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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
"親友"の境界線

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お参りと告白

「折角神社に来たんだし、最後に皆でお参りして帰ろうぜ!」


 花火大会が終わって今日はもう帰宅するかと思えば、秀人はそんなことを言い出した。


『しよう!\(๑╹▽╹๑ )/』

「まあ、確かに花火を見させてもらってお参りしないのも失礼よね」

「そうだな」


 加茂さんと神薙さんも異論はないらしい。俺もない。


「じゃ、決まりだな!」


 お参りすることが決定し、俺達四人は神社の賽銭箱の前に向かうことになった――。




「これって先に鈴鳴らすんだよな」

「そもそも、こんな夜に鈴って鳴らしていいの?」

『神様寝てるかも?

 迷惑かな?(IωI` )』

「静かに紐揺らせばいいんじゃね?」

「鳴らさなきゃ意味ないだろ……」

「あ、そっか」


 賽銭箱の前まで来た俺達は、その手前にある鈴を目の前にして頭を悩ませる。

 正月のお参りは夜に行く場合もあるが、今日は別に特別な日という訳でもない。その場合、どうすればいいんだろう。


「鳴らして大丈夫ですよ」

「「「「!?」」」」


 知らぬ声に驚き後ろを振り向くと、格好からしてこの神社の関係者だと思われる女性が立っていた。


「す、すみません。こんな夜分遅くに……」

「いえいえ。それより、花火、ちゃんと見られましたか?」

「は、はい」

「それならよかったです」


 女性は笑みを崩さず、言葉を続ける。


「ここは周りが林になっていますから、近所迷惑にもなりませんので。お気遣いなく」

「そういうことなら……」


 折角ここまで言ってくれているので、鳴らさない訳にはいかないだろう。

 俺は一旦女性に軽く頭を下げてから、三人に訊ねる。


「誰が鳴らす?」


 神社のマナーはあまり知らないが、流石に四回も鳴らすのは変な気がする。だから、誰かが代表して鳴らすべきだろう。


「…………(びしっ)」


 そこで挙手をしたのは加茂さんだった。


「じゃあ、加茂さんが鳴らすってことでいいか?」

「ええ」

「おう」


 加茂さんが鈴を鳴らすことに決定して、俺達は財布から小銭を取り出す。

 加茂さんは鈴を鳴らす縄の前に立ち、それを両手で掴む。そして、様子を窺うようにこちらを見てきた。


「いつでもいいぞ」

「…………(こくん)」


 "了解"という意思表示の頷きを見せると、加茂さんは前を向き、鈴を鳴らす。

 カランカランと音が鳴り、俺達は小銭を賽銭箱に放り入れた。それから、二拍手の後に両手を合わせて目を瞑った。


 さて、折角だし何か祈りたいが、何を祈ろうか。受験は来年だから正月でいいとして、今お願いしたいことといえば……。


 ――不意に、泣いている加茂さんが脳裏をよぎる。




 お願い事が一つ決まり、俺は神様に祈った。

 ただ、こればかりは神様も困るお願い事かもしれない。だから、あまり期待はしないでおく。






 どうか――――――――ますように。






「光太、長くね?」

「九杉もね」


 声をかけられ、目を開ける。

 顔を上げて振り向けば、秀人と神薙さんは既に祈り終えていたらしい。


 しかし、隣を見ると、加茂さんはまだ祈っていた。目をギュッと瞑り、かなり力の入った祈りをしている。二人の声も聞こえていないらしい。

 ……そんなに気合いを入れて、一体何のお願いをしているんだろう。


「光太は何お願いしたんだ?」

「……学業成就」

「学業成就にしては祈るの長くねえか?」

「……家内安全」

「絶対適当言ってんだろ」


 秀人は訝しむように俺を見る。彼の言う通り、俺は本当の願いを言わずに適当に答えていた。

 怪しまれてしまったが、それでも正直に言うつもりはない。質問から逃げるために、俺は秀人に質問し返す。


「お前は何願ったんだよ」

「恋愛成就」


 秀人はブレなかった。

 というか、思いが真っ直ぐすぎる。夜なのに秀人が眩しく見える。本当に一途なんだな……。


「恋愛成就って、あんた、好きな人いたの?」


 神薙さんも話に参加してきて、意外そうに訊ねた。


「ああ、目の前にな」

「へえ、そう……………………え?」

「好きだ」




 秀人の爆弾発言に対し、時間が止まったように神薙さんは固まった。




 ………………えっ。




「こ、ここ、こここここっ……!?」

「鶏の真似?」

「違う! こんなところで普通ここ、告る!?」

「むしろ今しかないと思った」

「〜〜〜〜!?」


 秀人はあっけからんと言うが、神薙さんは顔を真っ赤に染めてかなり混乱している様子だった。


「それで、返事は?」

「…………えっと……」

「分かった」

「え?」


 神薙さんは秀人が何を分かったのか理解しておらず、再度固まる。

 因みに、俺も理解できていない。なにせ、神薙さんはまだ何も答えていないのだから。


「鈴香が返事してくれるまで待つ。ってか、OK貰えるように俺が鈴香を惚れさせる」

「んなっ」


 秀人の"分かった"の意味は理解できたが、なかなかの話のぶっ飛びようだった。

 しかし、秀人は真面目な顔を崩さない。惚れさせる宣言は本気らしい。


『何の話してるの?』

「っ、この話は終わり!」

「…………(えっ)」


 いつの間にかお参りを終えていた加茂さんが話に参加したところで、神薙さんは話を無理矢理打ち切る。


「…………(しゅん)」


 加茂さんは悲しそうに顔を俯かせた。まあ、それも仕方ない。これでは、一人だけ話からハブられたようなものだ。

 神薙さんが加茂さんに言いたくない気持ちも分かるが、誤魔化すには少し無理がある。


「え、あ、いや、その……」

「…………(ちらっ)」

「うっ……」


 加茂さんは狼狽える神薙さんに視線を送る。神薙さんはその視線から逃げるように目を逸らす。


 ――加茂さんは、目を逸らす神薙さんの目の前に素早く回り込んだ。


「…………(しゅっ)」

「ううっ……」

「…………(しゅしゅっ)」

「うううっ……」


 ぐるぐると神薙さんの周りを回り続ける加茂さんと、唸りながら目を逸らし続ける神薙さん。

 これは加茂さんなりの尋問なのだろうか。客観的に見て、神薙さんが劣勢だった。


「なあ光太」

「何だ」

「俺達、何見せられてるんだろう」

「知らん」


 傍から見てシュール極まりないその光景は、加茂さんが動きすぎて息切れするまで続いたのだった。

(この四人のやり取りを微笑ましそうに眺めている陰の薄い神主さんが一番強い)

(因みに神薙さんは加茂さんの視線に耐え抜きました。勝者?は神薙さんです)

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