104:にいねぇちゃんサイド2
長いからとぶった切ったはずなのに、やっぱ物足りないので臨時投稿。
引き続きにいねぇちゃん視点です。それでも宜しかったらどうぞ!
「ラース……?」
おチビはユーリディア王子から『月の涙』と呼ばれる宝石の付いた首飾りを貰っていた。アレは、今はもうサーリーにしか使えない転移魔法が付与された魔道具だ。古く脆くなっていたが一定距離……例えば町と町、町の中を移動する程度なら可能だった、筈だ。ラースはそれを使って此処に……否、違う。
ラースはおチビから絶対に離れない。何故ならおチビの気配は北門から離れてない。現に、ラースの魔力はものの数秒で四散して………………?
「…………ノーラン?」
居る、下に。
僕はアイツと繋がってたんだ。分かる。確実にアイツが……ノーランが、居る!!!
「……っ」
顔が見たい。駄目だ。声が聞きたい。駄目だ。触りたい。駄目だ! くっ付きたい。駄目だ!!!
「は、離れ、ないと……」
僕が今マイ達にも認識出来る姿形を持ってるのはスキルを解除したのもあるけど、とある聖属性のレアアイテムを一時的に依代にしてるからだ。
肉体を得れば能力は格段に上がるが、その場合、魔力さえ有れば存在出来る精霊であっても『死』という概念が生まれる。……つまり、肉体を得れば寿命が発生する。だから肉体を得るのは1度きり。それを僕は、今は仮の肉体を得ているのに精霊のまま。能力も底上げされてて、これは本来の精霊には出来ない僕の奥の手だ。
ディルにも詳しく言った事は無いけど、能力や効果時間が伸びるのは有難いから便利ではある。まぁスキルが使用回数制になったり、依代に出来るアイテムも聖属性のレア物、と固定されてるのは厄介だけど……今日を乗り切れれば、それで良い。僕は今日、ナナシと相打ちになるのだから。
……残りの使用回数は、6。使い切ればアイテムは破壊される。このアイテムの追加も無い。だからこれは『団長』に温存したい。
「ぅう……」
そう、思ってるのに。僕の体は自然と空へと引っ張られる。
……弟の居る、空に。
「……なんて、卑しいんだ」
気力を振り絞って体をその場に踏み留まらせながら、僕は僕の心に、本能に絶望した。
こんな状況でも、覚悟を決めたつもりでも、僕はノーランを望み肉体を求める。それも、ディルの体を。友に託された、可愛く愛しい弟の死を! 今も僕は本能的に望んでいる! 何と罪深い事かっ!!!
……早く、ギルドから離れよう。
1回だけ、スキルを使おう。幸い≪不可視≫を施せば姿も気配も認識出来ない。そのまま『団長』が現れるまで、不意打ち出来るまで待とう。……当時は偉ぶって誤魔化したが、ノーランには何故か気付かれたんだ。アイツのスキル本当に嫌いだ!
アイツも竜種の力を使っての戦闘に、消耗してる筈だ……不安だけど、少し距離を設ければ本調子じゃないノーランを誤魔化せる可能性も無くは……。
「おい!?」
「「ノーランの兄貴っしっかりしろ!!!」」
ギルドから距離を取ろうとしていたのに、そんな叫び声が階下から聞こえた事で僕の体は勝手に屋根に開いた大穴に飛び込んでいた。
3階2階をスルーし、広々とした1階受付。
戸棚や椅子だった物が瓦礫となって室内に散乱する中、双子とリカルド、ポルクと2人のエルフが……床に転がる何かに集まっている。
「フェール!!!」
「「フェールおじちゃん!!!」」
「っ……無駄です。アイテムが、使用不可ですっ……使えないんです! もう、もう、手遅れで……っ!」
「っ……」
コイツらは、何を、言ってるんだろう。
どうして、双子は泣きそうになってるんだろう。
どうして、リカルドとポルクは片手で顔を隠す様に拭ってるんだろう。
どうして、フェールは跪いたまま頭を上げないんだろう。
どうして、無表情のエルフは……床に転がる何かから、視線を逸らすのだろう。
さっきから何して……何言ってるんだ、お前達。
床に転がってるのは、微動だにしない誰かは、鎧も纏わず晒された上半身をどす黒い赤に染められたのは……………………。
今は閉じられ、見る事が叶わないペリドット。光を孕んだ葉っぱの様な、明るく煌めく緑の瞳。
……もう2度と見られないと意識した途端、僕の中で何かが弾けた。
「どけえええええええええっ!!!」
天井付近で叫びながら、僕は依代にしていたアイテム……『世界樹の葉』を己の頭上に掲げながらノーランへと使用する。……なのに、使用出来ない。何度、使用しても不可になる。
『どうして! どうして! どうして!!!』
周囲には、僕の姿が突然搔き消えたかと思えば淡く光る葉っぱが現れたんだから驚いた事だろう。でも僕に、そんな周囲を慮る心は消失していた。
回復アイテムが使用不可になる原因はHPが全快か……既に死亡しているかの、2択。心の冷静な部分がそう断じる。
『嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああっ!!?』
血臭がする。死臭がする。……ギルドの床に、まるで物の様に転がるノーランから。
生き物の、生きている気配が……感じられない。
『ぁ……ぁ……』
くしゃくしゃに顔を歪めた双子を横切り、僕はノーランへと近寄っていく。溢れた涙で、前が見えなくなった。ノーランの顔が、表情が、もう見えない。
……それでも、上半身が血みどろなのはその色で分かってしまう。
全身の力が抜けてしまった僕は、掲げていた『世界樹の葉』を取り落とす。頭上にあった葉っぱがゆっくり、ひらひらと僕の前を落ちていく。
落ちた葉っぱは、ノーランから垂れ流された血溜まりに落ちる前に、……僕の下から伸ばされた腕によって、僕ごと回収された。慰める様に僕の後頭部を撫でる手のひらはとても優しかった。
『ひっく……の、らぁ…………うぇっ、ぐすっ………………ぅうゔ…………ん?』
……ちょっと、待て。
あやす様に僕の頭を撫でながら、それでいて逃さない様にガッチリ背中を掴んでる、この下から伸ばされた腕って……確か背後に双子と無表情エルフ。……ノーランを挟んで向かいにフェール、その背後にリカルドとポルク……位置的に、全員、違うよな? てか、今の僕に体は無い。仮初の肉体だったレアアイテムも回収されてて姿も見えない、筈で……?
なら僕に触れてる、この……体温高めな腕と大きな手のひら…………誰、の?
ふわり、と体に魔力が巡る。
あ、『世界樹の葉』を仮初の依代に選んだ時と同じ感覚だ、と首を傾げた僕の耳に。その声は届いた。
「よお、アオツキ」
耳に馴染む、低い男の声が忘れている筈の僕の名を呼ぶ。
「やっと捕まえたぞ。クソ野郎め」
涙で歪んだ視界の向こう。
床に転がったまま僕を捕まえた男は、それはそれは楽しげな雰囲気のまま……僕の見たかった、ペリドットの瞳を煌めかせながら。
リカルド達の面前で、僕の口を塞いだ。
そんなこんなで捕まったにいねぇちゃん。
これから大変そうやねぇ。でも頑張れ。
負けるなアオツキ。挫けるなアオちゃん。明日はきっと素敵な天気になるさ!( ̄▽ ̄)




