103:にいねぇちゃんサイド1
前回、マイとディルムッドを乗せてルシファーは空高く昇って行きました(比喩にあらず)
今回はにいねぇちゃん視点で進みますがちゃんと続きです。しかし、にいねぇちゃんは色々あってちょっと鬱々でウザくてハテナな部分が多いです(え)
それでも宜しかったらどうぞ!
「……」
白銀の鱗は青空の中、光を受け虹色に煌く。
その光景は僕にとって……酷く懐かしく、酷く愛おしく、……酷く、残酷な光景だ。
進化の果て、昔馴染みは孤独と絶望を味わいながらも進化の過程で手に入れた己の能力を切り離し、結果子沢山になり孤独は多少癒えたようだ。それに偶然か必然か、末の子は……母親の名を受け継ぎ、彼女のしたかった役割さえ受け継いだ。
その結果……昔馴染み以上の孤独が待っている事を、末の子とおチビは理解しているのだろうか。
「……聖の名を持つ精霊殿は、行かなくて良かったのか?」
「……」
リカルドがポルク達に説明する中、無表情なエルフが僕に視線を向けてくる。表情だけじゃ何を考えてるのか分からないのに、その瞳は何事か言いたげで……その様子が、思い出せない遠い昔の誰かに似ていて、怖かった。
「……」
エルフの言葉に僕は答えられない。少しでも手助けしたかったと思いはしても……行ける訳がなかった。だって、マイの側に居たら僕に対する怒りで彼女の気が散ってしまう。その激情は≪憑依≫の的になる。
『ああああえぇぃいいいああああいいいいいい!!!』
……彼等の叫びを正しく理解したマイを、結果的にディルは宥めてくれた。でも僕は、もっともっと責められるべきだ。……罵られて当然なんだ。悲しむ権利も、嘆く権利も僕には無い。
「……っ」
……ああ、僕の精神は如何してこんなに脆弱なんだろう。分かっていても体が勝手に震える。
それを感じ取って、僕の視界のすみっこにおどおどしながらおチビの護衛だった精霊達が入り込む。ギロっと睨み付ければリカルドや戻って来た双子達の頭の後ろに急いで隠れた。おチビにまだ何か指示されてるのか……そうだ、危ないから僕には近寄るな。万が一、巻き込まれたら最悪だ。
すると丁度、どどど、と青空から銃撃が始まった。
吹き飛ばされた雲が少しずつ帰って来たらしく、上手く雲と雲の狭間から攻撃しているらしい。……うん。僅か数ヶ月分の戦闘経験で6割、頭に命中させるとは中々の精度。でも制限時間に間に合うかは……正直、微妙だ。異世界属性の武器が弱点でも、周囲に満ちた闇の魔力を吸収して多少回復してる。頭が潰れても再生するなら……ヒトで言う心臓や脳の役割を持つ核を、身体の中で常時移動させてるのかもしれない。
それに、雲の合間に黒い影がちらちら見える。飛行出来るモンスターが邪魔しに来たらしい。マイに集中してもらう為に、応戦するのはディルとルシファーだ。
「……『団長』は必ず現れる。各々準備していろ」
それでも僕は、不安を感じない。彼等なら何とかすると信じられる。
「……」
誰にも邪魔されたくない僕は、無表情なエルフを無視してふよふよと屋根の上まで浮き上がった。北門のある方角、ギルド正面から見て裏手へと視線を向けた。……闇の魔力が、濃い。確かにラースの魔力を感じるけど、それだけじゃない。
≪名無しの軍団≫が現れる地域一帯はダンジョン化し、≪名無しの軍団≫だけじゃなくアンデッド仕様のモンスターが召喚される。
そして召喚されるモンスター数は、おおよそ決まってる。それは一定数のモンスターを討伐すればダンジョンの要、核本体が現れる仕様になっているから。……北門に現れてるのはダンジョンの核なんだろう。もし今、核を破壊すればダンジョンは解体され≪名無しの軍団≫は去り、緊急依頼は一旦終了する。
……しかし、倒されたモンスター数と人々の被害者数によって一定期間休眠した後≪名無しの軍団≫は戻ってくる。今回の休眠期間が短いのも、被害者がポポの村の者だけで、王都で闘っていた者達の死者が殆ど居なかったからなのが原因だと考えられる。
ダンジョンの核を所有物化し、扱えるのは『団長』だけ。だから『団長』を倒さなければ、この闘いは終らない。それも、いくつもの条件をクリアした状態でないと『団長』は現れない。……ディランは死の間際、ディルに別れを告げると共に僕にその情報を念話で伝えた。あの日あの時、僕のやるべき事は決まったんだ。
でも今回……その条件は強制的に変更された。ディランが自ら死を選ぶという、そんな方法で。
……ディランは馬鹿な男だった。不幸しか呼ばないだろう僕を、家族として側に置いた変わり者。嬉しいと思いつつ渋い顔しか浮かべなかった僕を見ても「しゃーねぇなぁ。俺の子が嫌なら……ダチなら良いだろ!」と笑うような、本当に馬鹿な男だった。
「……僕なんか、庇わなくて良かったのに」
『団長』が現れる条件とは、幹部と名の付くモンスター『副団長』を倒す事。
そう。僕達がディランを倒せば『団長』は現れた筈だった。だけど同時に、倒した者には逃れられない死の呪いが降り掛かる。これまで誰1人として『団長』を倒せなかった理由の1つは、これだ。……喜色満面に教えながら闘うナナシの、何といやらしい事か! それを聞いて怯む事なくナナシを倒したディランを僕は誇りに思ったものだった。
だから僕は、ディルがディランに向けた最後の一撃を意図的にずらしていた。ディルにはマイが……家族が出来た。だから僕が呪いを受けるつもりだった。僕が隙を見て、ディランの剣を使ってトドメを刺す予定だった。
……でもそれを悟っていたのか、ディランは自らの手で死んだ。
「僕の事は放っておけばいい……約束だけは、守るから」
そう。ディルを守ってみせる。例え僕が死ぬとしても。僕の代わりはまた産まれるのだから。
決意を新たにしながらも、僕の視線は北門のある方角から逸れない。
「…………アイツの声が聞こえないのは、変な感じだ」
おチビが北門でアイツと接触してから少しして、細々と繋いでいた魔力の鎖が千切れた。アイツとの繋がりは、もう無い。ディルと2人で施した封印は完全に壊れた。
この場所からでも北門がここと同じかそれ以上に濃密過ぎる魔力が充満してる空間だと分かる。……僕とアイツの契約は裏技みたいなモノだったから、いつかこうなると思ってたんだ。
……僕が切ったんじゃないけど。気付いたら怒るだろうな。
『クソがああああ、離せええええええ!!! ア、…………っ!!?』
……今でも、鮮明に覚えてる。
僕の名前を呼べない事に気付いて、怒りと哀しみを露わにしたアイツの顔を。声を。涙を。……アイツは、まだ僕の事で泣いてくれるのかな?
「……ああ、嫌だ」
思い出したくない。僕にはもう必要無いのに、こんな感情……だってもう、耐えられない。
いつから……いや、もしかしたら初めから。
アイツが大事にしていたお嬢様が救われた時の、泣き叫びながらも嬉しそうに笑っていたその顔を見た時から。僕はアイツに名前を呼ばれるのが怖かったんだと思う。
名前を呼ばれるたび、僕は無い筈の体が火照った。鍛錬や戦闘する姿を見るたび、僕は無い筈の心臓が痛くなった。優しく微笑んだ顔を向けられるたび、僕は無い筈の腕で縋り付きたくなった。
精霊の恋は、破滅を呼ぶ。分かっていたのに……役目も忘れそうになっていた僕は、あの日から笑うアイツの隣で美しく微笑む、アイツの大事なお嬢様を殺したくなっていた。
ちょっとした討伐任務から帰って来た次の日、動き足りなかったディルは城に来ていたアイツに付き合ってもらい鍛錬場で体を動かしていた。そうして休憩として、日差しの当たる場所で昼寝を始めた。
ディルの寝顔は身内贔屓じゃなく、愛らしく可愛い。男も女もちょっかい出す奴が居るのを知っている僕は、眠ってる体を借りて自己防衛していた。ただ目を開けて睨み付けるだけの牽制でも十分効果的だった。
アイツもその事を知っていた。だからディルから僕になった事を確認してから、時間になったからと数分前に鍛錬場を後にした。護衛対象であるお嬢様……アメリア嬢の、迎えの為だった。
……ディルが、最近アイツに会えなくて寂しがっていたから、もう少し、アイツと一緒に居ても良いだろう。丁度、今日は1日休みなんだし。……僕はどうでも良いけど、ディルが喜ぶし。見付けた所で起こしてやろう、と。そう言う、親心的な感覚で僕はディルの姿で城内に戻った。……忙しそうだったら直ぐに戻るつもりで、気付かれない様に気配も魔力も感じさせなくなる≪不可視≫を発動した状態で。
アイツの背中を見つけたのは、城内にある図書室前だった。アイツには似合わないが、護衛対象であるアメリア嬢が読書家なのは有名だった。案の定、アイツの隣で本を数冊借りたらしい彼女は微笑んでる。アイツの代わりに護衛していた数人の女軍人も居た。本を彼女から預かりながら……アイツは、周囲の女軍人達の熱視線も無視し、彼女と目と目を合わせ、優しく笑っていた。
獣人であるディルの虎耳に届くのは「今日は雨も降らず過ごしやすい日ですわ」「そうですね」と続く、ただの日常会話だったのに……たったそれだけだったのに、図書室を後にする2人の背中を見た僕は激しい嫉妬に襲われた。
『僕とアイツは見詰めあえない。アイツの目に映るのは弟だから。だって僕に、僕だけの体は無いから』
……だから、追い縋る女軍人達を見て考えてしまった。
男女関係無くアイツを慕う軍人達は多い。ディル以外にも普段から鍛錬を願われる。戦う事を好むアイツの為に、彼女は高頻度でアイツを送り出していた。あの様子なら今日もそうなる。……なら、その隙に、代わりの護衛共々この手で……。
「…………ディルムッド?」
今思えば、どうしてユーリディア王子に僕が……ディルを認識出来たのか分からない。僕が鍛錬場でスキルを発動させた瞬間を見ていたのかもしれないし、感じた違和感を頼りにしたのかも、とは後から考えたけど……真実はもう分からない。僕はそのまま鍛錬場まで全力疾走で逃げ、そのまた次の日にユーリディア王子に捕まって……その記憶を消したんだ。
あの時、ユーリディア王子が声を出さなければどうなっていたか。今思い出してもゾッとする。そんな思考回路に陥った事に、僕自身がドン引きしていた。
おチビや役割を忘れて思考していた事実が未だに信じられなかった。
そして……この出来事の後、僕は事あるごとに体を意識する事になる。ディルがアイツと一緒に居る時にどうして僕には体が無いんだと考える様になり、追い詰められていった。
それからの僕は、ディルがマイに語った話のまま。情緒不安定になっていた僕は自棄になり、全てを放り投げる事にした。つまり、逃げだ。
僕は死を望み、死に方を模索し……結果、アイツと契約を……。
「……本当に、どうして、あんな男も女も年齢も関係無く誑し込む戦闘狂が良かったんだよ……」
……口にすると、何という事故物件具合なんだろう。恐ろしい奴だ。
「……怒るかな」
今日、僕が死ぬつもりだと知ったらアイツは怒るかな? ……うん、怒るな。僕を簀巻きにして殴る蹴る……前回が半殺しだったから、今回は4分の3殺しって所になりそうだな。
「……ふふ」
簡単にその様子が想像出来て……それを喜ぶ時点で、僕は色んな意味で終わってる。
と、そこまで考えた瞬間。
突然、僕の背後に懐かしい闇の魔力の気配が現れ。
バキャバキャバギャッ!!!
凄まじい破壊音を響かせながら、僕の背後でギルドの陸屋根に大穴が開いた。
アニキ、出なかったorz




