95:ギルド前広場8
人物設定や番外含んでですが、今回でこのお話も100話となりました!
これもお付き合い下さる皆様のおかげです!
感想や誤字修正、評価でポイントまでして下さった方々には感謝しかないです!
今年も宜しくお願いします!
そして、今回からマイ達の居るギルド前のお話です。主役が帰って来ますよー(笑)
それでも宜しかったらどうぞ!
時間は、サーリーが北門に辿り着いた辺りにまで遡る。
ディランの最後を見届けた後、リカルドの土下座混じりの懇願にディルムッドを落ち着かせたマイは、ギルドに集まってくるヒト型のアンデット……ゾンビ軍団を相手にしながら、目の前に展開された半透明のメッセージの謎に頭を抱えていた。
『≪名無しの軍団≫『副団長』が自滅しました。『団長』ナナシの出現条件が変更されました。残り2時間30分の間に条件を満たさなければ≪名無しの軍団≫の完全勝利となり、選ばれた周辺地域の生命ある生物のアンデッド化が開始されます。繰り返します……』
「いやだから、元々の出現条件何やったん?」
マイの言葉に反応し、メッセージが書き変わる。
『お答えしかねます』
「ぅうう脳内知恵袋もドケチや!」
『繰り返します。≪名無しの軍団≫『副団長』が……』
「もうええわ!!!」
側から見たら、叫ぶマイの1人ノリツッコミにしか見えない。リカルドとヒューリッヒは若干距離を取りながら、そしてディルムッドとルシファーは慣れているので気にせず敵に向かっていた。
異世界初心者であるマイとショータ、モエには気になる事や知りたい情報を心に思い浮かべるだけで教えてくれる、脳内知恵袋(命名:マイ)がある。それは眼前のメッセージとも連動しているらしいが、今回は欲しい情報が得られない。何度目かの脳内知恵袋の答えに、マイは怒り伴う叫びをあげていた。
「出現条件を満たさねば現れぬ、か……その事柄自体は新情報なのだか」
「うむ、全く分からんな!」
無感情に口を開くヒューリッヒと地声がデカ過ぎるリカルド2人の会話に、限界を迎えたギルド内で寝転がる双子冒険者、カールとキールは唸りながら悩む。
「マイの話だと、モンスターの討伐数で副団長出てきたんだから」
「出現条件もそれなんじゃ?」
「私もそう思ってんけどーっ」
ギルド内での双子の会話にマイの言葉が届くのと同時に。
「ごるるるぁああああああああああああああっ!!!」
『食らえっ!』
「ふぅしゃああああっ! ゲイ・ボルクぅ!!!」
サーリーのテイム・モンスター、ルシファーによる漆黒のドラゴン・ブレスで上半身を焼かれ消えゆくゾンビ達。
本来の相棒である、にいねぇちゃんによる魔力供給によって本領発揮された広範囲・高威力のゲイ・ボルクをギルドの屋根から放ち、頭から串刺しにされ消えゆくゾンビ達。その総数は100体どころか300体を優に超える可能性さえ感じられた。
「私達のモンスター討伐数っ、ちょっと前に1000体越えてんで!? リカルドさん達も倒しまくってるやん! それで無理なら明らかちゃうやん!?」
ちなみにこの数十分前にはヒューリッヒとリカルドの合体必殺技≪インフェルノ・ショット≫が、空ではなくゾンビの生えてくる地面へと放たれている。
どうやったのかと言うと、まずディルムッドに連れられギルドの屋根の上に登ったマイが、目視出来る範囲……MPを300pと多く使用し、スキル≪鷹の目≫を持つマイがギルドの広場全体に≪結界≫を施す。この時、念の為ギルドを中心とした円形の広場を囲う様に『火属性の魔力は外に逃げない』と設定した。そしてマイ達はギルドの中に引っ込み、ギルドを囲う二重の≪結界≫に不備がない事を確認してからリカルドの爆音とも言える声でギルド前広場に入らない様に、と周囲に注意喚起。
そうした前準備を整え放たれたリカルドの広範囲の攻撃を「これが、地獄絵図」と呟くマイを放置しながら燃え上がる広場を全員で眺めていた。
広場で炎が激しく踊るたび、マイの脳内でガラスの砕ける音が小さくも幾度も響いた。ギルドに施された外側の≪結界≫と、広場全体を囲う巨大な≪結界≫どちらも破壊される度に脳内に響くのをマイは感じた。その数、どちらも8回。≪結界≫を掛け直しながら声なく口元だけの乾いた笑いを浮かべたマイのその目は死んだ魚の目に似ている。しかし数分間燃え続けただけで≪結界≫も耐えられず破壊されていた為、ヒューリッヒからの助言でサーリーの友である火の精霊、サラマンダーの助力を借りる事になった。
『おいしいおいしいナニコレおいしいおいしいマジスゴおいしいおいしいおいしいぞぉ〜!!!』って、言いながらサラマンダーが火を食べてるからも少し待っててね?』
そう締め括られた砂の文字とギルドの床を眺めながら待つ事およそ10分。広場は焼け焦げた跡がとても痛々しい、木も草もベンチも何も無い更地となった。
『えへへ〜リカルドごちそうさまぁ! ヒューリッヒも、カッコイイ体ありがとう!』
そうして、マイ達に声だけでなく目にも映る様になった……サーリーと同じ年頃の、赤毛に紫紺の瞳の愛らしい少年の姿となったサラマンダーは、リカルドに肩車された状態で笑っていた。額に明るい朱色の角があったり、頬や背中に同じく朱色の鱗と蝙蝠に似た翼があったりしたが。
リカルドのおかげで必要な魔力を蓄えられたサラマンダーは、サーリーとその家族を守る為に更なる力を欲し、ヒューリッヒの手作り魔導人形を己の体に選びその姿を変化させていた。
「おお……私の作品が戦闘以外で求められるとは……何たる僥倖!」
「あっはっはっ、そうだな! …………いやほんと、売れない人形が役立って良かったなぁ」
無表情ながら頬を桃色に染め喜ぶヒューリッヒにリカルドは前半を普段の大声で笑い、後半を唇を震わせるだけに留めた。
サラマンダーが貰った魔導人形……火吹きイグアナと呼ばれる、尻尾を含め全長2メートルの爬虫類モンスター型のこの人形には、ヒューリッヒの感性で何故かファイアドラゴンの鱗と角、爪等が惜しみなく使用されていた。道具屋で売買する場合の値段が原材料だけで恐ろしい事になっている。貴族でも買うの躊躇うから、とは双子情報である。
そうやって広場のゾンビを全て退けたマイ達だったが、数分間の空白を開けてまた地面からゾンビ達は復活を始める。ディルムッド達が相手にしているのはそんなゾンビ達だった。
「ああもうっ分からへん〜! 私、謎解き系のゲーム苦手なんや! もっと考えろや双子!」
「「無茶言うな!」」
「うぅう〜ディルもツクヨミ様も考えてって言うか教えて〜や〜!」
そんなマイの叫びを聞いた、戦場で聖槍を振るうディルムッドは自身の頭上に居るだろう己の半身に声を掛けた。
「にゃう……にいねぇちゃん。にゃんで、マイにツクヨミ様と思われてるの?」
ディルムッドの疑問に、その片割れは唇を尖らせる。
『最初に念話で話しかけた時……僕の声音、創造神と同じで。だからマイが勘違いしちゃって……そのつい、咄嗟に………………僕も出現条件知らないし、ディルとかに色々してるし……色々言われそうで……余計に訂正し辛くって』
「にゃふん」
ディルムッドは呆れた様な鳴き声を溢したが、その表情は戦闘時特有の高揚感とは別の喜色を宿している。それはディルムッドの片割れが、懐に入れた者に不快に思われるのを極端に嫌う性格だったのを思い出したからでもある。
『せいれいしゃん、ルシファーよりおバカ〜』
『ぅううるさいっ!』
そんな緩い会話が何度か続いた、その時。
マイの脳内に、またもやガラスが砕ける音が鳴り響いた。それも、連続に10回も。
この音は身近、又は目視出来る範囲に≪結界≫を施されている人物と物体、後はマイのパーティーメンバーのみが響く様になっていた。
だからこそマイは、慌ててステータスを確認した。
「……っ嫌ああああサーリー!!?」
サーリーの項目から≪結界≫の文字が消失している事実に、マイの絶叫がギルド前広場に木霊した。




