表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/149

114:決戦4


一部不適切な表現があります。アルコールの過剰摂取や飲め飲めハラスメント、ダメです。第三者視点です。それを踏まえた上で宜しくお願いします。

 


 ディルムッド、ノーラン、アオツキの3人がナナシと対峙している一方、マイとヒューリッヒは予定通りルシファーの背に跨り空へと飛び立っていた。それぞれ個人的に≪結界≫を掛け直し、ルシファーに騎乗した状態で一纏めにも≪結界≫を施しながら、マイとヒューリッヒはルシファーの背にしがみ付き空を駆けた。



 地上から数百メートル上空。サルーの町を≪闇結界≫が覆う中……おそらくその頂点の前にマイ達は辿り着いた。



「すぅ、はぁ、……ルシファー、お願いな?」


『うん! ちゃんとマイの足、持ってるよ!』



 マイは左手に一升瓶、右手は≪闇結界≫に添えられている為ルシファーに跨っているだけの状態だった。ヒューリッヒは現れるだろう敵に対処する為両手を開けていたい為に支える事も叶わず、そもそもディルムッド以外の異性に触れられたくないマイもヒューリッヒの意見に賛成していた。

 ちなみにノーランは家族、身内に分類されるので触っても抱き付いても問題無いと考えている。マイの基準は、ディルムッドが嫌がるか否かに掛かっている。

 なのでルシファーの頭がある前身部分に向いて跨っているマイは、ルシファーの短い前足でマイの太腿を支えてもらい体勢を整える事にした。空中でのルシファーの攻撃手段がブレスや振り回す尻尾であったのも幸いして、ルシファー本人も不自由さは感じないそうだ。



「……すぅ、はぁ、ぅう……私は、即死さえ無効化出来る≪全状態異常無効≫を持ってるから、お酒に、酔いません!」



 一升瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ。甘い様な香ばしい様な不思議な香りに混じり、強いアルコール独特の香りも感じたマイは大きく深呼吸しながら、自己暗示を促す様に自身を鼓舞する。



「そうだ、酔わない」

『るるるっマイ、酔わない!』



 応えてくれるヒューリッヒとルシファーに頷きながらマイは大きく深呼吸を繰り返すが、生まれ育った世界……季節の変わり目に時たまニュースに流れた急性アルコールの文字が脳内で踊る。

 だからか、マイは己を鼓舞する為に飛び立つ前のディルムッド達の姿を思い浮かべた。


 息を荒げ疲労しながらも闘争心を失わないディルムッドを見た。

 突然現れた青い炎に苦しみながらも剣を置かないノーランを見た。

 この緊急依頼に、命を捨てる覚悟で挑んでいたアオツキ(にいねぇちゃん)を見た。

 ……今、姿は見えずとも強大な敵を前に逃げず踏み留まってるだろうサーリーを、マイは想う。



 マイは成人を迎えるか迎えないかで不幸な事故で両親を失ったが、自身を不幸だとは思わなかった。

 それは気の良い親戚の手助けと職場の配慮、また時折ふらりと現れる両親共通の友人達に慰められていたのが大きい。


 マイは今でも、自身は不幸ではなかったと言える。恵まれていた、と思っている。


 それでも、夜。

 喉の渇きなどで目覚めた時、カーテンの隙間から差し込んだ月明かりに目が眩み、涙を溢れさせるのだけはどうしようもなかった。

 事故のあった日と同じ、月明かりの眩いその日だけは寂しくて淋しくてどうしようもなかった。



「……大丈夫や、私は……大丈夫……!」



 そんなマイがこの異世界で出逢ったのは、愛らしくも頼もしい、新しい家族。

 始まりは、マイがディルムッドの声に心惹かれたのがきっかけであり、そもそもマイがディルムッドと出逢ったのも、この異世界に(いざな)われたからであり……マイをこの世界に(いざな)ったのは、数ヶ月前に出逢った、幼い姿の白い神だった。


 そう。まだたった数ヶ月前。マイは幼い姿をした白い神に、この世界≪リヴァイヴァル≫に(いざな)われた。

 今思えば、マイの好きにしたら良いといった神の言葉は……好きにしろ、と言いながら、マイを誘導していた。掌で転がすとはこの事だろう。



 そして今日。

 マイが知ったのはこの異世界を救う為に、マイだけでなく年端も行かぬ少年少女も白い神が利用しようとしていたかもしれないという事。これまでに召喚された者達も利用され尽くし……誰が見ても分かる程に、永遠の地獄へと彼等を堕としていた。しかしアオツキの言葉を信じるなら……ツクヨミは、救いたいと考えているらしい。その方法が見つからず、苦悩していた、と。

 ……その方法が見付かったから、最後と言わんばかりにマイの前に現れたのだろうか?



 マイの脳裏には未だ、黒く塗り潰された顔半分で優しく微笑むツクヨミの顔が浮かんでいた。あの姿を見た後でも、未だマイはツクヨミに対して怒りを感じていたが……同時に感謝もしていた。

 例え諸々と利用する為だったとしても、ツクヨミはディルムッドとサーリーに出逢わせてくれた。ルシファーやノーラン、アオツキ、困った時に助言や相談に乗ってくれたサルーの町の人々と出逢わせてくれた。



 この世界≪リヴァイヴァル≫を、マイはもう()()()とは呼べない。大切な人々が居るこの世界を、ファンタジーだと、いずれ覚める夢物語だとは、もう思えない。

 この緊急依頼の中で、マイは自身がこの世界の住人になった事を確かに自覚した。



 だからマイは、信じたい。

 皆を守れるかもしれない≪聖結界≫を与えてくれた、笑い方が特徴的な愛らしい神を。

 ディルムッドが微笑みながら信じると言った、あの神を……マイも本当は信じたいのだから。



「そうや……今の私は、この世界の、()()や! ……か、神様からチート貰った、神様に選ばれた、聖女なんやからっ! 大丈夫…………大丈夫! ……行くで(ひうえ)! ≪聖結界(へいえっあい)≫!!!」



 黒い瞳に決意を宿したマイが、一升瓶の咥えながら中身を飲み込み始めたのと≪闇結界≫に触れた状態で≪聖結界≫を発動させたのは同時だった。マイの触れた箇所から透ける様な薄紫だったその色が、聖なる白い光と交わっていく。



「ぅ、ぐううううううぅうううっ、ぅうゔっ!!!」



 スキルを発動させた瞬間、マイは激しい嫌悪感に襲われる。まるで動物か何かに全身を舐められ嬲られ体の中を流れる血潮をずるずる啜られている様な不快感に、一升瓶を咥えたままマイは高いくぐもった悲鳴を上げる。あまりの嫌悪感に激しい吐き気にも襲われ涙さえ溢れさせたが、それでもマイはヒューリッヒから渡された一升瓶に歯を立て『竜殺し・極み』を飲み続ける。幸か不幸か、この全身から来る嫌悪感のおかげで意識ははっきりとし、酒に酔うという感覚がマイから遠退いていた。吐き気を誤魔化す様に勢いを付け、まるで炎天下の砂漠を歩き回った後の水分補給の様にごくごく喉を鳴らしながら酒を飲み込んでいく。それでも嫌悪感は続き、ルシファーの白銀の鬣はマイの涙が濡らしていく。ルシファーはるぅるぅ悲しげに鳴きながら、マイを見守りながら周囲を警戒した。


 HPだけでなくMPも一度に多量を失えば疲労や不快感に襲われる。マイの触れた箇所から≪闇結界≫は白く塗り替えられ、その都度マイのMPは多量に奪われていく。マイは酒を飲み続け、そこにヒューリッヒが上級エーテルを振り掛けマイのMPを回復させる。奪われて回復、また奪われて回復を繰り返される。今のマイはある種の拷問を受けているのと変わらない。

 苦しみ呻きながらも≪闇結界≫から手を離そうとしないマイを、ヒューリッヒはどんな変化も兆候も見逃さない様に観察しながら声を掛ける。



「……そうだ、上手くいっているぞ。ディルムッドの嫁」


『りゅるる、マイ〜……』



 マイはヒューリッヒの言葉に頷く事は無かったが呻き声だけで何とか答え、一升瓶の角度を少しずつ上にずらしながら飲み続け≪闇結界≫に魔力を注いでいった。


 サルーの町を覆う≪闇結界≫が徐々に白い光に侵されていく。マイがスキルを発動させてからまだ数分だったが、マイの触れた天辺、頂点から考えて≪闇結界≫全体の2割程が上書き出来ている事に無表情ながらヒューリッヒは喜んだ。ヒューリッヒの想像よりも上書きペースが早いのだ。



「……来たか。ルシファー、まだ動くな」



 しかしこの時、高速で此方に近付く気配を感じルシファーが身構えるが、ヒューリッヒの静止の言葉を聞いて動きを止めた。


 ルシファーの下方、その白い腹目掛け接近していたのは10匹程の黒い鳥である。その翼を広げた大きさが3メートルはあるだろうその鳥は、この緊急依頼が開始された時にリカルドが吹き飛ばしたアンデッド化した巨大烏の生き残りだった。



「お前が動くのは、まだ早い。…… アイン、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フェンフ、……行け!!!」



 薄雲に隠れながら接近していた巨大烏に、ヒューリッヒは自身の≪アイテムボックス≫から取り出した、5色に色分けされた()()()を投げ捨てる。

 片手で握れる一般的なサイズのこの藁人形は、ヒューリッヒに呼ばれた名の順に赤、青、緑、茶、黒に染めらている。投げ捨てられただけの様に見えるが、巨大烏に向かって滑空するその姿は大の字で、どうも人間臭く滑稽に見える。



「アイン、ドライ、共闘! ツヴァイ、フィーア、共闘! フェンフは守護せよ!!!」



 ヒューリッヒの言葉に反応した藁人形達は滑空を止めその場で停止し、それぞれ赤と緑、青と茶で腕の部分の藁が動き出しそれぞれが絡み合う様に繋がった。そして黒い藁人形は藁を解き、その形を人形から丸い盾の形となって藁人形達の側を周回し始めた。



『ぐわぐわぐわあああああっ!!!』



 ルシファーに狙いを定めているのか、それとも小さな藁人形は眼中に無いのか。意識する事なく接近しようとする巨大烏に赤と緑の藁人形が反応する。

 赤い藁人形の顔部分に口を思わせる裂け目が出来、そこから現れた胡桃程の大きさの火の玉が10こ、巨大烏に向かって行く。巨大烏は気にも止めない。声高に鳴きながらマイとヒューリッヒを乗せたルシファーに襲い掛かろうと接近し続ける。


 ……しかし。その小さな火の玉に、緑の藁人形が魔力を乗せた()()()を送る。



 思い出して欲しい。この世界≪リヴァイヴァル≫にある魔法属性は火、水、風、土、聖、闇属性の6つ。相反する属性、つまり火と水、風と土、聖と闇は互いに弱点である。特に聖と闇は相反する傾向の度合いが強く、能力が拮抗した相手であったら互いの攻撃が一撃必殺の意味合いが強くなる。


 そして自然界に密接した属性である火、水、風、土の4つの属性は、弱点となる相反する属性とは別に()()()()()()()()()属性が存在する。


 それが火と風、水と土の組み合わせである。


 赤い藁人形と繋がっている緑の藁人形が、高密度の風属性を練り込んだ衝撃波を火の玉にぶつけた瞬間、火の玉と衝撃波が交わり、巨大烏へと襲い掛かる轟音伴う1つの巨大な業火へと変貌した。その熱量はリカルドの炎を思わせる。


 そして火の玉の突然の変貌に対応の遅れた巨大烏達は、避けきれず半数が直撃を受け焼け落ちていった。



『るっるるぅ! ヒューリッヒ凄い!』


「ふむ……だが警戒に入ったな」



 ルシファーの賛辞に驕る事なく、ヒューリッヒは下方で旋回しながら此方の様子を伺う残り半数の巨大烏を見ながら、マイの頭上にエーテルを掛け続けている。



『……る! ヒューリッヒ!』



 ルシファーの声に、耳障りな羽音が複数重なる事でヒューリッヒは次の敵に目を向ける。



「……今度は虫、か。アイン、ドライもう一度だ!」



 西の空からやって来たのは、10歳程の子供と変わらない大きさの巨大蜂である。それも20匹以上の大所帯。ヒューリッヒの言葉に反応した藁人形達は、先程と同じく10こ程の火の玉を吐き出しながら魔力を帯びた突風で炎を煽り、先程と同じ1つの業火が巨大蜂の群れに放たれる。

 そしてこの様子を見ていた残りの巨大烏達が、藁人形達を無視して大ぶりな嘴をこれでもかと開き、闇色のブレスをルシファーに向け放った。これに迎え撃とうと無理に首を捻らせたルシファーを、ヒューリッヒはまたも止める。



「待て、……フェンフ!」



 小ぶりな丸い盾の形に変化した黒い藁人形はヒューリッヒの言葉に反応する。黒い藁人形はものの数秒で、周囲に漂う闇の魔力を吸収してルシファーを囲える程の、闇の魔力で出来た巨大な盾を形成させる。巨大烏達のブレスが当たった瞬間に魔力の盾は砕け散ったが、……藁人形達の避難と、ルシファーが体勢を整えるのには十分な時間稼ぎとなった。



『ごるるるぁがあああああああああああああっ!!!』



 ルシファーの雄々しい雄叫びと、虹色に輝くブレスによって残った巨大烏達は消炭となる。

 その光景を異常に増えた瞬きで驚きを表現するマイに、ルシファーは安心させる様に元気いっぱいの鳴き声をあげる。



『るるるるっ、大丈夫! ルシファーだって、皆を守るの!』


「……ゔぅ、ルシファー(うしふぁー)


『るる! もうちょっとだよ! 敵はルシファーとヒューリッヒに任せて! ……マイの邪魔、させないの!』



 ヒューリッヒの藁人形達が巨大蜂の相手をし始めた時、ルシファーは北の空の黒い影を睨み付けていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ごっきゅごっきゅごっきゅ…!ぷっはぁあ!! このために生きてる!(* ̄∇ ̄*)←禁酒令解除されてません(笑) 強制一気、ヨロシクナイ…おしゃけは楽しく飲みたいモノである……(´-ω-`) …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ