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そこまで言わない、でもちょっといかがわしい表現含みます。それでも良かったらどうぞ!
マイ視点で進みます。
拳骨落としても多少ぷりぷりと怒り滲ませたままアニスさんは炊き出しの準備をしている女性陣の輪に混ざりに行った。
「にゃうにゃうにゃ……痛かった……ね、マイ、痛かったの……撫でて?」
ディルは私の右隣にぴったりくっ付いて、もっさりした前髪で隠れた金色の瞳を三日月に細めながら綺麗過ぎる顔を私のほっぺに擦り付けてくる。いやもうその顔、絶対痛ないやん。すりすりしたいだけやん。男性特有の低い声で、私に甘えて耳朶に唇擦り寄せてくる時点で丸分かりやねんけど?
……甘えん坊ディルに心臓がきゅんきゅん音立てるのが止まらない……人前では恥ずかしい!
でも今回、ディルはとっても頑張った。お父さんであるディランの事、アオツキちゃんの事……今こんなにも甘えてくるのは安心してるのもあると思うけど、やっぱりディランとの別れ方があれやったし。
……私も自分で出来る範囲は頑張ったし。ちょっと旦那様を可愛がる位、許されるよな? そりゃあ外やし、羞恥心ごりごり刺激されるけど。私、まだ動くのしんどいし。ディルに触るのって私にとっても癒しやし…………良いやんな?
なので期待に応えて、私はディルの頭頂部、青味がかった灰色の柔らかい髪質を指に絡めながら優しく撫でてあげた。やっぱりと言うべきか、タンコブらしきモノは感じない。私の旦那様、やっぱ頑丈や。ご機嫌にぐるぐるごろごろ鳴り響く喉に私は笑った。
ちなみにサーリーはこの音を子守唄に夢の世界に旅立ってるっぽい。ルシファーは1度大あくびしてからも嫌がる事なく大人しく伏せの状態をキープしてくれてる。目は開いてるから寝てない。主人とその家族である私達をどんな時でも守るんだって気概を感じる。良い子や。
ああ、私に頬擦りしながらサーリーを撫でてるディルが尊い……ルシファーも良い子や……そんで寝てるサーリーがこれまたかあいい。
間違いない。私の旦那様と娘と娘の従者兼弟がこの世で1番かあいい。間違いない!
取り敢えず、数分間ディルの頭を虎耳ごと撫でくりまわした。
「はいはいディルは良い子やな〜、もふもふやな〜……もふもふや〜……あれモエちゃん、どうしたん?」
とんてんかん、と野営用テント取り付ける為のトンカチが奏でる音が徐々に増えていく中、私がディルの頭を撫でていると未だに真っ赤な顔のモエちゃんが近寄って来た。その背後にはモエちゃんのテイム・モンスターたちと勿論ショータや王子様達が続いてる。王子様達の顔色は悪いままや。
あ、ごめん。疲れのあまり存在を一瞬忘れてた。
「あっあの、実はまだマイさん達に相談があって……ここだとちょっと目立って……」
まあちょっと横に逸れたとはいえ、此処ギルドの真ん前で人行ったり来たりやしな。
「そーそー。色ボケしてる暇あったらアンタもっいっで!」
私に向けられたっぽいショータの声にイラッとしながら顔を向ければ、何とショータの頭をアオツキちゃん肩に乗せたノーランがアイアンクローしてた。……結構な力込めてるのか、手の甲に漫画みたいに綺麗な血管浮き出てるんやけど。
「勇者サマも懲りねぇな…………見て分かると思うが、俺の妹分は疲れてる。そりゃあもう疲れてんだよ。真面目に話がしてぇならまずはその喧嘩腰を改めろよ、餓鬼。……下手すっと喉笛、食い千切られるぞ」
そうしてノーランは喉笛、の部分で左手の親指をディルに向けて指し示す。私の頬に頬を擦り付けながら、ご機嫌に喉を鳴らしてた音を止めたディルは10歩程離れた場所で立つ顔面蒼白のショータを無言で見上げてる。くっ付いてるから分かってんけど、どうやらディル、足裏にも絶妙に力を込め始めてるみたいで……これはあれや、警戒態勢維持しながらいつでも飛び掛かれる準備を終えた野生動物の……。
ファイン・プレーや、ノーランお兄ちゃん! 疲れ切ってる妹分はスプラッタ苦手なので助かります!
そんな訳で、色々と想像したやろうショータは恐怖からか私から視線を逸らしながらノーランの手を振り払った。
「〜〜っ1番真面目から遠い変態ロリコンに言われたくねぇよ!?」
「ショータ!?」
ショータの返しに、モエちゃんが悲痛な叫びを上げた。ショータ、それは言ったらおしまいのヤツ……阿保やなぁ。
ノーランは眉間のシワは取らないままショータを見下ろし続けてる。
「あ? だぁからロリコン言うな。こいつの精神は成人してるから問題無いって何度言えば……ああお前らには言ってないか。あー兎に角問題ねぇし、こんなチビに最後までする訳でもねぇってのに……勇者サマは知らんから言えるんだろうが、こちとら年単位である意味逃げられてたのがやっと俺の隣に一生居るって誓ったんだぞ? 手の届く範囲に居るんだ……俺が好きな時に愛でて何が悪い?」
「「んぎ……っ」」
今のノーランは色んなモノが天元突破してるから言葉の威力が半端ないのに。
……うん、分かってるけどな。それでもノーラン、突然の溢れる愛あるエロスな発言止めてあげて。
甘過ぎる言葉にショータの語彙力死んで呻き声しか上げてないから。ノーランの肩に座ってるアオツキちゃんにも飛び火しちゃって語彙力と精神が死んじゃって呻き声上げながら器用にノーランの肩で丸くなってるから! ……ってこら! 近くにあるからってついでみたいにアオツキちゃんのほっぺ甘噛みするのはやめときこのオープンスケベ!
「にゃふふっ……ノーランとにいねぇちゃん、仲良し……良かったね、ノーラン!」
「おう!」
ディルとノーラン、満面の笑顔×2の破壊力に苦虫噛み潰した系に歪んでた青白いユーリ王子の表情筋が、最終的に無になって落ち着いてしまったのがちょっと可哀相である。昔馴染み、幼馴染と言って問題無いだろう男同士のソッチの話……お酒の場以外では聞きたくないやろなぁ。
あとな、黒騎士アルフレッドさんの口元がよく見たら赤く汚れてる。戦闘でやんな? ショック過ぎて舌噛んだとかちゃうよな誰かそう言って!
「う〜ん、何とも話しかけ辛い状況やの〜……逃げちゃ駄目かの?」
『もぅ。ダメだよムスタファ〜。これ以上はボクが疲れちゃうでしょ〜』
「父さん……」
そんな呑気な会話が聞こえてきたので視線をずらせば、何とユーリ王子達の背後、数メートル後方に下半身が馬の獣人さんが見えた!
「おお、ケンタウロスや……!」
「あ、やっぱり聖女様も僕らをそう呼ぶんだ」
かかっ、と蹄を鳴らしながら近寄って来ていた少年姿のケンタウロスが笑ってそう言って来た。ディルとノーランが反応してないので安全と理解した私が言ってる意味が分からず首を傾げる。
「申し訳ありません。ショータとモエに声を掛けられた時にそう呼ばれたのでつい……あ、頭上から失礼します」
ショータ達と同年代な顔のケンタウロスの少年は人懐っこい顔で微笑んだままや。
「初めまして、聖女様。僕はタルファ、勇者一行とは御縁があり、色々あってこの町にも共に参りました。そして、あちらに居るのが僕の父であり、馬獣人の長ムスタファ。頭上に居るのはその友、水の精霊フロストです。父が直接ご挨拶せずにすみません。……ですが、モエが言った相談事で、余り皆様に近寄らない方が良いと」
馬獣人の少年タルファ君は、とてつもなくしっかりした自己紹介と分かりやすい説明をしてくれた。ショータ、見習った方が良いよ。
「これはこれは、ご丁寧に。……私もモエちゃん達とこの世界にやって来た、聖女やってますマイと言います。此方こそ座ったままで申し訳ないです。……私の事は、そのまま聖女って呼んで下さい」
じゃないとディルが飛び掛かる可能性があるんで。ガチで。
「はい、聖女様!」
にこ、と全てを理解して屈託なく笑うタルファ君には好印象しかない。……ショータ、マジで見習え!
聖女様と精霊様の意見を聞きたいのと込み入った話になるからとギルドの後方、少し離れた所に魔力で自動的に組み立てしてくれる野営用のテントをアルフレッドさんが設置してくれた。なので皆揃ってぞろぞろと移動。私はディルにお姫様抱っこされ、サーリーはそのままルシファーの背中で運ばれてた。
野営用のテントらしいけど、私には昔懐かしい、学校で教員や保護者が使う様な大きな三角屋根のテントに見える。勿論垂れ幕みたいなので中は見えなくなってるけど。中にアルフレッドさんとユーリ王子が入っていく。
次にアオツキちゃん肩に乗せたノーランに、何と頭掴まれたままやったらしいショータが引き摺られて入っていく。モエちゃんがあわあわしながら続いていく。その次にディルに抱っこされてた私とサーリーを背中に乗せたルシファーが続く。立ってる方が楽だから、と言って入り口付近に馬の四つ脚で待ってるタルファ君。
モエちゃんのテイム・モンスター達はテントの周囲を駆け回って遊んでる。ルシファーがサーリーを乗せたまま、また私の背もたれになる様に腹這いに伏せてくれたので甘えて体重を掛ける。ルシファーにもたれ掛かる事なく私の左隣でノーランが腰を下ろし、ディルはルシファーを背にしながら私の右隣に腰を下ろして体に回していた腕を離して聞く体制になった。モエちゃんとショータ、ユーリ王子とアルフレッドさんが入り口付近、タルファ君の側に寄って腰を下ろした所で準備が整ったみたい。
入り口に固まる勇者一行へ、ノーランが眉間にシワを寄せながら声を掛けた。
「それで、相談って?」
この声に、タルファ君は大きく頷きながら口を開いた。
「それじゃあ、僕が説明しますね。……ユーリ王子達の話を聞いた僕と父は人魚の大婆様の指示でサルーの町を目指していました。その時、足元に突然魔法陣が現れたかと思えば空に投げ出されていて、気付けば目指していたサルーの町の中……これも神の思し召しと、僕達は其方のノーラン殿、あと数名の冒険者達と共にアンデッド化した巨大な竜種と闘いました」
そしてその後、ノーランはサーリーとラースさんに説得され私達の居たギルド前広場に向かったそうや。
「サーリーちゃんと共に居た闇の精霊、憤怒のラース様の助力もあって後一歩の所まで追い詰めたんですが……突然、魔力の纏う絶叫に隙を突かれて空へと逃げられました。その時、共に戦っていたエルフの御仁がその身を竜に変えピクシーの彼女と共に追いかけて行きました。勿論、残された僕達も追おうと考えましたが、問題があって……僕達が合流する前に闘っていたという竜種の死骸から、触手で覆われたモンスターが溢れ出していて……僕達は其方の対応に追われました」
「アレは……うん。気持ち悪かった、ね」
「……」
思い出したのか、モエちゃんとショータの顔色が青白くなった。聞けばうねうね動き回る闇色の触手の束(大人サイズ)だったそうで。それが大量。夢に見るわ!
顔色悪くなった2人にタルファ君は苦笑しながら話を続ける。
「運良く物理攻撃が有効だったので、ショータの特殊スキルを連発して何とか凌いでたんです。どれだけ闘っていたのか……突然、薄暗かった空が明るくなって温かな光宿す雪が降り始めて……雪に触れた触手が、消えていってしまったんです。あの雪、いえ魔法は聖女様の力だと聞きました、本当に助かりました。有難うございます」
話の途中、そう言いながらペコリと頭を下げてくれるタルファ君の株は私の中で鰻登りである。そして、大いに照れる!
「あはは……そっか……役に立てたなら、良かった」
「ふふ。それからはもうあっという間でした。雪の中で逃げ惑い消えていく触手……勿論、僕達も警戒を怠ったつもりもありませんでした。でもサーリーちゃんとラース様が安心してるのに気付いて終わったんだな、と悟りました。モンスターを発生させていた竜種の死骸も、雪が触れた所から消えていったのでそれからモンスターの残党を倒して、気付いた時には竜種の死骸も無くなって………………卵だけが残されました」
最後の一言に、私とディル、ルシファー、そしてノーランとアオツキちゃんが反応した。
「…………、たまご?」
「……はい。火属性の、竜種の卵です」
ぴくん、と背もたれになってくれてるルシファーが揺れた。これが、普通の竜種の死骸から発見されたなら大変やけど……問題無い筈や。でもその卵は、アンデット化していた竜種の死骸から発見されたとタルファ君は続けた。
「火属性なので、今は父の友である水の精霊フロストが常時氷結させて孵化を阻止しています」
「って、生まれそうなってんの!?」
これには私達も仰天して、テントの外で少し距離を空けて待つタルファ君のお父さん、ムスタファさんに視線を向けてしまう。
うん。とても和やかな表情でゆったり手を振ってる……結構余裕やな。
「はい、実は発見当初から。火の竜種の卵は熱い所、例えば火やマグマの中で孵化すると聞いていたのでおかしいんですけど。今はラース様の指示で氷漬けにしてます。……アンデット化していた竜種です。安易に割ってしまって良いのかも判断が出来なくて、聖女様達にも相談したかったんです」
これを聞いたルシファーが首を伸ばしながらサーリーの襟首を咥えて、ディルの足にそっと降ろす。私の背中をディルが支えるのを見てルシファーが体を起き上がらせた。
『それなら、ルシファーが見てくるの』
「僕も行こう」
ふよふよと体を浮かび上がらせたルシファーの頸らへんの鬣を、ノーランから離れたアオツキちゃんが掴みながら跨る様に乗っかってる。
……ちっこいドラゴンライダーの誕生や。どうしよかあいい。切実にカメラ欲しい。
「……なら、俺も」
「いい、ノーランは座ってろ。……マイだけじゃない、お前も戦闘続きで限界だろ。ちょっと寝といた方が良い」
アオツキちゃんのその言葉に心配になってノーランの顔を見上げれば、眉間のシワがえらい事になってる。めっちゃ多い。そんで心なしか目尻が潤んでる様に見えなくも……成る程、これ眠いの我慢してる顔か。怖いわ。
「此処にはディルも居る。寝てろ」
アオツキちゃんの声に眠気が触発されたのか、眉間のシワをほどいたノーランがぼんやりアオツキちゃんを見上げてる。
……おや、ノーランがちょっと可愛いく、見えるぞ? アオツキちゃんのほっぺも赤くりんごみたいになっててめっちゃ可愛いぞ? え、見惚れてる? ノーランのぼんやり顔にアオツキちゃん、見惚れてるの?
「……んー…………、…………なら、ちゅーしてからいけ」
こて、と幼い仕草と口調で首を傾げながら言うノーランを直視したアオツキちゃんの背後に、私はハートが乱舞している幻影を見た、気がした。
「っ……し、仕方ないな! ……ん!」
体全体を数秒間超振動させてからちゅ、と可愛い音響かせノーランのほっぺに吸い付いたアオツキちゃんは、ささっとルシファーの頸に跨り直してテントの外に出て行った。その背後にラースさんもふよふよと付いて行く。……そう言えばテントの中に居らんかったな。気付かんかった。外で待機してくれてたんや。
「……ぐぅ」
吸い付かれた頬をなぞったノーランは、希望を叶えられ満足したらしくそのまま床に寝っ転がって、ホンマに寝た。
「……えっ、うそやろガチで寝てるやん。寝付き良過ぎちゃう?」
「にゃ、ノーラン無理してたから……昔から、こんな時のノーラン、ずっと起きてる。殆ど寝ないの。だから、1回寝るって決めた時は気が済むまで寝てる。……俺の隣は安心だから、周りが煩くても寝れるって言ってくれた事あって。……嬉しかったにゃ〜、にゃふふっ」
「………………………………、ふぅん?」
……ジェラシーなんか感じてません。ええ断じて。感じてないったら感じてない。
……私とユーリ王子の歯軋りの音が同時に聞こえて来たのは、気のせいや。
私、ノーランに負けない。
お久しぶりのコメディ・テイスト。
とても恥ずかしいのですが、それでも、楽しかったです!




