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数ヶ月ぶりの本編更新です!
気長にお待ち頂いた皆様!有難うございます!
気になってた後半部分の書き直しも何とか終わりましたので本編ぽちぽちしてます。でも腰痛めてから同じ体勢辛い。早くあったかくなってorz
早く世の中が落ち着く様に祈りながら、頑張ってる皆様と一緒にこの苦境を乗り越えたいと思います。
取り敢えず私は引き篭もって、でもって息抜きにぽちぽちしながら、しっかりがっつり働きます!
お久しぶりな今回はちょっと会話文多いです。ディルが辿々しく説明してくれます。そしてディルとマイの事情がちょっとだけ分かります。マイ視点で進みます!
アオツキちゃんが勇者様御一行を連れ出してくれたので、おねんね中のノーランとサーリー、座椅子になってるディルと私だけになった。……あ、内緒話のチャンスや。
スエキチの言葉がホンマに正しいなら、ツクヨミ様が元凶やない。アオツキちゃんの言う通りなら、失敗してただけで私や異世界出身の人達を助けようとしてたって事になる……でも、その根拠をアオツキちゃんから詳しく聞けてない。だからまだ分からん。……それに、半分黒くなったツクヨミ様がどうなったかも。
「……、なぁディル」
まず、ディルの話を聞こう。
「にゃに?」
喉をごろごろ鳴らせながらディルが返事をする。私は俯いて、でもディルの足を枕にするサーリーの頬を撫でる手はそのままや。
「ディルは。……ディルは、ツクヨミ様を信じられるって言ってたやろ? 確か、約束守ってくれたって言ってたけど……どんな、約束してたん?」
最後まで口にするのが、とんでもなく緊張した。言い終わった今も、心臓ばっくんばっくんして苦しい。……気のせいか、背中越しでディルの鼓動も激しくなった気がする。
この一呼吸分の時間が、とんでもなく長く感じた。
「……、……マイと、出逢わせてくれた」
「は?」
でも予想外の返事に、私は思わずディルへと体ごと振り返る。
もっさりした前髪の向こう、怯えを滲ませた瞳を潤ませ私を見下ろすディルの左手には、いつの間にか草臥れ折り畳まれた紙が乗せられてた。いつの間にか≪アイテムボックス≫から取り出したらしい。
口をモゴモゴと蠢かせたディルは、意を決した様に口を開いた。
「…………これ、子供の頃の俺の宝物。ずっと忘れてたんだけど……父さんと闘った後から、ちょっとずつ思い出せた。にいねぇちゃんにも見せてなかった、触らせなかった俺の……俺だけの、宝物」
そう言われ、私は差し出されたディルの手に条件反射で両手を受け皿にする。優しくそっと置かれたのは四つ折りにされた紙。広げたらB5位になりそうや。
ディルの宝物、と聞いて私は指先に細心の注意を払ってゆっくり開いた。手紙かと思ったけど、これは絵……肖像画やった。
年月なのか何度も開いて見たからなのか分からんけど紙はしわくちゃで、デッサンちっくやけど、なんやめっちゃリアルに描かれてる。モノクロの色彩、鉛筆で描かれてるのは片手にまさかのしゃもじ、もう片手には茶碗を持った……まだ幼さを感じさせる、女性。その女性は紙の中で幸せそうに笑ってる。
今にも紙の向こう、目の前の誰かに茶碗を、「おかわり」を用意しそうな様子で……嬉しそうに笑ってる。
「……それはね、俺の母さんが『夢』の中に居る自分の娘を描いたんだって」
思考が、止まる。
「…………ゆ、め」
「そう、夢。……俺の父さんと母さん、幼馴染なんだけど。昔から、時々同じ夢を見るんだって言ってた。でね、その夢の中でも2人は結婚してるの。顔は違うし、名前も分からないけど、愛があるから分かるって2人とも言ってた。それで夢の中の2人には、子供が居たの。女の子なの。……それでね、細かい所は分からないけど……夢の中で父さんと母さん、女の子がお嫁に行く前に死んじゃうの。お嫁さんになるの楽しみにしてた母さん、その事思い出すといつもしょんぼりしてて。父さんは『俺が死んだら誰が娘の旦那を審査するんだ!』って怒ってて。この話、にいねぇちゃんも知ってるんだけど……父さん達が生きてる時のにいねぇちゃん、父さんが家に居る日は俺からわざと離れて1人になるの……この絵を貰った日も、そうだった」
紙を凝視し続ける私の体を、ディルは抱き締め直す。
「父さんが怒ってるから、それなら此処で一緒に暮らせば良いのにって、家族が増えるの嬉しいのにって俺が言ったの。そしたら父さん『それもそうだ、ディルの嫁にしよう』って言って。……何がそうだ、なのか小さな俺には分かんなかったけど。『夢と現実。世界が違うから正確にはきょうだいとも違うし、俺の可愛い子猫ちゃんは将来絶対強くなるし。許す!』って父さんは言うし。母さんは母さんで『そうねぇ。可愛くて良い子のディルが旦那様なのはとっても嬉しいわ』って喜んでて。そんな2人を俺は首傾げて見てて。……それで見た目も大事よねって言いながら、絵が得意な母さんが描いてくれたのが……俺よりずっと歳上で、笑ってる女の人の絵で。……それで、俺はね。絵の中で可愛く笑ってる、その女の人から目が離せなくて」
すり、と頭にディルの頬が擦り寄られる。
「家族揃って食べる賑やかなご飯が好きで、食べてる人を見るのが好きで……あと、えっと声フェチ? で、人の好き嫌いが激しくて。好きなもの贔屓だけど根は優しくて、寂しがりやの女の人。そう教えてもらって…………なら俺が一緒に居たいなぁって、思ったの。ずっとくっ付いてたら、寂しくないから。……俺、ずるいの。にいねぇちゃんに取られたくないって思ったの。だからにいねぇちゃんに見られない様に、取られない様に、この絵は仕舞い込んだ。にいねぇちゃんが居ない時だけ、こっそり眺めてたの。……俺、独り占めしたかったの」
紙の中の、笑顔が歪む。慌てて両手を合わせ、私の落涙から肖像画を守る。
頭が混乱する。ディルは何言ってんの?
ディルの両親が死んだのは……ディルが5歳の時やろ? なのに何で……私の絵が、此処に、あんの?
分からん。夢の中? 娘? 何の話?
……消える直前の、ディランの笑顔を思い出す。そうや。ディルだけやなくて、私とも目を合わせて笑って……あれは。あれは、私を、知ってて……え?
……意味分からん。意味分からん。意味分からん!
私が混乱から身じろぐと、ディルの腕の拘束が強まる。……まるで、逃がさないとでも言いたげに。
「母さんが死んで。父さんが死んで。カールもキールも、アニス達も死にそうで。あの時、知らない声を聞いた。……今なら、思い出せる。姿は朧気だけど、聞こえた声はツクヨミ様だった。『このまま死ねばただのヒトで終わる。このまま生きればお前はこの世界に縛られる聖者になる。死ぬならワシはこのまま目を逸らす。だがもし、生きてこの世界に囚われてくれるならお前の望みを叶える……』確か、そう言ってた。……あの時、俺の後ろにはアニス達が居た。守りたかった。だから俺、生きたいって思った。死にたくないって思った。…………叶うなら、マイに逢いたいって、願った」
ディルの声が、震える。
「マイ……ごめんね、マイ。俺なの。俺だったの。子供の時も、強欲のグリードとの闘いの時も、俺は無意識に同じモノを望んだ。家族が、マイが欲しいって。……俺がマイを呼んだ。俺が、望んだから……俺の為に、マイはツクヨミ様にこの世界へ連れて来られた」
涙に歪んだ視界の向こうで、もう一度折り畳まれた紙を広げる。
多分、今より若い。成人するかしないか位の私が……私が両親と死に別れる前の私が、笑ってる。
……ああ、何で?
絵が上手な母さんに、私も良くせがんで似顔絵描いてもらった。言われてみたら、ディルの「にぱっ」て笑うあの顔……私が大好きなディルの破顔は……表情の癖というか……私の父さんとも、似てるやん。
……ああ、何で? 何でや!?
何でっ……私をその時に連れて来なかった!!!
「……ディル……」
「ごめん、ごめんね……俺、もうマイを離せない」
「ディル」
「帰せない。だってマイ、可愛いもん。優しくて、ご飯も美味しくて。帰ったらすぐ、俺以外の男のお嫁さんになるんだ。……そんなの嫌。させない。赦さない。だからごめんなさいはするけど、マイは帰さない。……マイ、俺、怖い? ………………こんな事考える、悪い子な俺……嫌いに、なる?」
……抱き締めてくる腕は私に縋ってるみたいで。潤む金色の瞳は、私もすっかり見慣れたこの世界の猫目な月に良く似てる。
……月の瞳を持ってるから、ディルはツクヨミ様に贔屓されてたんかな? もしかせんでもディランも?
……分からん。色んな事が余計に分からん様になったけど。
「…………ディルは、阿保やなぁ」
私が、好きなもの贔屓にするっての、忘れてるんかな?
「こんな、……好きに、させといて……今更、責任取って離婚とか言い出したらぶっ飛ばすわ」
そりゃあ、私もツクヨミ様に利用されたって思った時は怒髪天ついた。でも今感じてる苛立ちはそれとは別や。これはディルが私を信用してない事に対しての怒り。だって、ディルの為に連れて来られた云々には全くと言っていい程怒りが湧かない。……寧ろ、遅過ぎる。
私がもっと早くこの世界に来てたら……もしかしたら、色んなモノを、人を、助けられたかもしれんのに。
私は自分に対する苛立ちを誤魔化しながらディルの顔を睨み上げれば、ディルは一瞬だけ驚いた表情をした後、笑った。
蜜を溶かしたみたいに、甘ったるくて蠱惑的な顔でディルが微笑んでくれる。
「……ぅん。もう、言わない。……マイは、俺のお嫁さん」
「ディルも、私の旦那様やで」
「……うん」
そうして、ディルに優しく唇を塞がれる。寝てるけどノーランとサーリーが居るのですぐに離れたけど、離す直前にぺろりと唇を舐められ私の背中が震えた。
「ディル」
話さなあかん事、確認したい事、もっともっとあるんやけど。これだけは言っときたい。
「私を、願ってくれてありがとう。……来るの遅くなって、ごめんな?」
「マイ……!」
この私の言葉に感極まったらしいディルは、私の唇から瞼から額から耳まで口付けしまくって……うん、だからノーランとサーリーが横で寝ててな? いやまぁ嬉しいねんけど……止めるのも体力使うから、もうこのままでいっか。
「にゃうにゃうにゃ……にゃうにゃうにゃ……」
「ディル、猫になってる猫に」
「にゃうにゃうにゃ……にゃうにゃうにゃ」
何が本当で、何が嘘なんか。今も分からん事だらけや。
でも……2人が、此処に生きてた事は、ホンマなんかな?
悲しい様な、苦しい様な……嬉しい様な。すっごく複雑なこの気持ちを、どう言おう?
「待てやごらぁーーーっ!!!」
そんな私の思考を、アオツキちゃんの怒号が攫っていった。
この話を読んだ後、最初の方に投稿してるディルムッドサイド1、2を読み返してもらうとそっかーと思ってもら…えますかね?( ̄◇ ̄;)




