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寝落ちして修正出来てなかった部分を直してたらこんな時間に。そしてキリ良い所と思って切ったらちょい短い。
それでも宜しかったらどうぞ!
私は、ディルの腕の中でサーリーと共と空を見上げてる。
『るるる……るぅるる……』
ふらふらと降下してるルシファーの姿を見て疲労は感じ取れるけど、それでも私には神々しい白銀の鱗が陽の光で虹色に煌めいて見えてる。遠目に見ても傷は無く、また汚れや血糊なんて怖いモノも付着してないみたい。無事みたいや。
……まぁ。
口に何か黒いの咥えてて、その太い胴体から見ると細っこい腕でファイアドラゴン必死に掴んでるけど。無事みたいや。
そう……遠目でも分かる。ルシファー、るぅるぅ泣きながら頑張ってる。鳴きちゃうねん。誤字ちゃうねん。泣いて、頑張ってる。
「ぇえええルシファー!?」
疲れ切って叫べない私の代わりに、サーリーの雄叫びが周囲にこだましたのは言うまでもない。
それから。
サーリーの雄叫びに反応した闇の精霊ラースがふわふわと浮かびながらルシファーの救助に向かい、安心安全にギルド前に居た私達の所まで誘導され事なきを得た。まぁ実は隠れて見えなかっただけで、背後でヒューリッヒさんが魔法で色々フォローしてくれてたから何とかなってたっぽい。万能人形大好きエルフ、万歳である。
そんな訳で。
ルシファーとサーリーの感動的な再会に私は喜びながらルシファーに諸々後回しで忘れてた事をディルと一緒に謝罪。ディルの頭を甘噛み……パッと見は頭に食いつく肉食動物……しながら私の様子が疲労困憊なのを見て、ルシファーは『バナナマフィンいっぱいちょーだい!』で手を打ってくれた。サーリーともむもむ食べる姿は癒し……クッキーもザラザラっと、いやもう袋ごと提供しよう。
そんな癒しを横目に、私はよだれまみれのディルの頭をタオルで拭き取りながら視線をある一点に向けた。
「ファレンちゃん、ファイアドラゴン……えっとセイロンさん、やんな? ホンマに魔法使わんで大丈夫なん?」
私とヒューリッヒさんを手助けしてくれた、ルシファーより大きな体を地面に横たえたファイアドラゴン……実は以前会ったオレンジ頭のエルフ、セイロンさんは今もドラゴンの姿で眠り続けてる。私が空に投げ出された時には既に意識が途切れてたらしいねんけど……どういう原理か知らんけど、ヒトの姿をしたセイロンさんが巨大なドラゴンになってたんや。絶対無理してたんや。
頭を下げながら治療をさせてほしいと言っても、ピクシーである小さな彼女は笑って大丈夫と繰り返した。
「平気平気。ちょ〜っと強制停止してるだけ。そのうち起きるわ!」
「……でも、私とヒューリッヒさんの為に無理してくれたんやし」
それでも食い下がる私に、ファレンちゃんは頬を膨らませた。……可愛い。
「もう! 貴女の方がセイロン以上にボロボロなのよ! セイロンは寝てたら回復するから! 寝てたら回復するのに、そんな事に魔力を使ったら駄目よ! それに……ディルムッド。今日はマイにこれ以上魔法使わせない方が良いわ。特にMP大量に使用するヤツ。これ以上は冗談抜きで魂に傷が付くから!」
「にゃう!」
虎獣人であるディルの返事が猫のそれである事に突っ込む事なく、ファレンちゃんは大きく頷きながらファイアドラゴンの姿で眠り続けるセイロンさんの鼻先に腰掛けながら苦笑してくれた。
「良い返事! それに……私達の事より後始末が先でしょ?」
「……ああ……うん」
私は、視線だけでノーラン達を伺う。
正確には、ノーランとヒューリッヒさん、リカルドさんと勇者様御一行、オマケに闇の精霊、憤怒のラースさんも一緒に取り囲んでる……小さな闇龍に、やけど。
『……る』
骨や内臓、肉体の欠けていたどう見てもアンデッド状態やった姿からは一転。私達と出逢った時のルシファーに似た姿で敵だった、アンデッドではない、ただの闇龍はそこに居た。
「緊急依頼は終了した感じだが……お前は消えないのか?」
リカルドさんの問い掛けに、闇龍は答えない。そこにノーランの舌打ちが響く。
「だんまりかよ。……お前と共に居た闇の精霊はどうなった。ナナシと共に消えたか? それとも……グラトニーはお前が喰ったか?」
ノーランの視線と言葉、その指が聖剣の刺さる鞘を撫でるのを闇龍は感情薄く見詰めてる。
『……、……、……………………そうだ。グラトニーは、僕になった』
「……やはり……」
リカルドの言葉と視線に憐憫の感情が宿っているのを見た闇龍は言葉を続けた。
『…………僕は闇の精霊、暴食のグラトニーに最初に喰べられたヒトの魂『スエキチ』を元に……グラトニーが残してくれたモノを寄せ集めて造られた、闇の精霊。弱体化してるけど、体を得た、状態……憤怒のラースも分かってると、思うけど』
スエキチ……もしかせんでも末吉なんかな。
なら、その魂の持ち主は、私と同じ……。
「……ああ。竜種やヒトの体を、手に入れた精霊とは……思えない程に。……お前は歪で、弱い。魔力を使い果たし、劣化していた我よりも……弱い。それに、お前の魂から……見知ったグラトニーの気配が一切感じられない……なのに、お前はグラトニーだ……我が本能が、囁く。この矛盾は、何故だ」
表情を変える事なく疑問を口にするラースさんに、闇龍は辿々しく答えてる。
『グラトニーが、言ってたんだ。最後に残るのは僕だって……壊れてしまうのが、確定してる魂を持つ グラトニーじゃなくて、ナナシでもなくて……絶対に壊れず、傷付かない魂を持つ、僕なんだって……僕が、持ってたから……この世界に連れて来られた時に渡されたのが……特殊スキル≪不変≫だったから』
闇龍……スエキチは言葉を続ける。
『……僕、僕は、忘れたくないって……姉さんを忘れたくないって、言っただけなのに……! それだけなのに、与えられたのは……どんなに体が変化しても、どんなに魂に干渉されても……例え何度死んで、何度生まれ変わっても……僕の心は、魂は、変わらない……変われない! 忘れられない! 皆居なくなるのに! 誰と仲良くなっても、一緒に居ても、僕だけが取り残される! この世界に連れて来られたスエキチのまま! それが≪不変≫だから! 僕はそんなの望んでないのに……僕は……僕、どうしたら……!』
そう嘆くグラトニーの声が、私には迷子の子供の声にしか聞こえなかった。




