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102:ギルド前広場15

 


 カールとキールの育ての親で、宿屋『猫髭亭』の女主人アニスさんは、背後に白い犬獣人のポルク爺さんと『ポポの道具屋』店主エルフのフェールさんを引き連れて地下シェルターから現れた。

 皆、ディルの生まれ故郷だったポポの村の生き残りや。



「……マイっ、こっちは無事!?」



 こちらに走り寄りながらのアニスさんの言葉に、私達の脳裏に≪憑依≫の2文字が浮かぶ。



「少し前から、10歳前後の幼い獣人が……おそらく、幻聴を伴う混乱状態の様なんだが手持ちのアイテムがどれも効かなくて……」



 確か、聖魔法持ちの冒険者は緊急依頼に参加してるか隣国へ避難する人達の護衛の中や。それ以外は状態異常回復までスキルポイント足りてなかったんかな?

 ≪憑依≫を持つ霊体型モンスターは珍しいらしいから、フェールさんも正しく症状を理解してなかったから持ち込んだアイテムも効かなかったんや。何が原因か知らないか、とフェールさんは自身が不甲斐ないと言わんばかりに表情を歪ませてたので、ヒューリッヒさんが≪憑依≫の対処方法として聖水の使用やその他アドバイスをしてあげてた。

 ……そしてこの情報で、どうやら姿見るよりあの叫び声を聞く事が≪憑依≫されやすい可能性が高い、と名探偵ヒューリッヒさんは言った。……確かにあの叫びを聞くたびそわそわすると言うか……喉元掻き毟りたくなると言うか変な感じはするけど……。

 ≪憑依≫されない為には気弱になって怯えない事。泣き喚いたり怒り心頭も勿論アウトや。異世界人の血筋が≪憑依≫されやすいってのは勿論やけど、耳の良い獣人の、それもまだまだレベルもステータスも低い感受性豊かな子供達は≪憑依≫されるっぽい。今の所、シェルター内で暴徒みたいなのは現れてない。


 私は取り敢えず、ギルドの≪結界≫を防音もガッツリ完備や! と強く念じながら発動し直す事にした。リカルドさんも念の為に、拡声器使って町全域にギルドに現れた彼等の説明と≪憑依≫の対処方法を放送し始めたけど、届いてるかな……リカルドさんの声でかいから大丈夫かな。

 ん? そういえば……。



「それだけじゃないんじゃ。ディルムッド、これを見てくれ」



 ふっと浮かび上がった疑問にポルク爺さんの言葉が重なる。私がポルク爺さんに視線を向ければ、外から視線を外さないまま、蒼褪めた表情で懐から取り出した懐中時計をディルに差し出してた。


 ギルドの正門は全開に開いてる為、殺到する闇色のモンスター……彼等をバッチリ視認出来る。だから彼等を見てしまったアニスさん達は全員が顔面蒼白や。私は考えを一旦中断し、アニスさんの背中を優しく撫でた。もしかしたら故郷を……昔の惨状を思い出してなのか、肝っ玉母ちゃんって言葉が似合うアニスさんの、長いスカートから覗く足首が震えてたから。



 ポルク爺さんがディルに見せた懐中時計は、亡くなってしまったポポの村の住人が作ったものってディル本人から聞いた。ディルが持ってる懐中時計は、父親であるディランの形見の品。だからポルク爺さんと同じ物の筈で……アニスさんと共にポルク爺さんの手元を覗き込めば、そんな懐中時計の、時針も分針も秒針も、何でかぐるんぐるんと高速で回ってる!

 ディルが慌てて懐から自身の懐中時計も取り出すと、やっぱりぐるんぐるんと右回り左回りと不規則に回ってる。何でや!?



「……ワシも若い頃、強欲の精霊の住処に迷い込んだ事がある。その時も、方位磁石や時を刻む道具が狂ってな……精霊の住処は魔力が溜まりやすいそうじゃ。その影響で住処の外と時間が()()()……住処で過ごしたのはおよそ1日じゃったが、住処を出て、近くの町に行けば1週間経っとると聞かされた事が」


「のっ脳内知恵袋さん!? 制限時間どんなもんですか!!?」



 ポルク爺さんの言葉に泣きそうになりながら、私は脳内知恵袋へと懇願混じりの質問を叫んだ。



『≪名無しの軍団(ノーネーム)≫完全勝利まで、残り30分です』


「……のこ、り、30分、やと? ……進み過ぎじゃぼけえええええええええええええ!!!」



 1時間以上経ってる!? んな訳あるかせいぜい30分位じゃアホボケカスっ!!!

 なにその裏技っ知るか!? 闇の魔力ずっるい! ああああマジか早送りされとる……時間ヤバイ!!!



「ちょっと、制限時間ってなんだい!?」


「「あーあー立て込んでるからアニスは戻ってて!」」


「なっちょっどきな!」



 説明する時間さえ惜しい事を正しく理解した双子冒険者は、私の腕の中から怒れるアニスさんをシェルターのある隠し階段へと連れて行く。それを見送る事なく私はディルと2人、銃を片手にギルドの玄関入り口へと駆け出す。



「取り敢えずぶっ放すわ!!!」


「いや、このまま対策無しに向かっても感情の昂ってるディルムッドの嫁は≪憑依≫されてを繰り返しての時間ロスが予想される…………間に合わんな」



 ヒューリッヒさんの眉間にシワ寄せながらの冷静過ぎる言葉に、ディルとにいねえちゃんの顔も蒼褪めてしまう。


 そんな……どないしよう!?



『るる……そこはルシファーに、おまかせなの!』



 そんな、右往左往してしまう私達の前に。

 るるる、と明るい鳴き声と両前足を挙げたルシファーが飛び跳ねながらやって来た。

 こんな状況やのに、ルシファーはご機嫌に尻尾を振って……私達の視線の中、鉤爪のある手のひらに乗っかった綺麗な真珠を、ひょいっと飲み込んだ。えっ拾い食いあかんよ!?

 慌てて吐き出させようとルシファーを抱き上げた私は、ルシファーにいやいやと首を振られ腕の中から逃げられた。



『ルシファーがサーリーの、かあしゃととうしゃ、たすけてあげるんだから!』



 私とディルには、ふよふよと空中に浮かぶルシファーの言葉はりゅるるとしか聞こえなかったけど。その明るい表情に助けてあげる、と言われたのは何となく分かった。



 真珠……にいねぇちゃん曰く、ルシファーのお母さんの竜核を飲み込んだルシファーの変化はすぐに訪れた。

 ルシファーがお腹に触れながらりゅーるーと空に向かって鳴くと、何とお腹が虹色に輝き、ビキビキと音を立てながら鱗が逆立つ。……光が透けると綺麗な薄紫の鱗が、どんどん虹色に煌めいていく。

 ルシファーの、小型犬ダックスフンドを思わせる寸胴気味の胴体が、蛇と言うより日本や中国で絵巻物に描かれる青龍の様に長く、太く、肥大する。その鱗の色を、新たに染め上げながら。



「……ルシファー……?」



 竜種とは、強さを求めて進化し、進化を続けた竜種は保有出来る魔力が増え実質、長寿となる。


 進化は自身と同じ属性ならほぼ変わらないけど、そうじゃなかったら大きく姿形が異なっていく……全ての属性を得たり、飛龍・ドラゴンまで含め、全ての竜種の竜核を得て進化した先は……誰も知らない。≪テイム≫された竜種達も、ただ本能的に進化したがるだけで主人に詳しく説明出来ないらしい。


 私は、サーリーが竜種を≪テイム≫すると決めた時にディルから教わった。ちなみに、ドラゴンと飛龍はそれぞれ火・水・風・土・闇属性があり、進化して2つまでの属性を持つ竜種は確認されてるけど……それ以上の属性持ちや、聖属性の竜種は確認されてない。



「……綺麗」



 ディルの言葉に、誰もが心の中で肯いた。まぁ実際に首を動かした人は居ない。……その神々しい姿を、ずっと、見ていたかったから。



 光に透けると虹色に煌めくだろう鱗は、今は神々しいまでの白銀に収まってる。頭頂部から背中、尻尾の途中まで生えそろってる鬣も絹糸みたいな白銀や。額と側頭部にあった乳白色のちっこい4本の角は少し成長したらしく私の人差し指程の長さ、太さは指3本程で先っぽの所は枝分かれし始めてる。随分大きくなった体は……あれや、馬車を引いてる、ずんぐりな体躯の馬っぽい。頭から尻尾までの長さは4メートルか5メートルって所やけど、体の太さはきっと馬の胴体で例えて良いと思う。サーリーよりは薄い紫の瞳だけは、以前と変わらずのキラキラ具合や。



「まさか……聖龍……」



 ……そう、私達だけやない。リカルドさん達でさえ見入ってた。



 リカルドさんの言葉で、私達の視線の先には勘違いでも何でもない、聖属性の飛龍へと進化したルシファーが存在していた。



『るるるるるっ! マイ、ディル! ルシファーの背中に乗って! ……上からなら、きっと()()()()の声もあんまり聞こえないよ!』



 りゅるる、と以前と変わらない鳴き声と同時に脳内へと届けられた声は……何とサーリーに似てた。なんて器用な……きょうだい……いや主従でそんな所、似たりするんや。



「……た、確かに上空からならあの叫び声は聞こえにくいし、マイの武器なら問題無い。≪鷹の目≫を持ってるなら尚更……!」



 我に帰ったリカルドさんの言葉に私とディルは顔を見合わせてから、2人一緒にルシファーの顔を見上げた。

 体からしたら短足な四肢で体を支えていたルシファーの頭は、ディルの視線の少し上。私からしたらかなり上にある。顔の大きさもホンマもんの馬……否、ワニサイズや!



『えへへ〜。おっきくなったでしょ? これならマイとディル、2人乗せても平気なの!』



 歌でも歌い始めそうな位ご機嫌なルシファーに……その、元気いっぱい過ぎる声が私達には逆に痛々しい。



「ルシファー……このお馬鹿っ」



 ルシファーは、本当に生まれて間もない赤ちゃんや。……だって、ルシファーのお母さんが言ってたんや。岩山のダンジョンで過ごしたあの数日間に教えてくれた。

 私達と出会う数週間前に卵が孵ったルシファーは、生まれた時からヒトの言葉を理解出来る位素養が高かった。しかも大人の竜種と力比べしても引けを取らない能力持ち。……でもその体は、どの竜種より幼く小さい。竜種の赤ちゃんは、本来ならダックスフンドサイズなルシファーの3倍位の大きさで生まれるらしいから。


 体と能力が釣り合ってないから……いっぱい食べて、寝て、遊んで、これから……サーリーと一緒に成長しながら大人になる筈やったのに!

 それに進化っていうのは大人の竜種がするものであって、赤ちゃんがする事ちゃうで……!?



「あんた、そんな無茶してっ!」



 そんなんっ、体にどんだけ負担掛かってるか……!

 ルシファーのお母さんと同じく私の心の声が聞こえてるらしいルシファーは、私の怒気に怯えながらも大丈夫と言いながら頭を軽く横に振った。



『りゅるる……ルシファー、平気! でも、頑張ったルシファーにはご褒美ちょうだい! オヤツ、いっぱい! ……サーリー(ねぇちゃ)と一緒に食べるの!』



 ちゃっかりしてるのか健気なのか、そんな言葉を口にしながらルシファーは頭を下げて私の頭頂部に鱗で滑らかな頬を擦り付けてくる。……こんな状況やけど、どうしよう。かあいい。

 ぅうう……そんなんっ、例え腱鞘炎になっても泡立て器めっちゃ頑張ってルシファーの好きな生クリーム作るやん! ……私の隣で我が子(ルシファー)の成長に感動してる、ディルが!!!



「……っお菓子のレパートリーまだまだ少ないけど、頑張るわ! ……ディルも手伝ってな!」


「にゃい! 泡立て器、任せて! ……リカルド、あとお願い!」


「……ぉ、おお、行ってこい!!?」



 私とディルは以心伝心やったけど、意味分からず首傾げてるリカルドさんはあえて無視。ディルは先にルシファーの白銀に輝く背に跨り、素早く私の腰を掴んでルシファーの背に引き上げてくれた。ディルはそのまま私の腰に右腕を回したまま、左腕をルシファーの首筋部分にある凸凹した骨の突起に伸ばした。その部分を掴んで、とルシファーに指示されたから。


 そんな訳で、空へ向け頭を上げながら背筋を上に伸ばし始めたルシファーの背中に私は抱き付き、その上からディルが覆い被さる形で落ち着いた。……えっと、この体制、めっちゃ馴染みがあるんですが……主に、イチャイチャしてる時とか………………え嘘やろ恥ずいっ! 腕と尻尾がシートベルトは恥ずいっ! てか私っこの格好で闘うの!?



「ルシファー、行って!」


『うんっちゃんとくっ付いててね〜出発〜!』


「えっちょい待っひぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!?」



 ふわん、とルシファーの体が浮き上がったと感じた瞬間、私達は風を切って青空へと旅立った。



 ……うん。懐かしい。

 ディルに抱きかかえられた状態で、木の上飛んだり、風の速さで道を駆け抜けたりした時と同じ感覚。



 これは、そう。

 デジャブやな!!!




マイさんがデジャブした所でまた次回。


も、もうちょいや…もうちょいでアニキ出してあげれる…待っててね、アニキ!!!(切実)



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― 新着の感想 ―
[一言] おおおおルシファーーー!ヽ(・∀・)ノ そんな早送り成長なんてしてしまったら…後からとんだ成長痛が……!←心配の方向が明明後日くらい(笑) ええ子や…お姉ちゃんのお父さんとお母さんを助けるん…
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