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「「「「「まあ、どーぞどーぞ!!!」」」」」
「は、はあ……あ、ありがとうございます?」
「???」
宿屋の女将さん、アニスさんに食堂兼酒場に連れられ。
そこに居たお客さん達にも二度見三度見されて席を勧められ。
勝手知ったるなんとやら、ディルムッドさんにはビールっぽいお酒をジョッキで、私にはオレンジジュースをお客さんである双子さんに差し出されました。
犬っぽい白髪天パご老体獣人のポルクさん。
耳が尖ってるエルフっぽい金髪ロン毛美形のフェールおじ様。
人間で私と同世代と思われる、活発そうな茶髪の双子冒険者カールさんとキールさん。
ここの常連さんで、気安い態度で接してるからディルムッドさんとも仲良しっぽい。
アニスさんと合わせて、この5人。
そんな彼等に取り囲まれる、私とディルムッドさん。
困惑気味のディルムッドさんが隣に座っているので、まぁこの状況は彼にも分からないらしい。
……うん。マジで一体何事?
さながら面接官の様に目の前に腰掛けたアニスさんが話しだした。
「お嬢ちゃん。お名前は?」
「は、はい。申し遅れました、私はマイと言います」
周囲のお客さんとアニスさんが視線を合わせ、同時に頷く。
え、何ホントに面接かなんか?
「……そうかい。んじゃあ、マイは何処から来たんだい? 始めて見る顔だけど、……冒険者なのかい?」
「……実は、ここだけの話。私、勇者召喚に巻き込まれた一般人なんですよ」
「「「「「はあぁ!!?」」」」」
「ああ。やっぱり、驚きますよねー」
ディルムッドさんの無言の高速頷きを横目に、私は乾いた笑いを浮かべた。
いや、異世界人だと秘密にするのは簡単だけど……それは私の都合であって、ディルムッドさんにまで嘘を言わせるのは申し訳ない。
それに脳内知恵袋で確認したけど、勇者として来た人達はみぃんな、16歳前後の子供っていうし。
もうすぐアラサーの私なら、神様のうっかりで巻き込まれました、で誤魔化せると思ったんやけど……どないかな?
私はこの5人に、ディルムッドさんにしたのと同じ説明をした。
私の話を聞いて、双子冒険者は近々勇者が現れるという噂を教会関係者から聞いていて何とか信用してくれた。
……それにやっぱり、私の服装は目立つらしいよ。ズボンは見たことない生地で、異世界から来たなら納得するんやって。
「神様の手助けでスキルとかは貰えたんですが、降りた場所が≪ヒヒの森≫で……ディルムッドさんと出会わなかったら私、どうなっていたか……」
私の言葉に双子冒険者の兄、カールさんは顔色を真っ青に染めた。
「え……≪ヒヒの森≫って、ゾンビ化した猿と人食い猿がうようよしてて闇の精霊の住処にもなってるAランクのダンジョンじゃねぇか!」
次に弟、キールさんも半泣きで労わる視線を私に向けてくれた。
「ひ、ひでぇ……こんなお嬢ちゃんに、そんな仕打ちせんでも」
「ディルムッド、よくやった! あんたよくやったよ!」
「……っアニス、せ、背中、痛いっ」
双子の言葉に何度も頷きながら、アニスさんはばっしばっしと力強くディルムッドさんの背中を叩きます。
涙目のディルムッドさん、かあいい。
……得体の知れないヤツって罵るんじゃなくて、純粋な気遣い、心配の言葉と態度が嬉しい。
ディルムッドさんと同じ、優しい人達やなぁ。
「ふふ。お嬢ちゃんって歳でもないですけど……ディルムッドさん。私を見つけてくれて、ありがとうございます」
心からの感謝と笑顔を向けると、ディルムッドさんはきょとんとしてから、猫っぽい八重歯を見せながら破顔した。
「……へへ」
破壊力、ダイナマイト級である。
「「「「「「うぐぅっ」」」」」」
あ、私以外にもダメージあった。
……なんや、そうか。やっぱり世の中の獣人さんは、ディルムッドさんとは違うんや。
彼が、唯一無二の存在なんや!
(何かの宗教に見えるかもですが、そういった事実は御座いませんのであしからず)
「お、お嬢ちゃん、……分かってるじゃねぇか!」
カールさんの言葉に私はしっかり頷いた。
なんやろ。ディルムッドさんの可愛さ共有出来るの、すっげぇ嬉しい!
でも、アラサーの私にお嬢ちゃんはちょっと照れる!
「ふふ。お世辞でもお嬢ちゃんは言い過ぎです。次の春で私も29歳なんで」
「!!!」
「……え、ディルムッドさんどうしました?」
突然ディルムッドさんの尻尾が立ちあがって2倍に膨らんでんけど。
あ、また瞳孔開き気味や……え、そんなびっくりする事あった?
「ぁぅ…………っ」
「え?」
ディルムッドさんの顔、茹でたタコ並みにすっごい赤いねんけど。
てか、めっちゃあわあわしてる。視線きょろっきょろに動かして挙動不審やねんけど。
何で?
ここで、今まで黙ってたポルクさんとフェールさんの2人が、ディルムッドさんの両肩をそれぞれ背後から掴んだ。
「……ディルムッドや」
「にゃ……」
……ポルクさんを見上げるディルムッドさん、困ってるね。
「……こっちに、来なさい」
「…………にゃぅ」
……フェールさんを見上げるディルムッドさん、怯えてるね!
ポルクさんとフェールおじ様と共に離れた席にドナドナされたディルムッドさんを見送り、私の前にはアニスさんのみになった。
双子さんは生暖かい目で私を見てから「「あちゃー」」と言いながら元のテーブルでお酒を飲み始めた。
え。いや、待って。ちょいと待って。
何、皆の、そのやっちまったなぁみたいな顔!
アニスさんに視線を向けると、彼女は驚き通り越して困り果てた顔で私を見ていた。
「あ、あんたそんな歳だったのかい?」
「……そんな、若く見えます? 確かに私の生まれた国の人って、他国では若く見られる傾向にありますけど……」
「若く見えるったって……私らにゃ、子供に見えてたよ。12かそこら辺の」
「えっ!?」
う、嘘そんなに!?
「あんた、小柄だから余計にね……ディルムッドもあの様子じゃあ気付いてなかったっぽいねぇ……あんた、なんか変な事されてないかい?」
これでも私、日本の成人女性から見たら平均身長やねんけど……確かにアニスさんは女性にしては背高いなぁって思ったけど……。
……変な事、なぁ?
「…………………………はい、アニスさん」
私は、挙手して質問しました。
獣人さんとは、男女の性差なく体くっ付けたり抱き締めたり尻尾絡ませたりのスキンシップが激しい生き物なのか、と。
「……………………ディルムッドおおお!!!」
「ふぎゃん!?」
「ま、待ってやってくれぇ! 此奴に悪気は、悪気はなかったんじゃあ!!!」
「そ、そうだ! 頑張り屋な少女を可愛がっていただけで!!!」
「うっさいそこどけジジイ共! 子供相手でもっ、結婚前の女にしたらただのセクハラじゃあ!!!」
「アニスさん落ち着いてぇーっ!!?」
「「こうなると思った」」
丸椅子持ち上げてディルムッドさんを襲うアニスさんを止めるのに、私達(双子以外)はとてもとても苦労しました。
次の話を明日の朝6時に予約投稿で入れてます。
宜しかったらどうぞ!
追記
内容はほぼ変えず書き直しました。




