122:決戦、決着:???サイド
緊急依頼、終わらなかった!
ディルムッドサイドを書くつもりが、中途半端に長くなったのでこれだけで投稿。
時間が出来たら全体的に書き直したいと思いますが、そんな時間が暫く来ない罠。…関西だけじゃなく、全国でまた緊急事態宣言なるのでしょうか。客商売な私も気を付けますが、皆様も人混み避けてご自愛くださいね!
誰かの視点で進みます。誰だかは直ぐに分かります。それでも宜しかったらどうぞ!
雪が降る。
白く光る、キレイなキレイな雪。……遠い昔、故郷の山で見た雪にそっくり同じに見える。だって……僕等を殺そうとする所さえ同じなんだから。
ナナシ曰く。
僕等の出逢いは奇跡や運命と呼ぶには薄汚れているらしい。
山の中にあった村とも呼べない、何処にでもあった小さな集落。若者は山を降りて残るのは年寄りと孤児のみの、滅びしか待っていないそんな場所で僕等は出逢った。
口減らしと小金欲しさに人買いに引き渡された僕等と、その人買いに雇われていた用心棒のナナシ。一度だけ視線があったけど、直ぐに怖い顔になって背中を向けられた。僕等は俯くしかなかった。
集落を出たその日は、その年1番に寒い日だった。人買いも本当ならもっともっと暖かい時期に訪れる予定だったらしいけど、お偉い人の小競り合いと戦でずれ込んでしまったらしい。
それでも雪が降ってないだけマシだと僕等は考えながら、言葉を交わす事なく集落を後にした。雪が降り始めたら厄介だ、と誰かが呟いていたのを今でも覚えてる。
本当に一瞬だった。2日前は雪じゃなくて土砂降りの雨だったからなのか、何処かで地響きがしたかと思えば山壁を滑る土砂が頭上に見えた。僕等を連れた人買い達は僕等の手首を縛った縄を手放して我先にと逃げていた。でも、間に合うわけもなく泥に飲み込まれて……僕等も同じく飲み込まれた。でもその瞬間……。
『っ来い!!!』
人買い達の前を歩いていた筈の、用心棒だったナナシに僕等は腕を掴まれていた。そして僕等諸共、山の斜面を滑り落ちて行った。
どれだけの時間が経ったのか。ふと気付けば、全身の痛みと凍える寒さに目が覚めた。
『……げほっ、げぇ……はは、ははは! おい、童……まだ、生きてる、か』
ひしゃげ折れた木々と土砂、岩が絶妙に絡まり、僕等の居る斜面の窪みが穴の塞がり掛けた洞窟の様になってる。右上の大人でも通れそうな穴からは曇天が見えた。
『……、……、……ぅん』
『…………は、そいつぁ残念やな』
『……、?』
『耳は、イかれとらんか? おら……、聞こえたやろ……遠吠えや。ああ、結構近い……飢えた狼や山犬が、血の滴る肉目掛けてやって来る………………げほっ、……お互い、この足じゃあ逃げれんし…………童。生きたまま喰われんのと……わしに首刎ねられんのと……選ばしたるわ』
当時の僕等は、ナナシの名を知らない。ナナシも僕等の名前を知らなかっただろうし、連れ出される時も、道中も、会話らしい会話など無かった。
僕等もナナシも傷だらけ。特に下半身の痛みが酷い。ナナシが手に持つ刀は確かに慈悲だった。
『……、…………おに、ちゃ……は?』
『ははは、は……犬畜生に、わしの命をタダでやるのは勿体ない、でな……1匹でも多く道連れにしたる……だけじゃっ!』
ナナシの顔は、痛みで涙滲む僕等にはあまり見えなかった。
『……、……、……どう、して……たす……ぇ』
痛みが苦痛だった。でも痛みよりも、ナナシの声の途中から降り始めた雪にどうしようもなく身が凍えた。痛みがだんだんと分からなくなる代わりに眠くて眠くて堪らない。だから、聞きたかった。
だってナナシは、僕等と人買いの前を先行して進んでいた。それこそ山の獣を追い払う為に。そして土砂崩れは、僕等の歩いていた道の丁度右側の山壁から崩れてきたのに。
……ナナシは、態々僕等の所に戻って来た。逃げる人買いを無視して、縄で繋がれた僕等に腕を伸ばしてくれた。……そんな事しなければ、助かったかもしれないのに。
『………………。………………、けっ。んなの、わしにも解らん。……唯の気紛れじゃ』
これはもう、遠い遠い昔の話。
確かなのは瀕死の状態だった僕等はこの日、とある神と出逢いこの世界……異世界≪リヴァイヴァル≫へと共にやって来た事。
神曰く、僕等は遅かれ早かれこの異世界に招かれる予定だったらしい。もっと正確に言えば、僕等は死後訪れる予定となっていたのを早められ、偶然居合わせたナナシは丁度良いから共に連れて来られた、らしい。
神の思考は僕等には分からない。
ただこの世界にやって来た時、僕等……僕と姉は離れ離れになってしまった。何処に行くのもずっと一緒だった姉を恋しがる僕を、ナナシは殺人鬼も泣いて逃げ出す様な顔を更に顰めながら、面倒がる事なく手を引いて連れて行ってくれた。受けた恩は返す……そう言ったナナシに、死から救った女神はとある願いを口にして、ナナシはその願いを叶える旅に、僕を連れて行ってくれた。
本来なら僕がしなければならない旅、だったらしい。でも、泣いている僕を見兼ねたナナシが代わってくれた。置いて行かずに手を引いてくれた。……だからグラトニーとも出逢えた。姉の居なくなった場所にすっぽりと収まったグラトニーと共に、僕は…………。
『ギャォォォ……』
ヒトは、死を目前としたら走馬灯を見るという。
例え骨が軋んでも、全身から血潮が吹き出しても、視界の半分は黒く塗りつぶされ、内臓も半分が零れ落ちても。
それでも、まだ疾れる。
名前は無い、捨てたと言って名無しを名乗ったヒトを想う。
ヒトの中に馴染めず、戦しか求めていなかったと言っていたのに、これは気紛れだと言って優しさを与えてくれたナナシ。
永い時の中で、貴方は色々と忘れてしまったけど。
僕等は、僕は覚えてる。
だから、僕等は疾らなければならない。
雪が降る。ナナシに向かって。
……人ならざるモノが視える鬼子、と蔑まされていた僕等を見捨てられなかったナナシに、ナナシを害する雪が降る。
『グギャギャギャオオオオ!!!』
邪魔を、しないで。
これで最後。もうお別れ。だから、だから最後にナナシの願いを。
ナナシに満足のいく戦を、戦場を、好敵手を。……穏やかな、終わりを。
どうか僕等に、叶えさせて。
 




