113:決戦3
お久しぶりの投稿です。
世間の流れも早いし忙しい。でも仕事あるだけ私はマシだと思ってます。宣言緩和が続く様に、努力は怠りません!
頑張れ関西、頑張れ日本をスローガンに生活したいと思ってます。
雨にも負けず風にも負けず。私達はコロナにだって負けませんとも!
そんな訳で第三者視点です。後半にほんの少しお下品な表現があります。それでも宜しかったらどうぞ!
ギルド前でマイ達による次の一手が決まったその時、ナナシの前に立つディルムッドとノーランの戦局も変わって来ていた。
「ぅおおおお!!!」
がん、がん、ごん、とおよそ剣戟とは聞き取れない衝突音と共にノーランが光り輝く聖剣フラガラッハでナナシの筋肉で肥大した前足に攻撃を仕掛ける。マイ達の目に追えない程のノーランの剣戟に、しかしナナシが受けた傷は瞬く間に再生していく。またナナシが握る刃の付いた棍棒の様でもあり鞭の様にしなる闇色の泥纏う武器が攻撃を受けとめていた。
ナナシは獣の唸り声でもって不満を露わにし、ノーランへの反撃に転じた。ノーランも一歩二歩と後ろに下がる。
『ぐるああああっ、足りない! 足りない! 足りないいいぃいいいいっ!!! こんなものじゃ……なかったろぅノーランっ!!?』
「……何っ、がだっ、よっ!」
がん、がん、ごんと重い衝撃を何とか受け流しながら、ノーランはナナシの言葉尻から何か新しい情報が出ると判断しディルムッドが白銀の大盾で援護するのを視線で制した。ノーランはナナシの振り回す重量感ある攻撃を聖剣で受けながら答え、ナナシもまたそれに応える。
『足りない! もっと! もっとだった! もっともっと! もっともっとノーランは強かった! ……あのオニビは! 何処にやった!?』
「!?」
その言葉と共に、大きく腕を振りかぶったナナシの一撃でノーランは地面を滑る様に後方に吹き飛ばされる。ナナシの武器に纏わりつく、闇色の泥と共に。
「ノーラン! ……ノーラン、一旦俺の背後に! それ以上泥浴びたら、マイの≪結界≫消えちゃう!」
駆け足でノーランの盾となるべく距離を詰めたディルムッドの言葉通り、攻撃を受けるノーランの体は泥に纏わり付かれていた。ディルムッドは≪結界≫が消失してなお、ディランの意志を継ぐ様に輝く白銀の大盾に守られている。どういう訳か、ナナシの振り撒く泥は盾に弾かれていた。
ノーランは荒れる息を整えながら自身のスキル≪心眼≫で魔力の流れを見た。彼のペリドットの瞳には、泥が付着した部分の≪結界≫が抵抗しながらもゆっくりと侵食されていくのが見えていた。マイが≪結界≫の消失に気付けないのも、破壊されたのではなく侵食されているからだとノーランは悟っていた。
ノーランはそれだけを確認してからスキルを解除する。この戦場は魔力の粒子に満ち過ぎている為、≪心眼≫を使用したままだとノーランには黒い魔力の粒で視界が遮られてしまう。MPも少しずつだがスキル使用中は減っていく為戦闘中は小出しで使う様にしていた。
息を荒げながら警告するディルムッドを、それでもノーランは押し退け前に出る。泥の付着した部分が痛みにも痒みにも似た不快感を伝えてくるが、参謀の要望である情報が欲しいノーランは黙殺した。
……それに、ノーランには確認したい事が出来ていた。
「いいからディルムッドは下がってろ! ……どうして『副団長』と闘ってたディルムッドを気にも留めようとしないのか疑問だったが……そんな事よりナナシは俺を気にしてたのか……北門で闘う、俺を、見てたのか」
ノーランの確認の言葉に、ナナシは耳まで裂けた大きな口を喜色に歪めながら両腕を振り上げる。
『そうだ! 見てた! ディランと良く似た姿で、なのに真逆な魂を持ったノーラン! オマエを見てた! 一緒に見てた! 綺麗なアオいオニビを纏う、お前を! 『団長』は見てたんだ!!!』
ディルムッドは意味が分からないと顔を顰めたが、ノーランはナナシの言葉を理解した。
「ああ……今日は、厄日だ」
ろくな事がねぇ、とノーランは眉間にシワを寄せながら呟き、頭上から振り下ろされた攻撃を避ける。2度3度と繰り返される攻撃を、避けきれないものだけノーランは全力で剣で受けとめ致命傷を回避していた。
『ノーラン! 何故だ! オニビは何処にいった!? ぁあ……弱い! 今のノーランはっ! 楽しくない! 楽しくないっ!!! ……何故弱くなった! ぐるるる…………その封印のせいかあああああっ!!?』
ナナシは耳まで裂けた大口からも泥を吐き出し、怒号を周囲に轟かせる。この時剣で攻撃を受け止めていたノーランは、至近距離の轟音に気が一瞬逸れた。これが隙となってノーランはナナシの一撃に吹き飛ばされる。3メートルはあるだろう、ナナシの体長とほぼ変わらない尻尾に薙ぎ払われたのだ。
しかし飛ばされた先がディルムッドの居る方向だった為、自らぶつかる様にノーランを抱き留めたディルムッドと共に地面を転がった。ディルムッドのおかげで数メートル程後退し、闇色の泥も影響して≪結界≫は使い切ったかもしれないが2人共にダメージは無かった。
「ぐ、う、……があっああ!」
しかし、ダメージが無かった筈のノーランがディルムッドも見た事のない苦悶の表情で呻き始めた。脂汗を流しながら、血糊で汚れた剥き出しの右胸を掻き毟る。ノーランの爪が血糊か自身の血で赤黒く染まっていく。
「ノーラン、どうしたの!?」
「ぐぅ、ぐる、る……ディル、ムッド……っ俺、からっ、離れろっ……はやく!!!」
抱き起こそうと腕を伸ばすディルムッドをふり払いながら、ノーランは剣を支えに立ち上がる。この直後、ノーランの右半身が薄青い炎に包まれるのを見たディルムッドは炎の熱風に足を止めた。
ナナシはノーランの苦しむ姿に喜びの雄叫びを上げ、ディルムッドは怒りの感情のまま白銀の大盾を胸の前に構えナナシに突進した。
『ぎゃはははははははははははは、は! それだそれだ! アオいオニビ!』
ノーランへと向かうナナシの進行方向にその身を持っていったディルムッドは爆音と共にナナシの攻撃を受け止める。
「ナナシ……ノーランにっ何したの!?」
『ぎゃははははは! ……ああウルサイ! 虎男、邪魔だ!』
ぶわりと膨らんだ殺気と共に高速で振り下ろされる攻撃に、しかしディルムッドは大盾1つで受け続ける。
「っ……俺、ナナシの邪魔、ずっとする! ノーランは俺の友達でっ、これからは義兄ちゃんなんだ! 俺の家族なんだ! ……邪魔する! ここはっ、絶対退かない! 俺の家族は、もう1人だってナナシに渡さないっ!」
ナナシからノーランを守る様に大盾を構えたディルムッドの青みがかった灰色の前髪の向こうで爛々と輝く金色の瞳に、ナナシは笑うのを止めディルムッドの顔を凝視する。
『…………その色……ツキ……虎男……オマエ、ディランと同じか?』
「にゃっ、それ、どういう意味……っ!?」
ボソボソと呟かれたナナシの声を、ディルムッドだけでは無くノーランも聞いていた。
「≪ライトニング≫!!!」
ノーランは数メートル空いたナナシとの距離を魔法で加速しながら一瞬で詰める。勿論、制止を促そうと腕を伸ばすディルムッドを避けて。
ディルムッドを凝視していたナナシも武器で応戦しようとしたが、ノーランはその前に大地を力強く踏み込み、瞬間、飛び上がった状態でナナシの頭上に、その狼頭を叩き割る勢いで聖剣を振り下ろした。この時ナナシの片腕を足蹴にしながら足場にもしたノーランは、薄青い炎を纏った状態の聖剣で、ノーガードだったナナシの頭を真っ二つに、その喉元までを叩き割った。
『が、ひゅっ』
「っ俺の友達に興味持ってんじゃねぇよ! ゴミ!」
一回転しながら大地に着地したノーランは、呼吸を乱しながらも即座に立ち上がりナナシに剣先を向け罵る。
「ノーラン!」
「っ……大丈夫だからっ、今は寄るな抱き着こうとするな!」
「にゃっ……、……みぃ」
半泣き状態で側に走り寄って来たディルムッドに、ノーランは苦虫を千匹は噛み締めて飲み込んだ様な苦渋の表情を浮かべながら牽制した。ナナシの興味がノーランからディルムッドに移る可能性に苛立っているのもあるが……ただノーランは、こんな風に心細げに鳴くディルムッドを見たくなかっただけだった。
本人に自覚があるのかどうかは分からないが、元々獣人特有でスキンシップの多いディルムッドは幼い時分に大勢の死に触れてしまった為、生きて暖かい人肌に触れて安堵しているだろう事をノーランは理解していた。
それは遊び疲れて眠った幼いディルムッドを背負い、ユーリ王子達の居る客間に連れて行く時に見た、シャツに爪を立てながら悲しげにみぃみぃと鳴く姿を知っていたからだった。この時、ディルムッドが眠ると必ずノーランに対して憎まれ口を叩いていたアオツキも何もせずただ静かにしていた。まるで寄り添う様に側に居る気配だけがいつもあった。
「はぁ……ぁああ、俺の、体だろっ……言う事、聞けよ……っ!」
初めは不憫な子供、次には恩人、しかしその次には幼くも愛らしい友人として接する様になった2人の、時折見せられる悲しみに暮れる姿をノーランは常に不快に思っていた。にゃあにゃあぎゃあぎゃあと楽しげに喚くのが2人には似合いなのだ、と。
ノーランは、自身と変わらない体格にまで成長した暑苦しい筋肉質な男であるディルムッドに(例え中身がアオツキの時であっても)飛び付かれても、押し倒されても、頬擦りされても、トドメに顔をベロンベロンと舐め回されても、1発殴る位で基本的に許していた。ノーランにとって、ディルムッドはいつまでも可愛い弟の様な友人で、アオツキは精神年齢は不明だったが同年代の悪友の様に接し側に居たのだ。
脳が茹だる様な熱を右半身……今は頭もすっぽりと薄青い炎に覆われたノーランは、炎に炙られながらもコントロールしようと≪心眼≫で魔力の流れを見ながら模索する。
どうやら右胸に現れた痣が竜種の力を制御し封印していたらしい。しかし今は痣に泥が付着し、侵食されその機能を失っている。痣から噴き出す薄青い炎がノーランの思考も溶かしていく。
「みぃ……ノーラン!」
切り口が綺麗過ぎたのか、やはり瞬く間に割れた狼頭を修復したナナシは耳まで裂けた口で笑い出す。ディルムッドと違い頭蓋を割った手応えの残るノーランは、ナナシの再生力に歯噛みした。
『ぎゃはは! これでノーラン、アオいまま! 強いまま! さぁ、もっと! もっともっとっ! 闘え!』
「……は」
今の間もアオツキ達の話し合いは続いている。マイ達の≪聖結界≫が上書きし終わるまでの時間稼ぎは、ナナシに対する攻撃手段を持たないディルムッドにも、今の状態のノーランにも難しい事だった。今日だけで何度か繰り返した……竜種として生きる事を選んでいたら、今の状況も変わっていたかもしれない……しかしそんな思考を、ノーランは小さな嘲笑で終わらせた。
「はは……っ、俺に、炎龍は必要無い……竜種の血が無くても、俺は……!」
ノーランは例え今、過去に戻れたとしても竜種の力を不要と断じる自信があった。ノーランの身に宿るのは青い炎を纏う、炎龍。その熱量はいつでも自身の周囲を、自身の理性を焼き尽くそうとする。
「俺は! 強いんだよバーカ!!!」
自身と肩を並べて闘うべき親友が、炎の向こうに居る。今のノーランは、炎が邪魔で邪魔で仕方が無かった。
ノーランの頑なにあらがう姿に、ナナシは地団駄を踏みながら耳障りな雄叫びを上げ、ノーランに特攻しようと足裏に力を込めようとして……。
『なんで、ナンデ我慢するんだ! もっと狂えよ! 滾れよ! ノーランも『団長』と一緒に、このセカイで殺し続けろよ!!!』
「んなの却下だ、阿呆」
ナナシの雄叫びを遮る様に、いつの間にかノーランの胸元に陣取っていたアオツキがそう宣った。丁度、薄青い炎が噴き出すノーランの剥き出しの右胸、その前に。
「ばっ離れろアオツキっ!?」
「ふん! 大人しくしろっ、ちょっとザクッとするぞ!」
そう言って、ノーランの声を無視したアオツキは、鎧も服も纏っていない剥き出しの右胸に、黒く鋭く尖った何かのカケラを突き刺した。
ノーランは刺される苦痛を感じる前に、バチバチバチ、と青い火花が散りながらアオツキ目掛けて炎が溢れるのに蒼褪めた。
「やめっ……!?」
「≪スキル・キャンセル≫!」
ノーランの制止の声を遮って紡がれた言葉に呼応する様に、青い火花が苛烈に迸る。しかしそれも直ぐに収まってしまう。あんなにも苦痛を伴いノーランの全身を覆いつつあった薄青い炎が、アオツキが傷付けた胸の痣に呼応する様に右半身に集まり、次に剣を持つ右腕に炎が伸びた。そうして、白く光り輝いていた聖剣を青白く染め上げる。未だ腕に薄青い炎が纏わり付くがほのかに暖かいのみで苦痛に苛まれる事が無くなっている。良く確認すれば、ノーランの体に纏わり付いていた闇色の泥が綺麗さっぱり無くなっていた。
「お、上手い具合に収まるな。これなら……ディルムッド!」
「み、みぃ」
「うっ可愛い顔がしょっぱい感じに……ああもうノーランに近寄っても大丈夫だから! お前の持ってるゲイ・ボルクさっさと装備してこっち来い!」
「にゃ? ……っ、にゃ、にゃい!」
そうしてアオツキの意図に気付いたディルムッドは、右腕のみで大盾を持ち直し左腕に赤黒い長槍『ゲイ・ボルク』を装備した。そしてノーランの剣と穂先を合わせる。勿論、そうしながらもナナシに対する警戒は怠らない。ナナシはノーランの様子が変わった事に憤慨していた。
『な、何だ!? どうして!? ノーランの力が弱まったぞ!? どうしてどうしてドウシテどうしてっ!? ……せ、世界樹……オマエ、何してる! ディランの剣で! 何してるっ! そんなに殺されたいのか!!?』
武器を握ったまま頭に爪を立てがなるナナシに、アオツキは鼻で笑う。
「ふん、嫌だね! ……元々ナナシ、お前と心中するつもりで持ってたけど……僕の欲しかったモノが自分からやって来たから……死ぬのは、止めたんだ! そうだナナシ! お前とノーランは違う! ノーランは血に酔わない! 力に惑わない! 闘いに、狂ったりしない! 僕の隣に在るのが相応しい!」
傷を癒す為胸板にしがみついたままそう高らかに宣言するアオツキに、ナナシとノーランの視線は向けられていた。
「だからナナシに弄ばれるとか……はら…ませ、とか! 却下だから! そんなのっ、……そんなのっ、ノーラン以外お断りなんだからな!」
「うんちょっと自分の体格思い出してから発情しろや」
ノーランの胸板にくっ付いた状態で話すアオツキの頭を、アイアンクローさながらに握力を込め掴みながら引き剥がしたノーランは呆れた風に罵倒した。
「にゃっきゅううぅ!」
「おいそこ! ディルムッドも変に嬉しそうな鳴き声上げるな! こんなちびっこいのに最後までする訳ねぇだろ! 俺は変態じゃねぇ!」
「……ふにふにゃ、ふにゃにゃにゃにゃふん!」
「その猫語止めろ! ぜってぇろくな事言ってねぇだろお前!?」
しかし、虎耳きょうだいに反省の色は皆無だった。
『むっ、むっ、無視するなぁああああっ!!?』
ナナシの感情に任せた突進を、右腕に装備した大盾でディルムッドが受け止める。そして利き腕に装備した……その穂先にノーランの青い炎を宿した赤黒い長槍をナナシの脇腹目掛け、渾身の力で突き貫いた。
次の瞬間、ケモノに喰い千切られたかの様な楕円形にナナシの脇腹は抉れる。これに驚いたナナシは即座に数メートルの距離を後退し、歯噛みしながらノーランの側に陣取るディルムッドとアオツキの2人を睨み付けた。
『ぐるる……お前ら、何でだ! どうしてっ虎男がこの体を傷付けられる!?』
「ふん! 何でって……ディルムッドの武器コレクションが豊富だったってだけの話だ!」
ディルムッドの装備した魔槍『ゲイ・ボルク』とは、属性問わず、取り込んだ魔力を解き放つ事で広範囲攻撃を可能とする、赤地に黒いいばらの蔓を模した紋様がびっしりと刻まれた長槍である。取り込む魔力量が多ければ多い程範囲が広がり、装備者のステータス魔が高ければ高い程威力が増すのだが……取り込んだ魔力をそのまま溜め込み、攻撃力を上げたり属性を付与させる事も出来る。
ノーランの持つ炎龍の魔力、そして聖剣の魔力どちらも取り込んだ結果ナナシさえ攻撃出来る魔槍に仕上がった。
ノーラン、ディルムッド、アオツキの3人はナナシへと視線を向けた。ナナシの残った左眼は殺意しか宿しておらず、ノーランだけでなくディルムッドとアオツキまでも標的とした事を告げていた。
アオツキの、青灰色の瞳が瞬きの合間に輝きを増す。
『ぐるっ、ぐるるるおおおおおおおおごろじてやるうううううぅううううう!!?』
潰れた眼孔から泥の涙を流すナナシにはもう、この3人しか標的として映らなかった。
異世界から現れた聖女の存在も、高速で空を駆ける白銀の影も。ナナシには認識出来なくなっていた。
「ほら、僕も良い仕事するだろ?」
「そうだな……でもまた俺に使ったら、アオツキが気絶するまで虎耳と虎尻尾いじり倒す」
「俺も。力一杯、尻尾、握る」
「みぃ!?」
アニキの胸板に飛び込めたんだから、頑張ろうにいねぇちゃん。
そしてディルが猫語(笑)で何を言ってるかは、読んでくれてる皆様の好きな言葉で大丈夫。…そうですね、ノーランの予想通り、ちょっとお下品な言葉使ってるでしょうね!




