121:決戦、決着:ノーランサイド
ぉおおひさしぶりです!
眠いけど、無理やり終わらせた感が増し増しだけど、気にしたら負け!いつか書きなおせたら良いな!
そして纏められないので決着をノーランとディルムッドサイドに分けることに。第三者視点で、程度の低いお下品発言混ざってます。それでも宜しかったらどうぞ!
追記:書き直しました。ある意味1番変わったお話となります。長々と待たせて申し訳なく!
「ははは! はははは! 楽しぃなぁ!」
「そいつは良かった! ならさっさと死ね!」
「ぎゃははははは! お前が死んだらな!」
「ははっ、嫌だねっ!!!」
サルーの町の中心、町の憩いの場でもあったギルド前広場。度重なる戦闘でギルド以外、草の一本も焼き尽くされた広場で男2人の斬り合う鉄の音と笑い声が途切れる事なく飛び交っている。
リカルド、カール、キールはディルムッドに託されたアオツキをその背に庇いながら戦局を見守っている。アオツキは小刻みに体を震わせながら、背中越しに煌めくペリドットの瞳を持つ男を見つめていた。
2人の一撃一撃は必殺を思わせる鋭さだったが、互いに持つ両手の武器で受け止め、逸らし、返す刃で斬り返している。互いにMPは底をつきかけている為、互いの肉体と経験、身に付けた武芸のみが唯一の武器だった。
片方は無茶な連戦に体が悲鳴を上げるのを無視して笑っている。もう片方はそもそも体の崩壊が止まらない。右眼が潰れた黒灰色の狼獣人は、皮膚が剥がれ落ちた所から肉が崩れ灰となるのを横目に……それでも高笑いのまま刀を振るっていた。
何度も、何度も、延々と続く剣戟は見る者を惹きつける。そうして、惹きつけられるのは闘う当人も、だった。
ノーランは自他共に認める戦闘狂だったが……今この時程、楽しいと思える戦闘があっただろうか。そんな思考が頭の隅に生まれ、次の攻撃に転じる瞬間には同じ頭の隅に思考は埋もれた。
眼前で刀を向ける男は只々、策略も何もないシンプルな一騎討ちが好きな、ノーラン好みの戦闘狂だった。
そんな中、ひらり、と。
ノーランの視界に白い雪がチラついた。
「……っアオツキ!」
「えっ……あ、ああ、もう! お前ワガママ!」
カールとキールの背中に隠れる様に覗き見ていたアオツキは、視認した雪とノーランの声音で全てを悟り、急かされる様に空に飛び上がりながら両手を空に掲げギルドの屋根の上に鎮座した。
すると、アオツキの体が淡く発光しながら空から舞い落ちる白い雪……マイの魔力を多量に含んだ聖魔力の結晶を吸い寄せながら、自身に取り込んでいく。
幻想的なその姿は、正に聖なる光の精霊だった。
「ははっ! 今日中に借り返させてやる俺に感謝しろよ!」
ノーランとアオツキのやり取りを見ていたナナシが、己の刀で聖剣を弾いた瞬間ノーランから大きく距離を取り激しかった剣戟が止んだ。ナナシが空へと昇る竜種へ視線を向けた。
「…………ああ、早かった、ね。もう≪聖結界≫……発動したんだ」
その声音と口調は幼い子供の様に聞こえ、闇の精霊グラトニーである事が伺えた。その事実に、眉尻を跳ね上げたノーランが怒気を露わにした。
「おいテメェっ!」
「大丈夫。僕はもう直ぐ、消える。……最後に、一目……見送りたかった、だけ」
そう切なげに言ったグラトニーから、ノーランは嘘偽りを感じなかった為瞬時に怒りを収めた。
「……まぁ、最後って言うなら、聞いてやるよ。…………ついでだ。おいグラトニー、お前が、言い残す事はもう無いのか」
そんなナナシを目を細め見ていたノーランは、誰にも聞き取れない様な囁く声でグラトニーに語りかけた。
そうして、ここでノーランが視線を向けた先は空ではなく、ギルドだった。
声を聞き取ったグラトニーは数度の瞬きをした後、苦虫を噛み潰した様な顔でペリドットの瞳を睨み付ける。
「ぁあ……末恐ろしや。一体何処まで知ってるのやら」
戯けた口調とかけ離れた困惑の色濃いグラトニーの顔を見たノーランは、歯を剥き出しにして笑っていた。その顔は悪戯を咎められてもなお笑う悪童と何ら変わらない。
「――さあな? 俺はやりたい事しかしないし、欲しいモノは諦めない。……逃がして馬鹿を見た奴に言われる筋合いはねぇよ」
「逃したのは、僕じゃなくて彼なんだけど…………あ、」
「……」
「……余計な事、言っちゃったかな」
グラトニーは戦場に似合わぬ穏やかさを宿した紫紺の瞳をノーランへと向け、ノーランは苦みを我慢した顔でその視線を受け止めた。
「≪聖結界≫が正しく発動している、という事は……君達の、ヒトの勝利を意味する……おめでとう。≪名無しの軍団≫は、本日をもって解体される」
「……そうかよ。……おい、まさか? だからこれで終わり、僕は消えます〜はいサヨナラ〜って。……するつもりか? そりゃあ無いって…………したら殺すぞ?」
「……ぎゃはははははっ! そりゃあならんなぁ!」
先程までの穏やかさが嘘偽りであったとでも言う様に、突如ぎゃはぎゃはと笑い出した眼前の好敵手に、ノーランは聖剣を構え直す。ナナシはそれを見た次の瞬間には笑い声も表情も消し、ノーランに背を向け離れた。ナナシの腕の傷から音を立てて血肉だった何かが零れ落ちた。
2歩、6歩、10歩目にナナシは静かに振り返った。
「さぁ、構えよ」
ぼろり、とナナシの刀を握る指先の皮が剥がれ落ちる。ナナシの右頬、両腕と腹、背中は所々骨の白さが分かる程に崩れていた。本当に、もうあまり時間は無い様だった。
「はっ! 寝惚けてた奴に言われたくねぇなあ?」
ナナシの、傷から伸びたひび割れは全身に走っている。いつ全身が崩れ砕けてもおかしくない姿に変わる事なくノーランが笑えば、ナナシも笑った。
「っぎゃははは、違いない! ……ああ、しかし……全て我が記憶の彼方かと思えば、意外や意外、無意識には覚えとるものじゃ」
「……そりゃあ良かったな」
「……ああ。お前のちんまいツガイにも、わしは見覚えがある様でな」
「やらんぞ」
「……ぎゃはは! ぎゃははは! 要らぬ要らぬ! 我が望み! 本懐は! 今この時のみ! その他は些事よ!」
ナナシの言葉に、ノーランは眉間のシワを深くしながらほんの少し唇を尖らせる。
「……そこまで全否定されるのも、何かもやっとすんな。何だよ、あんな可愛いのに要らねぇって」
「…………、……そうか、可愛い、か……そうかそうか。……アレで欲を解消するとはノーランはエライ趣味を持って」
「ねぇよ!?」
ノーランは、絶叫した。
「阿呆かテメェ!? 強がりなのにネガティブ拗らせてる中身が可愛いって俺は言ってんだよ! あんなチビにどうしろってんだ、俺をどんな鬼畜だと思ってんだよ! ……んなの、 デカくなるまで待つし、チビのままなら俺が童貞貫くわっ!」
「「急に何言ってんの!?」」
静観していたがあまりの言葉に我慢出来なくなった双子冒険者の叫びにノーランは首を傾げた。
「あ!? 何って、…………将来的な夢と決意の話?」
「夢と決意にしちゃあ下品過ぎるだろ!?」
「俺としては取り敢えず、酒飲みながら利子2年分、アオツキであそ……否、いじく……、……、……うん。面白おかしくいじくり回せたら万々歳だな、俺!」
「「そこはいじくる以外のマトモな言葉に言い直せよ!?」」
「は? 何で?」
「「常識あると思ったのに! 何か違う!」」
ノーランとナナシの会話が聞こえてしまった双子とリカルドの思わずな言葉に、ノーランはあっけらかんと答えていた。悪気も悪戯心も無い、真実そうである、と思わせる真摯さで答えていた。……内容は下品極まりないが。
だからこそギルドの屋根の上で両手を掲げながら正座で折り畳んだ膝に赤く染まった額をくっ付け羞恥に撃沈したアオツキは……その頭頂部へと向けられる、ナナシの視線に気付く事は無かった。
「アオツキは、もう独りにはなれねえよ。……俺以外、選ばせるか」
それを見たノーランの静かな表情も、言葉も、初めて見るナナシの忍び笑いも、アオツキは見てはいなかった。
そうして、そのまま会話が途切れた。
ナナシは両手の刀をノーランから十字に見える様に構え、ノーランは両手の剣を下げた状態で仁王立ちした。お互いに、視線のみの応酬があった。
空気の変化に羞恥を振り払い頭を上げたアオツキは、ギルドの屋根の上でそんな2人を見下ろす。
今この時も、ノーランとナナシは互いの口元を笑みの形にしていた。表情だけ見るなら、昔馴染みと幼い頃を思い出して笑っていると言っても、信じられる程に楽しげに見える。
しかし互いの瞳だけは、ギラギラとした殺意に満ち満ちている。
「いざ、」
「尋常に、」
「「……勝負!」」
揃った掛け声。踏み出した足も、歩幅も、その身に刃が届くのさえ揃い……びしゃり、と。刀の薙ぎ払われた軌跡に、鮮血が舞った。
「………………っぁ、あああああああああぁあああああああっ!!?」
アオツキは奇声をあげながら、胸から腹に掛けて大量の血を溢れさせながら立ち尽くすノーランへと突進する。それを見てリカルド達もポーションを取り出しながら走り出す。
アオツキはノーランの傷口に体を寄せながら、先程から集めていたマイの魔力を使ってノーランの傷を癒していく。リカルド達はノーランの口にポーションの小瓶を突っ込みながら、ナナシを見た。
ナナシの首の付け根には、ノーランの薄青い炎纏う聖剣が深々と突き刺さっており……その傷口からはひび割れた赤黒い水晶玉が覗いていた。
「……ぎゃははははは! 己の心臓を庇いもせず向かってくるか! 核を間違わず刺し貫く為に、一太刀で、終わらせる為に、己が身を捨てるか! ……その意気や良し! ノーラン! ノーラン・ホーク! ……何時でも良い! 地獄に堕ちて、わしとまた殺し合え!」
「……っげほ、けほ……誰が、行くか……」
「ええい叫ぶな重症患者!!!」
「「そーだそーだ!!!」」
傷口の止血はとっくに終わっているが、それでも内臓は完全では無い。肋骨が軋む程に抱き付くアオツキにノーランはむせ双子冒険者は目尻に涙を溜めて怒鳴り散らす。
そんな彼等を、ナナシはただ笑って見ていた。
笑った顔は殺意や悪意にまみれ凶悪だったが……それはそれは楽しげで、懐かしむ様な雰囲気も宿す笑顔だった。
「ぎゃはは、ぎゃははは! あはははははははは! ああ、ぁあ、楽しい! 楽しかった! ………………ああ、やっと、……………………………………やっと、かえれる」
そう言って、凶悪な顔で笑って立っていたナナシの体は次の瞬間には砕け、ノーラン達の前で灰となった事でこの戦闘の決着となった。
見送ったノーランは、自身の胸にしがみ付く小さな姿に視線を向ける。
「……っおいアオツキ、苦し……」
「ぅうゔ、のーらん、のーらん、のーらん……」
「ああ分かってる。離れなくて良い。離れなくて良いから、力だけもうちょい緩めろって……痛てて」
みぃみぃと鳴く姿に昂らないノーランでは無かったが、今は疲労感から来る眠気と格闘している為あまり問題ではなかった。ノーランはアオツキをくっ付けたまま双子冒険者の兄、カールに肩を借りながらギルドの正面入り口へと歩いていく。
「げほ……おい、アオツキ」
「ゔう、無理に喋るにゃ! 表面の傷は治せてもまだ中身が……っ」
「……俺、勝ったぞ?」
その瞳は、眠気から来るのか愛する者へと向けられているからなのか。とろりとした甘さに染まっている。
「……、……にゃ、にゃう」
勝者、ノーラン。
腕の中で戦利品を愛でながら、それはそれは近年稀に見る程の上機嫌さで、雪降る白い空を見上げた。
 




