加茂さんと試着室
四つ目のレビュー貰いました!(´ω`)
まさかミケ猫さん、ありがとうございます!
後半加茂さん視点あるよ\\\\٩( 'ω' )و ////
パレオの巻き方が分からないだけで諦めるのも、少し勿体なく思う。
「さっきの店員さん、俺が呼んでこようか?」
だから、俺は店員さんを呼んで教えてもらうことも提案した。
しかし、彼女は――。
「…………(ぎゅっ)」
――俺の服の裾を掴んだ。
そして、離そうとしない。俺は何故服を掴まれているのか分からず、困惑した。
「加茂さん?」
「…………(ふるふる)」
名前を呼ぶと、加茂さんは首を横に振る。もしかして、"呼ばなくていい"ということだろうか。
「…………(しゅばっ)…………(ささっ)」
加茂さんは俺の服から手を離すと、俺に持たせていた水着をひったくるように奪う。そして、試着室の中に再び入ってカーテンを閉め切った。
……まあ、加茂さんが嫌なら無理強いはできない。だから、俺はこれ以上何も言わないことにした。
その後、加茂さんの着替えをしばらく待つと、再びカーテンが開く。
今度の加茂さんは、もう一つの水着――水色のビキニに白のフリルが付いたものを試着していた。
そして、自分の体を隠さないようにしているのか、彼女はボードを体の横に持っている。
『どうですか』
ボードに書かれていた文字は、俺への感想の催促だった。
正直、これまた破壊力が凄まじい加茂さんの水着姿だが、二度目だからか、心は幾分か冷静さを保つことができた。
「まあ、いいんじゃね」
「…………(むぅ)」
俺が当たり障りのない感想を言うと、加茂さんは軽く頰を膨らませて不満を訴えてくる。
……彼女が不満を訴える理由は、分かる。俺の言葉が悪すぎた。自覚している。
しかし、しかしだ。こういう時、他に何と言えばいいんだ。女子と買い物に行ったことは数回あれど、流石に水着を買いに来たことはない。
つまり、未経験の事柄に完璧な対応ができないのは当然――。
「…………(じとー)」
――言い訳はここまでにしよう。
加茂さんのジト目が痛い。他に何か言うことはないのか、という目だ。
……他に何かと言われても、思いつかないのが現実なのだが。
これでも俺は言葉を選んでる。むしろ、要らない何かを言ってしまわないように、神経を使っている。だからこれ以上を求められても困る。
「…………(じとー)」
そんな俺を、加茂さんは許してくれないらしい。
……正直な感想は言えないことはない。ただ、かなり歯の浮いた台詞である。言うしか、ないのか。
俺は腹を括って、口を開く。
「……に」
「…………」
「似合ってる……か、可愛いと思う」
加茂さんは俺の感想に対し、特に何も反応しない。そのまま、カーテンを閉めてしまった。
……別に喜ばなくてもいいから、せめて何かしらの反応はしてほしかったのだが。俺が感想言った意味って一体。
――そう思った矢先、カーテンの脇からボードだけがひょっこり顔を見せる。
『ありがとうございます
すごくうれしいです』
そこに書かれていた言葉は、何故か敬語のお礼だった。
▼ ▼ ▼ ▼
私はボードを下に置いて、カーテンを閉め切った試着室の中で一人、蹲る。
赤宮君に可愛いって言われた。
心臓がうるさい。まだドキドキしてる。
顔が熱い。手で触れると、その熱さが分かる。目の前の鏡をチラッと見ると、私の顔は赤くなっていた。
どうして自分がこんな風になってるのか、分からない。
直球で言われたから気恥ずかしいって気持ちもある。でも、今の私のこれは、それだけじゃない気がした。
赤宮君に似合ってるって言われて、嬉しかった。
正直に言うと、私はそんなポジティブな感想を少し期待していた。だって、誰にだって褒められたら嬉しいし、赤宮君なら褒めてくれそうだと思ったから。
けれど、実際に言われて、嬉しさを超えた何かに私の心は塗り潰されてしまった。
分からない。嬉しいけど、恥ずかしい。恥ずかしいけど、嬉しい。分からない。何これ。何、この気持ち。私、どうしちゃったんだろう。
前にも似たような経験をした気がする。いつかは覚えてないけど、この気持ちはその時と全く同じだった。凄くそわそわして、落ち着かない。
――私は、顔の熱が冷めるまで試着室から出ることができなかった。





