99:ギルド前広場12
状態異常無効っていうアドバンテージが無意味な事実に打ちのめされた私に、ディルの言葉はある意味追い討ちやった。
「に、にいねぇちゃ……やと?」
「にゃん」
こっくり、と大きく頷いたディルは右腕を自身の頭上まで持ち上げたかと思うと、何かを握ってるかの様に指先を丸めながら私の眼前に掲げた。
「時間も無いから……リカルド達も聞いて、見て、俺達を判断したら良い。……もう、良いでしょ? 挨拶は、最初が肝心!」
ディルの呆れ混じりの視線は、私に向けられたモノじゃ無い。
『……≪不可視≫解除』
脳内に響いたかあいい天の声の後、ディルの掲げたその手が白く発光。驚いて私が数度、瞬きし終わったら……幼女な神様に良く似た背格好の、淡く発光してる可愛子ちゃんが母猫に運ばれる子猫の様に襟首掴まれてた。
「……え、天使?」
「俺の、にいねぇちゃんです」
え、翼のもがれた天使的な存在では無く?
髪色は違うけど、ディルと同じでもっさりした前髪で目元隠れてるけど、恥ずかしいのか照れてるのか柔らかそうなほっぺが桃色なんですが?
「ぅう……は、初め…まして…………ぼ、僕……僕っ、ディルのきょうだいのっ」
「「ぅおおお聖属性の精霊だとおおおおおっ!!?」」
言葉が脳内に響かなかった。見えてるからかな?
あ、テレテレモジモジしながらのかあいい自己紹介遮ったのは、毛布に包まって休憩してた双子やで?
「すげぇ!」
「前からディルムッドがすげぇ奴なのは知ってたけど!」
「ハンパねぇ!」
「精霊との双子だったなんて!」
「カッコイイ!」
「しかも聖属性の精霊なんて!」
「「それってもう昔話の勇者じゃねぇか!!!」」
怒濤の様なカールとキールの掛け合いしながらの急接近に、ディルに襟首掴まれたままの白髪天使は超振動し始めた。
「僕の、決死の自己紹介を……邪魔しやがったな…………オノレ、そこの双子は呪ってやる」
……気のせいかな。何かめっちゃ怖い事言ってる。かあいい顔してめっちゃぶつぶつ毒吐き出してる! さっきはツクヨミ様チックに神々しい雰囲気で指示してくれてたのに、何この落差!
「にゃう、……もう! 2人共落ち着いて! 俺のにいねぇちゃん人見知りなの! ……えっと、うちべんけい? なの!」
「ホンマの内弁慶さんに謝ろっか!?」
少なくとも呪いの言葉吐き出し続けるのは違う、と声高に訴えてもディルはどこ吹く風である。何でや。
そんなディルはふんす、と鼻を鳴らしながらカール達を注意し、私の腕にぽてっと軽く白髪天使を落とした。
はわわわかっるぅい……これは、精霊さんやからか!? そんでめっちゃ良いにおい……にいねぇちゃん、昔私が旅行で森林浴とか滝の近くに行った時に感じたマイナスイオン的な良いにおい、めっちゃすんねんけど!!!
「ほらっにいねぇちゃん、マイに言う事あるでしょ?」
ディルの言葉に、双子に向けて呪いの言葉呟くのを止めたにいねぇちゃんは改めた様に私の顔を見上げてくる。
もっさりとした前髪の向こうの大きな瞳は、ディルの髪に良く似た青灰色や。
「……、……ツクヨミの、フリして……偉そうに、命令して……ごめん。……僕とも、仲良く……して、くれる?」
私の腕の中。
白髪天使の可愛子ちゃんによる、めっちゃどもりながらのかあいい謝罪を見て聞いた私は……完璧にノック・アウトされた。
「ご、ご挨拶が遅れましてっディルの妻になったマイです! そんな……そんなっ、サーリー並みに可愛いからその他諸々めっちゃ許しますううぅ!!!」
「「おい」」
「ぶふぇっ、あ、あっはっはっはっはっ!!!」
『……るるぅ、ちょろいの〜』
「にゃん」
いやそこの双子なカールとキールさんや。あんたらも興奮して詰め寄ってたやん。私とほぼ同類やん! そんでリカルドさんは笑い過ぎ!!!
許されるのは、ディルの全てを受け入れた様な優しい微笑みだけやから!!!
「……おチビと、同格、……」
おチビが誰かは分からんが、にいねぇちゃんが何故かめっちゃ打ちひしがれてるっぽいねんけど。……まぁ気にせんとこう。
今、それどころとちゃうし!
「ホンマはもっと色々話したいけど……これからどうする?」
まだ、≪名無しの軍団≫団長、ナナシは現れてない。あの真っ黒ボードのメッセージ、全部ホンマか嘘か分からんけど……事実なら、残り時間が迫ってる。
私達の突破口は……勿論、突然現れちゃった真っ黒な霊体型モンスターやな!!!
「はっはっ……げっほげふ! ああ、それは俺から説明しよう!」
そうしてリカルドさんから≪査定≫という、モンスターの概要や弱点を調べる特殊スキルを教えられた私達は、片っ端から試していく事になった。
私の装備武器、マジック・ピストルによる火・水・聖属性の魔法攻撃。
ディルの持つ風属性の魔法攻撃。
キールの持つ土属性の魔法攻撃。
ルシファーによる、闇属性のドラゴンブレス。
リカルドさんとヒューリッヒさんの号令で行われた、私達の魔法攻撃の結果は……変わらず眼前に広がる闇色のヒト型モンスターで悟ってほしい!
攻撃当たっても当たってもスライムみたいに分裂して元通りの数になってるっぽいねん!!!
それでも、私達の攻撃は無意味じゃ無い。なんせ今のは、斥候行為!
『種族名:――の奴隷 弱点:―― 攻撃手段:≪憑依≫≪魔力吸収≫ 補足事項:使い古された――――成れの果て。磨耗し尽くしている為、記憶も記録もほぼ残されていない。――願望があり、己が――の――を迎える為に――――。個別での意思疎通――』
「……良し、記述が更新されたぞ!」
リカルドさん曰く、霊体型モンスターは守りのステータスが異様に高かったり、敵の攻撃魔法を吸収して再生したりするのが多いらしい。私達の攻撃受けて分裂した所を見ると、このモンスターもやっぱ魔力吸収してたみたい!
「しかし、どう見ても闇属性なんだがマイの聖属性も弱点では無いのか……」
「ぅ……そこは、私のレベルが低いせいでは?」
「……いや、リカルドの≪査定≫はMaxだ。リカルドがモンスターを認識している中、弱点に擦りでもしたなら確実に記述は更新される。……ならば、魔法属性は関係無いモノと考えるべきだ」
そう結論付けたヒューリッヒさんは、ディルに視線を向けた。
「では次に、魔力含まぬ物理攻撃を試そう。……武器マニアの名に恥じる装備は持っていないであろう?」
「にゃおん!!!」
そして、今度はディルの独壇場。お手入れ欠かさず、在庫扱いされてた武器の大盤振る舞いの始まり。
物理攻撃と言っても色々あり、剣やナイフによる斬攻撃、槍や弓による突攻撃、杖や籠手による打撃攻撃がある。
なので、ディルは使い捨てだけど高威力な投げ槍と投げ戦斧、威嚇用の投げナイフを渾身の力で投擲し闇色のモンスターの頭を潰していく。おお、グロい。
一通りの種類を投げたらお次は弓。3本の矢を纏めてズバズバっと放ってモンスター3体の口の中を射抜いていく。めっちゃ凄いって思うけど狙いどころがグロいな!
その次はカールとキールが確認したい事があるから、と願い出て青白斑模様のブルーム装着状態で大盾持ってモンスターにタックル&高速バック! そのまま≪結界≫の中に戻って来た。心なしか青白斑のブルームさんが超振動で震えてる様な……?
『『ヒューリッヒの旦那! やっぱブルームさんが怯えてる!!!』』
「……魔力を吸収されるのはブルームにとって死活問題だからな。これ以上は無理だろう」
そう言いながらヒューリッヒさんは懐から試験管を2本取り出し、それを見付けたらしいブルームさんがみるみる縮んで……胸の前でお皿にしていたカールとキールの手のひらにその1その2みたいに分かれた状態で収まった。
そして、カールはキールからブルームさんその2を受け取って、自身の手のひらに居たブルームさんその1と揉みくちゃにしながらヒューリッヒさんに差し出す。揉みくちゃにされたブルームさんは……青と白に分かれた状態で、自ら試験管へと戻って行った。
「「……」」
うん……どういう事なんかな? ツッコミたい、色々ツッコミたいけど……時間無いからまた後日で良いかな?
私とディルは、双子とエルフの奇行に向けていた顔をリカルドさんへと戻した。
こうして新たに更新された≪査定≫結果は……?
『種族名:――の奴隷 弱点:―― 攻撃手段:≪憑依≫≪魔力吸収≫≪物理半減≫ 補足事項:使い古された――――成れの果て。磨耗し尽くしている為、記憶も記録もほぼ残されていない。――願望があり、己が命の――を迎える為に命令に従順。個別での意思疎通――』
うっわ〜≪物理半減≫発見! しかも弱点あるっぽいのに発見出来ずやし!
どないしよう……こうしてる間に、私がまた≪憑依≫されたら!?
「そういえば、ヒューリッヒさんっ! 結局≪憑依≫される条件って何ですか?」
それ聞いとかな、どうしようも無いし!
「……ああ、言ってなかったか」
そうして、ヒューリッヒさんは私とリカルドさんにそれぞれ視線を送った。
「≪リヴァイヴァル≫……再生を意味するこの世界とは異なる理を持った存在……つまり、異世界の者達の血縁者である事が条件だ」
さも当たり前だと言わんばかりに、ヒューリッヒさんはそう答えていた。




