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107:前哨戦2


今回はマイ視点になります。前回の胸糞なセリフは使い回してます。

それでも宜しかったらどうぞ!


 


 びゅうびゅうと風を切る音を聞きながら、私は白銀の鱗を持つ飛龍へと進化したルシファーの背中に必死にしがみ付く。


 前々回、ディルと初めて出会った森での移動中は気絶した。

 前回、ノーランの危機に急ぎサルーの町に戻る時は何とか意識を保ってた。慣れって大事!

 だから、私は今回も大丈夫。……私の武器でしか闘えないんやから、寝てる暇なんか無いねん!

 私が決意も新たにした、この時。



『りゅっ!?』



 鋭いルシファーの鳴き声の後、私とディルがしがみ付いた背中が突然、激しく揺れた。



「きゃあっ!!?」

「っ!!?」



 ぎゅっ、とディルに背中から体全体で固定されたおかげで私は振り落とされずに済んだけど。横揺れ通り越して回転でもした様な衝撃やってんけど!



「ルシファーっ、大丈夫!?」


『だ、大丈夫……るるぅ、間違えて、()に当たっちゃったのぅ』


「か、壁ってここ空……」



 そう言いながらルシファーの背中から顔をあげれば、下には円形状の町並み、上は雲が少し帰って来た空……そして私の頭上に注意深く見ないと分からない、うっすら紫色に光る……半透明の壁!?




「まさか≪結界≫!?」


『マイのとはちょっと違うよ? これは≪名無しの軍団(ノーネーム)≫が出現すると現れる壁なの! 壁の内側がダンジョン扱いなの!』


「……そう、なの?」


『うんっ! 今のルシファー、ルシファーの母さんの記憶(おもいで)も少しあるから分かる、知ってるの!』



 ルシファーの言葉に、私は戦闘が始まった時に感じた違和感の正体に成る程と納得した。他の冒険者よりダンジョン探索の少ない私でも、あの独特の雰囲気は分かる。この薄紫色の≪結界≫が、サルーの町の……ううん、この特別なダンジョンフィールドの範囲って事か。



『何でか分からないけど、ヒトは出れないの。でも今のルシファーなら……出れる、かも? モンスターは出入り自由!』


「……分かった。元々出る気は無いし構わんよ!」



 私は右手に銃を、左手にルシファーの背中から飛び出した骨の突起を持つ。……ここからが勝負や!!!



「にゃっ! マイ頑張れ!」


「……っ任された!!!」



 私は空の下、町の中央で黒く蠢く闇を見た。涙はもう滲ませない。闘いの邪魔になる。

 スキル≪鷹の目≫を発動させた私は気合を入れて……撃って撃って擊ちまくる!!!

 これがあの人達を助けられる方法なんやと、信じて!



 出来るだけ苦しみを少なく、一撃で。

 そんな私の想いに応える様に、私の放つ銃の一撃一撃が少しずつ大きくなって、今じゃ私の握り拳サイズ。MPは10ずつ減ってるけど、それは構わん。


 擊ちながらも私の思考は止まらない。

 緊急依頼の意味とか、姿の見えないサーリー達の事とか、リカルドさん達の事とか、……未だ連絡の絶えてるツクヨミ様の、事とか。



「……っぅうううゔあああああああああああああああっ!!!」



 集中したくても、やっぱり色んな事が頭の中を駆け巡る。どうしてこんな事になったのか。闘う覚悟はしてたつもりやった。死にたくなくて、私と家族になってくれたディル達とずっと一緒に居たくて。……でも、こんなつもりじゃ無かった。こんな哀しくて、悔しくて引き金に指掛けてるなんて!


 ……この異世界がある意味めちゃくちゃなのは、結局は神様達が原因なのか。

 私の心の中は考えは纏まらずやっぱりぐちゃぐちゃ。それでも攻撃の手は止められない。そりゃあ負けて生きたままゾンビになるのも嫌やけど……今は、只々あの人達を自由にしたいって気持ちが強かった。きっと、あの人達の望んだ形じゃないかもだけど。倒してしまうのが本当に正しいのかも分からんけど。


 それでも、何とかしたいと心がから回る。

 どうしても、あるべき場所に帰してあげたいと思ってしまったから。


 だから私は町の中央に向けて擊ち続ける。頭が吹き飛んでも消えない場合は間髪入れずに腕や胴体も消し飛ばす。MP切れ起こしそうになるタイミングを見計らって、ディルが私にエーテルぶっかけてくれた。

 途中、視線の隅っこに黒い鳥っぽいのが見えた気もするけど。



「マイは、そのまま」



 少しの振動と鳥っぽい動物の断末魔が聞こえた後、そう言って私の頭を優しく撫でたディルに私は一度だけ頷いた。お言葉に甘え、そのまま視線を上げず銃を撃ち続ける。



「ルシファー、ブレスの反動が最小限になる様にも少し範囲を絞って! マイの邪魔はしちゃ駄目!」


『ぐりゅるるるるぅ!』



 私の背中から少し離れたディルは、ルシファーに細かく指示を出しながらひゅんひゅん、と風を切る様に弓矢を放ってるらしい。鳥っぽい動物の断末魔の声が何度も何度も聞こえた。私はルシファーを中心に、私達ごとぐるっと囲む様に≪結界≫と≪聖結界≫を使う。これならある程度の接近を抑えられる。


 そして獣達の声に混じって、ジリリリジリリリと昔ながらの目覚まし時計の音が私の耳すぐ近くで鳴り響き。



『あっはっはあ! まーにーあーうーかーなーあっははははははははは!』



 舌足らずで、生理的に受け付けない、不愉快な声が私のはるか下から聞こえて来た。



『このままだとぉ、今回はこっちの完全しょぅうりになるなぁ! うれしいなぁ! うれしぃなあああ!』



 スキルのおかげで、あの人達の口が一斉に言葉を紡いでいるのが分かる。私を気にしてるディルとルシファーの視線を無視して、私は無言でギルドの広場にある闇色の頭をまた吹き飛ばした。


 只々、ふざけんなと思いながら私は引き金を引く。



『なぁに、言ってるの? 君たちが『団長』や『ナナシ』って呼ぶから、それで良いことにしたのにぃ! 忘れるなんてひどいなああぁあ!』


『そんなぁことよりっ、……あ、15分まえになったから、おしらせだよおお! ほんとぅは『副団長』を倒せたヤツだけに教える決まりだったけどぉ……ディラン、自分で自分をこわしちゃったからぁ……今回は特別に、()()()()皆に教えてあげるうぅぅ!』



 どうやらギルドに居るリカルドさん達と会話してるらしく、どう聞いても挑発しながらの返事に皆は、リカルドさんは怒ってるだろうな、と私は思った。


 だって私は、怒っていたから。



『この、哀れでみにくい、かわいそぅな()()()をぜぇんぶこわしたら、みぃんなが会いたい『団長』はあらわれるよお! もっちろん、『団長』をたおせたら遊ぶのもおーわーりぃ。みぃんな撤収! だからぁ、ほらほらっがんばってぇ?』



 ぎりぎりと歯を食いしばりながら、私は乱射するスピードが劇的に変わったのを感じた。片手銃やのに、引き金さえもう引いてないのに、映画で見た事あるマシンガンみたいに、ジャカカカって音出しながら乱射してる。



『そうそう! ちゃあんと泥人形こわしたら『団長』は現れるけどぉ、………………『団長』と闘う上で、注意事項があるわけだよ』



 後半、何となく声音が変わった気もするけど些末な事。腹立たしいのは変わらない。



『なぁに、冒険者である君達には簡単だ。ただ()()()()()()()()()だよ!』


「ふざけんな」



 私の呟きに、ディルは私の背中を撫でて同意してくれた。



『ふざけてなどいないさ! ……『団長』と闘った者はね、()()()()()()()()死ぬんだよ。例え途中、それこそ『団長』との戦闘中に他の誰かがダンジョンを解体して生き残っても。何があっても、強制的に死ぬんだ。……倒された『副団長』の()()()()()()()()()()()為に、ね? 『副団長』を倒した者は、呪われるのさ。……凡そ17年前、『幹部』と名の付くモンスターにほぼ1人でとどめを刺したディランの死は、必然だったのさ!』



 私の背中を撫でながら、私が落ちたりしない様に私の腰部分にのしかかる様にルシファーに跨っていたディルの太腿が、動揺からかほんの少し震えた。



『ぎゃははは! そうだろそうだろ、知らなかっただろう!? ぎゃははははははははははははははははっ!!!』



 その下卑た笑いを、止めろ。

 あの人達の口で、あの人達の魂を、ディルのお父さんを、これ以上汚す様な言葉を吐くなっ!!!


 ジャカカカ、ジャカカカと私の怒りに呼応する様に銃撃は激化していった。



『ぐるるるる! さぁ、時間も残り10分を切った! 早く泥人形を倒し『団長』にも闘わせろ! ……そうだそうだっ! これも知らないだろうから教えてやろう! 『団長』と闘えるのは条件を満たした者だけ! 今回は『副団長』が自害したからな、条件は簡単だ! 異世界関連の攻撃手段を持つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だぞお!』



 そんな条件あっても無くても関係無い。

 私が、私が『団長』(おまえ)の脳天に風穴開けたるわ!!!








『……、…………マイ』


「っ……今更っ言い訳しに来たんかっ…………ツク……ヨミ、様?」



 聞こえて来た憎たらしくも愛らしい声音に、今まで止めなかった銃撃を思わず止めて頭を上げた私の眼前に、神様は居た。

 でもその姿は、私の予想斜め上やった。




『マイ…………伝言を、頼む』


「あ……あ……っ?」


蒼月(アオツキ)の唯一に……ワシはもぅ、……答えを直接、言ってやれんだろうから』



 幼い体の半分を、不自然な位、それこそパソコン作業で修正や画像処理された写真みたいに真っ黒に染め上げた歪な姿で……ツクヨミ様はそれでも優しく微笑んでいた。




『ぐるおおおおんっ! ……さぁ驚けっ! 怯えろっ! 次の『副団長』は……()()()()()()()()だあああああ!!!』


「にゃ!!?」

『りゅ!!?』



 何言ってるか、分からん。驚いてるらしいディルとルシファーの声が、何でか遠い。それに2人の様子も変や……もしかせんでも、このツクヨミ様が見えて、ない?



『……創造神ツクヨミは、ノーラン・ホークの覚悟をしかと、受け取った。……我が愛子、()()()()()()蒼月(アオツキ)の伴侶と、認め……、……、どぅ、か……この世界に、悠久の、……ときを……』




 顔の右半分も真っ黒なツクヨミ様は、尻すぼみに声を小さくしながらそう言い残し。

 やっぱり、場違いな程優しい顔で笑って……消えてしまった。





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― 新着の感想 ―
[一言] マイ頑張れ…!超頑張れ……っっ!!(。>д<) 応援するしか出来ないワタシを許して…筋肉愛でたりとか砦の崩壊を願ったりとかしてる場合じゃナイのね…っ! でもワタシがこんなフラチ千万な行いに…
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