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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
"親友"の境界線

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加茂さんはテンション高め

 ――一頻(ひとしき)り水をかけ合った後、俺達は当初の目的を思い出した。

 そして、加茂さんがどれぐらい泳げるのかを実際に見て確かめることになったのだが……。


「…………(ぱちゃぱちゃ)」


 犬掻きしている加茂さんを少し離れた場所からぼんやり眺める。

 まさに犬だった。それ以外に例えようがない。微笑ましいが、ペットを見守るような気持ちも混ざってしまうので少々複雑である。


「実際に見た感想は?」

「逆にあそこまで犬掻きの究極系みたいなのも見たことないな……」


 あまり犬掻きをしている人を見たことがないのもあるが、俺個人の感想としては綺麗な犬掻きだと思った。

 犬の物真似だとすればかなりのクオリティだ。これは決してディスっているのではなく、感心の意味合いが強い。


「加茂さん、もういいよ」

「…………(ぱちゃぱちゃ)」


 加茂さんを呼ぶと、彼女は犬掻きのまま俺達の元に戻ってきた。


「…………(どや)」


 そして、どうだと言わんばかりにドヤ顔を俺に向けてくる。


 確かに見事なものではあるが、犬掻きでここまで自信を持てるのも凄い。普通は恥ずかしがるものなのでは?

 でもまあ、ポジティブなのは良いことだ。彼女自身が気にしていないのなら、俺がとやかく言うのも変だろう。


 加茂さんが泳げないわけではないことを確認できたので、俺は二人に提案と質問をする。


「そろそろ別の場所行くか。二人はどこ行きたい?」

「私はどこでも」

「…………(ぶんぶん)」


 神薙さんは特に希望はないらしいが、加茂さんは手を振り回して何かを伝えようとしてくる。

 ……クラゲの真似か? 彼女は両手を上に突き出し、左右にゆらゆらと振る動作を見せてくる。


「はいはい、次は流れるプールね」


 俺が加茂さんのジェスチャーの意味を理解する前に、神薙さんがそう言い切った。


「何で分かるんだ……」

「何年九杉を見てきたと思ってるのよ」


 神薙さんからすれば、この程度は朝飯前らしい。流石、ベテランは違う。


 ひとまず、そのプールの場所に移動しようとして――あることに気づいた。


「加茂さんは?」

「え?」


 加茂さんが居た筈の場所には誰もおらず、預かっていた浮き輪も俺の手元から()くなっている。


「……あ、いた」


 けれど、周りを見回して、彼女を見つけるまでそう時間は掛からなかった。


「…………(そわそわ)」


 加茂さんは既にプールから上がっていた。

 浮き輪を前に持ち、体を小さく左右に揺らしながら俺達を待っている。楽しみなのは理解できるが、些か行動が早すぎる。


「神薙さん、加茂さんには落ち着きを覚えさせた方がいいと思う」

「言って直るなら、私も九杉を心配しなくて済んでるから」


 神薙さんは悟ったような笑みを見せて、加茂さんの元へ向かっていく。


 そこは諦めないでほしかった。




 * * * *




 ――流れるプールとは、川のように一定方向に流れ続けるプールである。

 他に特に特徴はない。流れに身を任せてプールを進む。それだけなのだが、この程よい水流が心地いい。


「…………(ぱしゃぱしゃ)」

「九杉、あんまり水入れてると沈むわよ」

「…………(ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ)」

「いや"上等!"じゃなくて。ボートひっくり返ったら危ないわよ」


 二人のほのぼのとしたやり取りを見守りつつ、軽く足を動かす。


 俺は今、加茂さんが持ってきていたボート型の浮き輪を前から引っ張りつつ、俺は背泳ぎのようにして進んでいた。

 状況が伝わりにくいと思うが、体はその浮き輪の下に潜り込んでおり、呼吸のために進行方向側から顔を出している。俺はエンジンと化していた。


 体の角度を変えて、空を見上げる。雲一つない青空が広がっていた。


「…………(ひょこ)」


 俺がぼんやり青空を眺めていると、視界の下から加茂さんの顔が現れる。


「どうした?」

「…………(ごー!)」

「無理」


 恐らく、加茂さんはスピードアップをご所望なのだろう。しかし、それは無理な話だ。

 体勢が体勢のため、あまり前方が見えない。加えて、このプールにはそこそこ人がいる。だから、前方の人に追突することのないよう、俺は進むスピードをかなり控えめに調整していた。


「…………(むぅ)」

「九杉、諦めなさい」

「…………(むむぅ)」


 神薙さんも俺に味方してくれたおかげで、加茂さんは渋々ながら引き下がってくれた。そして、俺を見下ろしていた顔を引っ込める。

 入れ替わるように、今度は神薙さんが顔を出してかる。


「赤宮君、疲れたら代わるけど」

「いや、全然。むしろ楽だし、ちょっと楽しい」

「そ、そう」


 プールって体力を消耗するものばかりだと思っていたが、そんなことはなかった。


「うぐっ」

「ひゃっ!?」


 ――なんて思っていたのに、突然ボートの重心が前に偏った。

 俺は腕でどうにか浮き輪が転覆しないように支える。神薙さんはバランスを崩して前から落ちかけるも、なんとか堪えた。


 突然の重心の変化の理由はすぐに判明した。


「…………(ひょこ)」


 神薙さんの後ろから、原因(加茂さん)が顔を出す。


「く、九杉、ボートひっくり返っちゃうから一旦後ろ下がって……って、九杉!?」

「加茂さん!?」


 ――加茂さんは、転がるように自らプールに落ちた。

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