表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/149

133

 


 キスの嵐の中物思いに耽りかけた私と、ある意味猫化したディルの2人はアオツキちゃんの怒号を聞いてテントの入り口、その向こうへと視線を向けた。……うん、ちっさなアオツキちゃんの背中が怒りに燃えてるのが見える。アオツキちゃん乗せたルシファーの低い唸り声と、闇の精霊ラースさんの不機嫌そうな背中も見える。

 ……いや、何で?



「るぅー! ぐるるぅー!」

「まっ、待って! 待って()()()ちゃん!!!」



 モエちゃんの叫びに幼さ感じる鳴き声が被さる。スキル≪鷹の目≫で視力を良くすれば、怒るアオツキちゃんの向かいにモエちゃんと、そのモエちゃんに縋り付かれたホムラと呼ばれた赤い飛龍、ああ無事に孵化したらしい火龍が……。



「え、でっか!?」



 卵から産まれた赤ちゃん火龍やんな? モエちゃんとあんまり変わらん大きさやねんけど!?



「にゃ、あれ位はまだ普通。……竜種って、親のレベルや大きさで卵のサイズは変わるし、赤ちゃんの大きさも持ってる能力とかでバラバラなんだって……ルシファーと『ちびちゃん』は特別小さい」



 そうやったんや。知らんかった。

 でもあのぐるるって鳴き声、ルシファーの不機嫌ってか威嚇の声に似て……あ、あれか。産まれて来たら目の前に自分以外の竜種、ルシファーが居るから威嚇してんのか!

 ルシファーの居た≪ルルの壁≫行った時も竜種の縄張り争いは激しいって聞いたし。成る程納得やな。



『むー! ノーラン寝てるの! こっち来るならルシファー、ブレス吐くの! 噛んじゃうの!!!』



「「え?」」



 ルシファーの怒りの声にディルと2人、寝転がるノーランに視線を向ける。何でここでノーランの名前が出てくんの?

 私が首を傾げてると、何かに気付いたディルが無言で左手に愛用の黒槍を装備する。



「……ほっほっほ。そうしておると、その黒髪もただのヒトの子に見えるのぅ」



 いつの間にかテントの入り口近くに少し煤けたローブと杖を装備してる穏やかそうな老人が居て、ディルの知り合いだったらしく警戒で握った黒槍はもう下げられてる。老人の腕には、見覚えのあるノーランの鎧があった。



「テテ爺様! それ、ノーランの?」


「いやな、その黒髪が北門に置いていったのを預かってたんじゃが脳き、ほっほっ、いや北門で共に戦った同志達が黒髪に突撃しとった時は近寄れんくてな」



 老体にはちとキツい、と言いながら私の顔を見てペコリと一礼してくれたテテ爺様と呼ばれた老人は、テントに入る事なくノーランの鎧を入り口近くにいた火の精霊サラマンダーに渡してくれた。



「それにしても……ほっほっ、何と数奇な運命か」


「え?」



 テテ爺様曰く。

 あの産まれたばかりの火龍から、北門に現れた焦熱龍と似た魔力を感じるねんて。……ノーランと闘い、求婚し、その首を絶たれた焦熱龍と似た魔力を、感じるねんて。

 つまりノーランの名を知っていて、呼びながら此方に突撃しようとしてる様子から見ても……もしかしなくてもその闘った焦熱龍の記憶あるんじゃないかっていう……それって生まれ変わり? この世界にも輪廻転生あるんや……転生するの早過ぎちゃう? てか……きゅうこん? 球根? 求婚? 離れてる間に何してんのこのアニキは!?



「まあ竜種じゃからの」


「にゃうにゃう」


「竜種で納得せんといて」



 そんで、私の座椅子になってる虎耳生やした旦那様。家族内は別に良い。でも家族じゃない他所の人居る時の返事は人になって? そりゃはい、いいえ、のにゃうにゃうはニュアンスで分かるけど! そういう事やないから!



「ほっほっ。聖女殿は知らぬか。『憎むなら、地の果て。愛するなら、死後を超え来世まで』が竜種なのじゃよ」


「にゃうにゃう」


「想像以上に重かった」


「……にゃ、そういえばマイに言ってなかったかな。ノーランの実家のホーク家、竜種の血ちょこっと混じってるんだよ?」


「何その爆弾!?」



 サーリー達がオネムなので声量は落としたけど! 私の心臓びっくりやねんけど!?

 あ、でもそう言われるとノーランのアオツキちゃんへの溺愛ぶりにも納得……出来るんか? あのエロスが過ぎる行為に納得出来るんか私?



 疑問符が脳内に埋め尽くされそうになってる私を尻目に、まああの分なら問題ない、とテテ爺様は笑いながらモエちゃん達に近寄って……。



「ほっほ。のぅ火龍『ホムラ』よ。お主、本当に今で良いのか?」



 近寄って来たテテ爺様の声にぐるりと首を回した火龍は、ぐるぐると不満げに喉を鳴らしてる。危ない、めっちゃ噛み付きそうな目付きや!



「お主、記憶があるのじゃろう? 黒髪……ノーランの言葉は忘れたか? ()()()()()()()()()()と言っていたじゃろ?」


「っるぅ!」



 テテ爺様の言葉に勿論覚えてる! と聞こえそうな元気な鳴き声が周囲に響く。そこにテテ爺様の笑い声が重なる。



「ほっほ。そうかそうか覚えとるか。ほっほっほ……つまりお主は、その幼く、弱々しい、お粗末な力でノーランへ挑むと言うんじゃな? ほっほっほ。そうかそうかその実力で、果たしてノーランは嬉々としてお主の()()()()()くれるかのぅ……ワシ、心配じゃのぅ。ほっほっほ!」


「ぐるぅっ!?」



 正しくガビーン、と昔ながらの効果音が聞こえてきそうな程にショックを受け項垂れた火龍の横を、テテ爺様は通り過ぎる。通り過ぎる時に、大人しくなった火龍を見たモエちゃんがペコリと頭を下げ、その小さな頭をぽんと労るように撫でるのが見えた。

 独特の笑い声の返事を最後にユーリ王子達にも片手を上げ挨拶しながら去って行く背中に、私も慌ててお礼を言った。

 その背中をディルも見送りながら微笑んでた。



「テテ爺様は聖魔法が得意で、仕事無い時は良くギルドの医療係とか、新人魔法使いの指導とかしてるの」



 うん、気の利く人みたいやし、納得や。ああいう人を好々爺って言うんやな。



 そんで、それから。

『ならせめて寝顔だけでも見たい』と駄々をこねてるらしい火龍『ホムラちゃん』を、激しく威嚇するアオツキちゃんとルシファー。このまま暴れられるとサーリーの睡眠の妨げになるからと絶賛不機嫌な憤怒のラースさんと共に文字通り壁となって私達の居るテントを守ってくれてる。



 モエちゃんの叫びが悲痛やから、眠いけどそろそろ助けてあげようと思う。

 ……可愛い顔してるアオツキちゃんの剣幕が怖いから、サーリー抱えたディルと一緒にテントの入り口からタイミング計るのはええやんな?



ちなみに氷漬けの卵は卵型のバランスボールサイズでしたが、ムスタファさんが馬な背中に括り付けて運ばれました。重くて冷たかったそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あっちこっちで要らぬ火種を……アニキのタラシっぷりったらもうもう!フケツよっ!(。>д<)←(笑) そのフケツなアニキの寝顔だとおぅ?ワタシだってまだ拝めてナイってのに!あの立ちはだかる壁…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ