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言質を手に入れた私は森を抜けた後、ディルムッドさんが拠点にしている町に行ってギルド登録と同時にパーティー登録してもらう事になりました。
……ディルムッドさん、単独の冒険者で誰とも組んでなかったんやって。
ふっふっふっ、ラッキー。胃袋掴むチャンスや!(おい)
この感じやと、恋人とか奥さん居ない筈……やんな?
居た場合は……乙女の鉄槌として、アッパー入れたろ(怒)
そうと決まれば話は早い。
レベル上げはまた今度にして、ディルムッドさんの依頼報告(希少な薬草採取)のついでに私のギルド登録をしに行く事に。
今は昼時を少し過ぎた位。
これから出発しても夕方には町に着くらしいねんけど……?
どうして私、ディルムッドさんにお姫様抱っこされてんのかな?
そんでさ、何で眺めの良い木の上に……立ってるんかな?
「≪ゲイル≫」
ディルムッドさんが小さく呟いた途端、優しい風が頬を撫でて…………私達は、跳んだ。
「ふぅぎやああああああああぁぁぁぁ……」
私の叫び声が森に轟く中、私の脳内知恵袋は教えてくれた。
風魔法、≪ゲイル≫。
1pで使えるようになる初期魔法。
敵を攻撃するだけじゃなく……使用者の、素早さを少しUPさせる事の出来る強化魔法にもなるねん。
少し……少し?
………………どこがじゃあああ!!?
ディルムッドさんが、木の天辺から木の天辺へと高速で跳び移る中。
私の最後の叫びは、口から出る事なく……脳内で終わった。
別名、気絶ともいう。
時刻は夕方。
街道の端に降ろされた私は、現在グロッキーで地面に転がっております。ぐすん。
「…………マイ、……だ、大丈夫?」
「…………ぃ、……生きて、ますよ?」
「……にゃ?」
(怒ってる?)
「…………ぐ、」
ぐっはっ!?
い、今「にゃ?」って鳴いた!?
ディルムッドさんっ、悲しげな顔(無表情)で「にゃ?」って可愛い声で鳴いた!!?
そんなん……な、何されても許すよ!(それで良いのか)
「……お、怒ってないです。でもすっごくすっごくびっくりしました!」
「……ふにゃ、良かった」
(にぱ〜)
「くぅうっ」
だからっ、だからその満面の笑み反則やからぁっ!
惚れてまうやろぉ〜って、なっちまうやん!?(涙)
………………いやいや落ち着け、私。
なんか、あれや。
出会って間もないのに、惚れっぽい奴って思われるのもどうかと思うやろ?
年齢=彼氏無しの私。
異世界だけやない。恋愛も初心者なんやから。
……失敗は、出来るだけ避けたい。
てか、ディルムッドさんに嫌われるのは死んでもごめんや。この可愛い人に、嫌悪の顔向けられでもしたら……あ、絶望しかない。
そんな怖い未来にならん様に、これからアピールという名の餌付けで胃袋もっと掴んで、安全にメルヘンゲット目指そう。
私、ファイト!
……そして私を心配しながら尻尾ゆらゆらしてる、この可愛い人を今どうしてくれようか。取り敢えず尻尾、もふりたい。
とか考えながら見つめていると、転がってた私に手を差し伸べてくれたのでしっかり掴んで立ち上がる。
まだ町に着いてないけど……私が気絶してたから、早めに止まってくれたんやね。感謝!
「言ってた町って、あそこですか?」
私が転がってたのは整備された街道、その先にはスキル使わんでも見える位置に建物らしき物があった。
ディルムッドさんは小さく頷き、私の服に付いた土汚れを軽くはたいてくれた。
「ふふ。こっちの町初めてやからちょっと楽しみー……あ、ディルムッドさん」
「?」
「私のこの服、異世界では珍しくありません? ……目立っちゃいます?」
事故当時、仕事帰りやったからね。
今の私は裏地がぬくぬく加工されてるズボン、ぬくぬく加工の肌着の上に長袖シャツと白いセーター、茶色のダッフルコートと紅白毛糸のマフラー&手袋という日本では定番の真冬仕様な装いです。
ディルムッドさんの服装は、RPGの世界では軽装備に分類されそう。
冬仕様にはなってるけど、スピード重視のザ・旅人って感じや。
ファー付き襟の厚手の白シャツに銀の胸当て、紺色のズボンに焦茶のブーツ。
その上からシンプルな黒いロングコート羽織ってる。
……そして気になる、その胸当て。
……なぁんかえらい禍々しい気配を放ってるからこそっと鑑定したら≪闇の精霊、強欲の試練・戦利品≫の文字が脳内に浮かんでんけど。
……流石、凄腕の冒険者。装備もぱねぇっす!
ディルムッドさんは私の服をしばらく眺め、そして気まずそうに視線を左右にうろうろさせながら答えてくれた。
「………………珍しい、装備って、……言えば…………」
「うん。そんな申し訳ないって顔しなくていいですから。明日にでも買い物に付き合ってくれたらいいですから」
やっぱ目立つんやな。
まあ、あの森でマントヒヒの素材拾いながら、ついでに売れそうな薬草の類も採取しといたので。
ギルド登録してから依頼受けたら、少しまとまったお金手に入るやろ。
……あときっと、ディルムッドさんより珍しい装備の人もそうそう居ないと思うねん、私。
「……うん。……一緒、行く」
(にぱ〜)
私の言葉に、尻尾をゆったり振りながらの「にぱ〜」を頂きまして。
私はディルムッドさんと2人、手を繋いだまま、優しく引っ張られ町へと向かうことになった。
……手、当たり前みたいに繋いでくれるの……嬉しいなぁ。
……うん。ちゃんと分かってる。
きっと彼に、深い意味は無いんや。だから耐えろ、鼻血!(え)
これは、ディルムッドさんが優しいから。ただの性格やから。
もしくは獣人さんの特性なんやから。
可愛く擦り寄ってくるのを、安易に愛情と勘違いしたら駄目!
違った時の跳ね返り、絶対ヤバイからっ!
長期戦、ファイト!!!
抱き締めたくなる衝動を何とか抑えて、2人仲良く並んで(また腕に尻尾絡んできた)街道を進む事およそ30分。
目指していたディルムッドさんの拠点、サルーの町に到着!
低ランクから高ランクまでのダンジョンに囲まれたこの町は、違う国からも多くの冒険者が集まる場所になってる。
活気ある町を歩きながら、私の体調を心配してくれたディルムッドさんに甘えてギルド登録は明日に変更。
今日はこのまま、ディルムッドさんの宿泊している宿屋に直行する事に。
夜は酒場にもなっているらしく、扉の外に居ても賑やかな雰囲気が伝わってくる。
扉を押し開くと、女将さんって言葉が似合う恰幅の良いにこやかな黒髪の女性が出迎えてくれた。
「あぁ! ディルムッドおかえ、り………………ぇえっ!!?」
驚きの叫びと、共に。
追記
内容はほぼ変えず書き直しました。




