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追記
やっと、ここまで書き換え終わりました。遅くて申し訳ありません。
体力気力はゴリゴリ削られてますが、何とか本格的な不調も無く生きてます。…仕事もあれですが、休日の睡眠時間がびっくりする位多くて物理的にぽちぽちする時間無いだけです。…あったかくなったら布団とオサラバ出来るかな?
少しでも読みやすくなってたら幸いです。でわ。
闇の精霊グラトニーとなった異世界人、スエキチの慟哭にも聞こえる声に、がちゃんと鎧の擦れる音が重なった。ユーリ王子が取り囲む輪を抜けてスエキチに一歩踏み出してる!
「連れて来られた、と言ったな。なら貴殿は、ショータ達と同じ……本来ならこの世界を救う存在である、勇者ではなかったのか? それなのに、……≪名無しの軍団≫としてこの千年、人々を殺して回ったと言うのか!? 確かに、貴殿の苦悩を理解する事は我々には不可能だ! しかしっ……それでも! 一体どうしてこうなったのだ!?」
異世界からの勇者達の末路を知らないユーリ王子の慟哭とも言える叫びに、スエキチは視線を鋭くしながらユーリ王子を見上げてた。
『……あんたが、それを言うの? 何も知らない癖に……忘れてる、癖に……ふん。殺したければ、殺せば良い。例えこの身が滅びても……いくつかの年月が経過すれば僕は、暴食は帰ってくる……精霊に、確かな滅びは存在しないのだから。……僕等の役割は、終わった』
その言葉と同時に、ふわりとスエキチの体が浮かび上がる。スエキチの体にパリパリと静電気の様な魔力が迸る。
ディルがさっと立ち上がり、ルシファーが私とサーリーを庇う様に私達を巻き込んでとぐろを巻く。
ディルの背中越しに、主人であるユーリ王子を護ろうと前に出た黒騎士のアルフレッドさんが見えた。眉間のシワをこれでもかと深くしながらディルに勝るとも劣らない殺人鬼顔負けの凶悪な顔でスエキチを見上げてる。
「何を、するつもりだ」
『……僕等の所業に対する、説明の義務を僕は許されていない。……否、役割の終わった僕の知識はあるべき場所に還される……これで、分かったでしょ? この千年、君達に≪名無しの軍団≫の情報が正しく残されていないのは……』
スエキチの言葉に、ノーランは手放したアオツキちゃんを自身の背後に押しやりながら鞘から聖剣を抜き払ってその小さな喉元に突き付けた、けど……。
闇龍の身体が白い光に包まれ、ノーランの聖剣を弾いた。
「っ待ちやがれ!」
『……ね、ノーラン。理不尽だと、思わない? 僕は忘れられなくて、辛いのに……、の都合で……僕、は……』
「……っ待って!」
バリバリと音を立てて強く白く発光するスエキチに、ディルの脇をすり抜け駆け寄りながら私は叫ぶ。
「あんたにっ……スエキチに! スキル与えたのって女神かちみっこいのかどっちや!?」
直ぐに追い付いたディルに腕を掴まれた私は、激しく発光してて目の位置も分からんのにスエキチと視線が合った気がした。
『……女神に、気を付けて』
確かに届いたその声に私は頷いて……次の瞬間に光は収まってた。
「……るるるぅ?」
そうして、その場に残されたのは地面に伏せて首を傾げる闇龍の姿を象った精霊だけやった。
リカルドさんの≪査定≫では「闇の精霊・暴食のグラトニー』と表示されレベルも10未満と精霊としては相当低いらしい。そんで同族である闇の精霊ラースさん曰く、聖属性の強い魔法で記憶の消去が施されてるとの事。
……言わば抜け殻となった精霊だけがその場に残された事になる。
「スキル≪不変≫の賜物か……本来なら存在、魂ごと消去される程に強力な魔法だ。性質……性格的なモノは、おそらく変わらぬだろう。しかし……お前達の欲する情報は……得られぬと、考えた方が良い」
「何故だ! あの言い草では、そのスキルは精神汚染さえ干渉出来ない代物ではないのか!?」
「…………封じたのが、ヒトでも、精霊でもないからな」
ラースさんの言葉にユーリ王子の表情は蒼白や。皆、最後のスエキチの言葉の意味を考えてるんや。……これからの事も。
「るる……るぅるる」
そんでスエキチ……ううん、闇の精霊グラトニーは不安げにきょろきょろ周囲を見回し、大人達から数歩離れていたショータとモエちゃんに視線を向けた。2人は多分、会話の半分も理解してないと思うから後で説明してあげた方が良いかな。
そんな2人、というかモエちゃんの足元に鎮座する大きなハリネズミとグリフォンの子供とグラトニーは目を向けてた。
「ぴぴぴ!」
「ケンケン!」
「るるるぅ!」
そしてちびっ子モンスター同士、通じ合ったらしい。モエちゃんの静止も間に合わず、ハリネズミ達がグラトニーに突撃しじゃれ合いが始まってしまった。
あわあわ慌ててるモエちゃんと違い、ショータはその光景をじっと見てからユーリ王子に向き直った。
「なぁこいつ、放置する訳にもいかないだろ? 何かの拍子で思い出したり封印解けたら役に立つかもだし……裏切られるの防止する目的でモエが≪テイム≫しといたらどうだ?」
という、ショータの珍しく真面な意見が採用されグラトニーは勇者御一行の監視下に置かれることになった。




