加茂さんとアイスクリーム
加茂さんも水着を購入した後、俺達は目的もなくデパート内を散策した。
服屋、靴屋、レジャーショップ、その他色々……見て回っただけで何も買っていないのだが、そこそこ楽しめたとは思う。
特に、レジャーショップに入った時の加茂さんは活き活きしていた。子供みたいに色々なものに興味津々で、見ていて飽きなかった。
そして、散策も終わって17時を過ぎた頃、俺達は帰りに一階にあったアイスクリーム屋に立ち寄ったのだった。
『赤宮君決めた?』
「俺はブラックコーヒー味。加茂さんは?」
『わたあめ味!』
「……何だそれ」
「…………(びしっ)」
加茂さんが指差したメニューの一覧に目を向けると、下の方に確かにあった。ピンクと紫が混ざった少し奇抜な色のアイスが。
「それ、美味いのか……?」
『食べたことない
多分おいしい?』
いや疑問形で言われても。
恐らく、加茂さんは味の冒険を進んでするタイプなのだろう。いつも安全な味を選ぶ俺とは正反対だ。
綿飴味のアイスってどんな味なんだろう。ただの砂糖の味がするのだろうか。謎だ。
「…………(すっ)」
「ん? ……ああ、そっか。分かった」
「…………(ぺこっ)」
加茂さんが差し出してきた三百円を受け取った俺は、自分の財布からも三百円を取り出してアイスの注文をしに向かった。
それから注文を終えて二つのアイスを受け取り、加茂さんの元へ戻るまではあまり時間はかからなかった。
「はい、これ」
加茂さんに綿飴味のアイスを渡し、俺達はデパートを出て加茂さん宅に向かって歩き始めた。
まだ暑い日差しを浴びながら歩きつつ、俺は自分のアイスを口に含む。うん、冷たくて程よい苦味が美味しい。
隣を歩く加茂さんを見ると、彼女はペロペロと綿飴味のアイスを舐めている。
「美味いか?」
「…………(こくり)」
美味しいらしい。加茂さんは満足そうに顔を綻ばせている。
「どんな味なんだ?」
「…………(ぱちくり)」
「あ、ごめん。答えにくいよな」
今の加茂さんはアイスを持っているので筆談ができない。"はい"か"いいえ"でしか答えられない彼女には、俺の質問は答えられないだろう。
でも、気になる。少し聞き方を変えるか……といっても、難しいな。何と質問すればいいんだろう。
「……ん?」
「…………(わたわた)」
加茂さんは慌てた様子で、自分の手に持つアイスのコーンを指差し始める。
「加茂さん?」
一旦足を止めて訊ねてみるが、加茂さんは変わらず同じジェスチャーを繰り返している。更に、段々焦りが増しているのが分かった。
しかし、それでも彼女の伝えたいことが全く分からない俺は、首を傾げることしかできなかった。
――加茂さんは慌てた様子から一変、真剣な表情で俺のアイスを見ながら接近してくる。
「…………(あむっ)」
「えっ」
そして、俺のアイスのコーンの、一番下の部分を咥えた。
……うん。
「加茂さん」
「…………(むー)」
「何してんだ」
「…………(むー)」
加茂さんは俺のアイスのコーンを咥えて離さない。
いや、本当に何してんだよ。どうして人のアイス咥えた。
「口、離してくれ」
「…………(ぷるぷる)」
「……離せ」
「…………(ぷるぷる)」
俺はアイスを上に持ち上げると、加茂さんは釣り上げられた魚の如く引っ張られる。
ふと足元を見ると、彼女は爪先立ちで俺のコーンに食らいついていた。
「ぅっ…………(ぷるぷる)」
突然、加茂さんは一音を発したかと思えば、顔をしかめる。
……声を出したという驚きはあるが、今のこの状況への困惑が勝った。
そして、流石に察した。ある憶測を元に、俺は敢えて加茂さんの声に触れることなく、アイスを下ろして別の質問をする。
「もしかして、コーンの下、穴空いてたのか?」
「…………(ぎゅっ)」
加茂さんは頷く代わりに、目をぎゅっと瞑った。
つまり、あのジェスチャーは俺のアイスの危機を伝えてくれていたのだ。
けれど、それが通じなかったために、こうして体を張って溶けたアイスが垂れるのを防いでくれたのだろう。
「加茂さんには苦いか」
「…………(ぎゅっ)」
再び、目をぎゅっと瞑る。
彼女のしかめっ面の理由も分かった。
俺のアイスはブラックコーヒー味であり、よくあるコーヒー味のような甘さはない。苦いものが苦手な加茂さんには厳しいものだと思う。
「……ありがとな」
もっと別の方法があったのではと思わなくもないが、まずは礼を言うべきだろう。そう思って、一言加茂さんに感謝を告げた。
「もう口離していいぞ」
「…………(ぴたっ)」
「加茂さん?」
加茂さんが口を咥えている理由が分かったところで声をかけるが、加茂さんは動かない。
何故なのか、今度こそ理由が分からなかった。
――日差しを浴びて、上のアイスも溶け始める。
「ちょっ、危ないから離せっ」
「…………(あっ)」
俺は少し強めに引っ張って無理矢理加茂さんの口から引き剥がす。
そして、下のコーンの穴を指で塞いで上のアイスが垂れないように食べていく。
「危なかった……」
『くわえてたから
よだれ付いてる
指 汚くなっちゃう』
「……仕方ないだろ。それに俺は気にしない」
『私が気にする!』
加茂さんが口を離さなかった理由が分かった。きっと、それを気にしていたんだ。
もう一つ気づいたが、これを食べると間接キスにもなってしまう。俺としてはそっちの方が気にはなるが、まあ、加茂さんが気づいてないのならここは言わぬが花だろう。
……何か重大なことを忘れているような。
「あ」
「…………(きょとん)」
「加茂さん、自分のアイスは?」
「…………(はっ)」
加茂さんは素早く後ろを振り返る。俺も加茂さんの横に立ち、彼女の視線を追ってみる。
――彼女が振り返った先の地面には、無惨な姿のアイスが落ちていた。
落としたタイミングは多分、ボードに文字を書いた時だろう。思わずアイスから手を離してしまう程、彼女は慌てていたのだと思う。
……半分は俺のせいだよな。
「俺のでよければ食べてもいいけど」
「…………(ふるふる)」
加茂さんは悲壮感を漂わせながら、静かに首を横に振った。
次話、プール回入りまーすよっ(゜ω゜)
〜余談っ!〜
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