオツキちゃんがフワリと浮き上がり、ノーランの肩にちょこんと座った。
それを見たガルガディア王は目を見開く。
『まさか、番った相手とは……』
「僕からすれば久し振りなのだが、王からすれば初めましてが正しいだろう。僕はアオツキ。ディルムッドの双子の精霊であり、この世界唯一の聖属性の精霊。そして、…………の、ノーランのっ、つ番だ!」
「すごく嬉しそう」
『るるぅ』
うん、最初威厳ありげに頑張ってたのに後半で喜びが天元突破した『番』発言でニッコニコになっとる。サーリーとルシファーが微笑ましく見てる。
『精霊の双子……聖属性の……』
ガルガディア王は自身の中でアオツキちゃんの言葉の衝撃を何とか噛み砕いてる最中らしく、視線を此方に向けずにぶつぶつと独り言を続けてる。
でもすぐに何度か頷いた後、多少の混乱はまだあるやろうに此方に視線を戻してくれた。
『聖属性の精霊殿、名をアオツキと申されたか』
「そんな畏まって呼ばなくていい。王は知らずとも僕はディルと共にユートピアで暮らし、その姿を見てきた。……それに僕はディランを父と呼べず、対等の友として接していた。ガルガディア王、貴方同様に」
その言葉にハッとしたように目を見開いたガルガディア王は、政治家の顔から……やっぱり何処か懐かしそうな、寂しそうな顔で頷いてる。
『……ああ、そうだ。ディランは言っていた。我らが共に戦ったあの最後の日にも“俺には親友が2人居る”と。……だから心置きなく戦えるのだと』
「そうか……“大地の炎と青い光、どちらも心強い我が親友だ”とかも、言っていた?」
その言葉を聞いたガルガディア王は、アオツキちゃんの言葉に頷いてから破顔した。
『いつか…………いつか、話に出てくるディランのもう1人の友が、我が城に訪ねてきてくれるのではないか、と。あの戦いで死んでいなければ、ディランの忘れ形見でもあるディルムッドの近況を知る為に訪れるのではないかと。……もし叶うなら、成人したディルムッドも交え、今まで言えなかったディランの話を肴に酒を酌み交わせれば、と…………そうか。もう1人の我が友は生きて、こんなにも、こんなにも近くに……』
「……僕も、ディランが話すもう1人の親友と語らいたいと思っていたよ。……でも僕は精霊の双子として産まれて、貴族連中に知られたら、どうしてもディルを危険に晒してしまう。……怖かった。ディランの忘れ形見を、弟を奪われるのが僕は怖くて怖くて仕方がなかった。ディランの親友を信じたくても、貴方は王だ。貴族達の言葉で利益を、国を優先されたら、僕は……」
怖いと言いながら、それでもアオツキちゃんは自信ありげに笑った。
「でも、僕はもう一度ディランを、あの輝く魂を垣間見た。力を利用され、狂わされ、それでも愛と誇りを貫き唯一を護った気高き魂を。……そんな男が親友と呼ぶ者を信じられないなんて、ディランに変な所で臆病者だなって、僕が笑われてしまう! ……やっと、そう思えるようになったんだ」
ノーランの肩に座りながら、その小さな頬をノーランの頬に擦り寄せてからアオツキちゃんはガルガディア王に向き直る。
「ガルガディア王。これからの旅が終わった後、僕達が夜を取り戻したなら家族皆で遊びに行くから歓迎してほしい。そしてどうか、語ってほしい。僕と出会う前のディランの話を。……失敗談だとなお嬉しい」
そんな、笑い滲ませながらのアオツキちゃんの言葉に、ガルガディア王も大きく頷きながら。
それはそれは嬉しそうに笑って応えてくれた。
『勿論、美味い酒と肴を用意しておこう。……我にも、ディルムッドが産まれてからのディランの話を聞かせてくれるか?』
「ああ、約束しよう……本当はずっと、親友に教えてあげたかったんだ。ディランの子育て失敗談!」
そう言って笑うアオツキちゃんは、本当に可愛く愛らしくて。
「…………、」
そんなアオツキちゃんを無表情に無言でガン見してるノーランが、私はめっちゃ怖いです!!!
今のノーランは心が狭いのでしょうがないと思われます。甘んじて怯えましょう。