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またまた予約忘れて申し訳ありません!
マイ視点で進みます!
MPの使い過ぎか物理的な疲労なのかわからんけど、未だに私の頭の中はぐるぐるでぐにゃぐにゃ。そんなんやけど、大事な事は忘れなかった。
「みんな、邪魔や……私……、サーリーのとこ、行くんや」
立つのもやっとな状態に草臥れた私の姿に、大丈夫だよと精霊達は言ってくれた。でも私が、無事な姿を直接見ないと安心出来ひんねん。
疲労の濃い私の呟く声に頷いてくれたディルも同じ気持ちやったと思う。だから一緒にギルドの外へ出た。でも、その時。
「……ぁ、マイ!」
もうどれだけ聞いてないのか。既に懐かしく愛らしい……「まーいー!」と、再度、私を呼ぶ元気いっぱいのかあいい声が私達の耳に届いた。
ディルと2人ばばっと声の聞こえた方向に顔を向ければ、戦闘の跡が濃い広場に、背が高く長い黒髪の男性……上半身裸の、右腕を黒光りする濃い紫色の鱗に覆われた美人顔の男に肩車されているサーリーの姿が見えた。
思わず、よろけながらも走り出そうとした私を素早くお姫様抱っこしたディルがサーリー目指してダッシュしてくれた。
「サーリー!」
「えへへ……ディルとマイだぁ………………ぐすっ」
駆け寄る私達を見て男性に地面に下ろされたサーリーも、真っ直ぐ、私達に腕を伸ばしながら走り、ディルの腕から降ろされた私の胸に飛び込んで来た。そんなサーリーを、私の腕と体ごとディルがむぎゅっと抱き締める。
抱き締めた幼い体は震えてる。サラサラストレートの綺麗な銀髪も埃や煤や汗やだろで輝きが鈍い。黒いローブは所々裂けて、よく見て触れば分かる生地の違和感……獣人じゃなくても分かる、血の臭いまで感じて背筋に怖気が走る。
「「≪ヒール≫」」
ディルと2人、同時に回復魔法を使用してた。
小さくしゃくりあげながらグリグリと私のちっさな胸に顔を擦り付けてたサーリーは「もう、痛くなかったよ……でも、ありがとぅ」と目尻に涙を溜めながら笑ってる。
私はサーリーのその顔を見てやっと、銀色の頭に頬を寄せながら安堵の溜息を溢すことが出来た。
「よか、た……サーリーが無事で、ホンマに……良かったっ……。あ、えっと……娘を連れて来てくれて有難うございます。ずっと心配してたんです」
サーリーの無事を確認出来た事で心の余裕が戻って来た私は、自分の目に浮かんだ涙を拭いながらサーリーを連れて来てくれた男性に頭を下げた。地面に片膝着いた、サーリーを肩車から降ろした状態でじっとしていた美人な男性は小さく頭を振っていた。ヒューリッヒさんを思わせる無表情具合にちょっとびびったのは内緒や。
「我に礼など、必要無い……愛しい、サーリーの望みを叶える事……これ以上の幸いは、ないのだから」
「「……」」
一切表情を変える事なく辿々しく仰々しい言葉を口にした美人な男性に、私とディルはずりずりっとすり足気味に男性から距離を取った。
いや……だって、愛しいって……確かにサーリーは親の欲目抜いて可愛いけど……その、私のかあいいサーリーに、てかこんなに小さな女の子に……成人男性が愛しいって普通、言う? どこぞの王族? それとも貴族だったら言っちゃうもんなん? ……半裸やし、貴族ちゃうよな?
って事は、や……もしかせんでも、助けてくれた恩人がまさか送り狼的な変質者だったりしたりするって考える、よな? 物理的に距離取るよな? ディルも同意見やから一緒に離れたもんな? 私達、常識人やんな!?
ディルと目を合わせる事なく、夫婦特有な以心伝心な行動を取った私達に何も知らない男性は首を傾げる。
「……どう、した?」
……心なしか、寂しげな雰囲気で耳や尻尾をへたらせる大型犬の姿が被って見えたのは気のせい、かな? 私らがめっちゃ仲間外れにしちゃったみたいになってんねんけど?
「ええっと……」
『サーリー! ラース様! 無事で良かったぁ!』
そんな私達に、サーリーの精霊たちの一人、火の精霊サラマンダーは突進する勢いで此方まで飛んで来た。私に見えないだけで他の精霊さん達も居る筈や。寂しげな雰囲気そのままに立ち上がった男性は、サラマンダーと視線を合わせながらその手を柔らかそうな頬へと伸ばした。
「……サラマンダー、か? ……見違えた。お前にも、良い巡り合わせがあったのだ、な」
『は、はい! えへへ、ラース様に褒められた……!』
サラマンダーの頬を1度撫でた青年は表情は変わらなかったけど、雰囲気は変わって穏やかな、多分機嫌良さげやった。ヒューリッヒさんの人形で身体を手に入れてたサラマンダーは、サーリー位の年代の幼い体全体で喜びを表す様にきゃあきゃあ笑いながら男性の頭上を高速旋回し始めた。……ぅう、見てたら気分が。……そんで、うん。闇の精霊さんやってんな。見えたいだけでずっと一緒やったもんな。そりゃ寂しく感じる。疑ってごめんよ。
私が心の中で謝罪し始めた時に、闇の精霊ラースの背中の向こうで金色の髪が揺れるのが見えた。
「……ディルムッド!」
聞き覚えのある声に顔を向ければ、ちょっと前に会ったユーリ王子を先頭に勇者パーティーが小走りで近寄って来てた所やった。ユーリ王子の視線は私達……というより、ディル一択やったけど。
「にゃ、ユーリ王子、様? ……居たの?」
「っああ、どうやら転移魔法に巻き込まれて……ディルムッドも無事で良かった。……戦闘は終わったと判断して良いのか? 急ぎ伝えたい事が……」
「……一応、終わりらしいですよ。敵だった者の台詞が正しければ、ですが」
ディルの不思議そうな返事に呻きながらも、ユーリ王子はそのまま口を開き続けた。そんで、この返事をどこに居たのか突然私達の背後に現れたノーランが嫌味っぽい敬語で答える。……小脇に抱えられたにいねぇちゃん、ぷるぷる震えてんねんけど。耳まで真っ赤やねんけど。……ナニしてたんかな?
「にゃあ、ノーラン! どこ居たの!」
「んー。ちょっとギルドの裏で遊んでた。それで……そっちはどうなったんですかね。任せた筈の竜種、こっちに飛んできたんですけど?」
このノーランの出現にディルの機嫌は良くなり、代わりにユーリ王子の機嫌は降下した。みるみる眉間のシワが深くなって……文字通りの急降下具合。分かりやす過ぎる。うんうん。私の旦那様が罪作り過ぎる。ノーランには負けない!
そんな感じに心の中で決意と現実逃避を同時進行してしまった私やけど。次のサーリーの言葉に血の気が引いた。
「あれ………………ねぇ、マイ。ルシファーどこ?」
「え、ルシファーは………………あれ?」
そういえば、ギルドに落ちてから……見てない! 一緒に落ちてないわ!
「ほ、ホンマや! ルシファー何処や!?
「……にゃぅ、忘れてた」
気まずそうな声をあげたディルを問い詰めよう、と私が困惑顔の旦那様を見上げれば。
『るるる……るるる……』
ワニを思わせる面長な口に黒いのを咥えながら、巨体に似合わない細めの腕にオレンジ色のドラゴンを抱え一生懸命バランス取ってるルシファーがふらふらしながら天から降下している姿が私の目に入った。
どうか皆様、ルシファーを褒めてあげてください(笑)




