1話 わたしは悟りにほど遠い人間です…
『小坊主』こと私『楽念』は『楽楽寺』で、日々、人々の幸せを願うお坊さんであります。
嬉しいことに私が務めを行う『楽楽寺』はシフト制ではありますが、毎週2日の休みがある時代にマッチしたお寺でありまして、本日休みの私はこれから巣鴨にある珈琲店に向かう所でございます。
『あっ』いけません。つば付きの『カープ』帽をかぶらなければ、近頃スキンヘッドが流行っているようでございますが、まだまだ世間さまの目は『坊主頭』に厳しゅうございます。
巣鴨に着いた『小坊主』さん、目的の珈琲店で十分にコーヒーを堪能した後、帽子をとって休んでおりますと、1人のお婆さんが近づいてきます。そして
「スゥー、スゥー」
おかしいですね。頭がヒンヤリし気のせいか服が濡れておりますが…おや、お婆さんが私に手を合わせて拝んでいるようですね…
「これこれ、お婆さん、私は徳のある『お地蔵様』ではございませんので、頭に水をかけるのは止めていただけますかな…」
「あぁ…びっくりした…お坊さまだったのですね…これは申し訳ないことを…」
「なんのなんの、お婆さん、大丈夫ですよ。今日は暑いくらいの陽気です…丁度よい涼みとなりました…」
『もうお昼ですね、そういえばお腹が空いてきましたね…確か大塚にうまいお寿司屋さんがあると檀家さまが言っておりましたから、そこに行ってみることにしましょう』と『小坊主』さんこと私『楽念』は大塚に向かいます。
今、生ぐさ坊主と思われた方がいるかもしれません…しかし『強く引っ張られている紐はすぐ切れてしまうもの、一方丁度よく引っ張っている紐はなかなか切れないもの』同様に『強風の中では、硬い木の枝は折れてしまうが柳の枝は折れないもの』が如く、無理をすれば良い心と身体の状態を保てないもの…
人間の身体にはタンパク質が必要なのですから、無理なく補給する…それもまた『真成』ということで、私は身体のためにやむを得ず『お寿司』を食べます。
「大将、ビントロ2枚とエンガワ2枚お願いします!」
「はいよ、ビントロ2枚とエンガワ2枚ね」
『ああ、待ち遠しい、食欲を抑えられない。そんな私は悟りにはほど遠い存在なのです』と思っていると大将が…
「はいよ、ビントロ2枚とエンガワ2枚…」
「どうも…」
『くぅー、なんてデェリシャスなんでしょう!口の中が幸せで溢れかえります』と思ってしまう私『楽念』のお話はこれからも続きます…