加茂さんとミガトと屋台通り
「どうしてこうなった……」
「勝手に動くからだ」
「…………(こくこく)」
俺と加茂さんは左右からミガトの手を繋いでいた。
万が一にでもはぐれられると、今度こそ花火の時間に間に合わなくなるのだ。それだけは避けたかった。
「でも、良かったな。さっきより空いてて」
先程に比べると、屋台通りの人混みも多少は少なくなっていて歩きやすい。これなら、ちゃんと注意していればはぐれることはないだろう。
「なら、我の手を離さんか」
「駄目だ」
「むぅ」
混んでることには変わりないのだ。だから、あまり離れられては困る。
「九杉ぃ、我にも食べさせろぉ」
「…………(こくり)」
加茂さんは頷き、食べかけのりんご飴をミガトの口元に持っていく。
ミガトがそれを一齧りすると、パリッ、シャク、と小気味いい音がした。
「美味い!」
「よかったな」
子供らしい笑みを見せるミガトを見て、俺は自然と頰が緩んだ。
そのまま顔を上げると、俺と同じようにミガトを見ていた加茂さんと丁度目が合う。
「…………(すっ)」
そして、無言でりんご飴を差し出された。
「……俺はいいよ」
「む? 光太は食べないのか? 美味いぞ?」
「…………(ずいっ)」
ミガトに勧められ、加茂さんは俺の口元ににりんご飴を近づけてくる。
確かに、りんご飴は好きだ。美味いのも知ってる。しかし、食べかけである。
俺が気にしているのは、間接……の方だ。この様子だと、ミガトは勿論、加茂さんも気づいていなさそうだった。
……気づいてないなら、いいか。別に俺が気にしなければいい話だ。
「あむ」
りんご飴を小さめに齧る。久々に食べたが、安定の美味しさだった。
「美味いな」
「そうだろうそうだろう」
何でお前が自慢げなんだ……。
うんうんと頷くミガトに呆れた眼差しを送っていると、加茂さんが残り少ないりんご飴をじーっと眺めていることに気づく。
「加茂さん?」
「…………(びくぅっ!)」
「うおぅっ!?」
俺が声をかけると、加茂さんは体ごと跳ね上がる。ミガトは腕が引っ張られて驚き、俺も彼女のおかしな反応に首を傾げた。
加茂さんはブリキの人形のようにぎこちない動きで、俺の方に顔を向ける。
加茂さんの顔は、手に持つりんご飴のように真っ赤に染まっていた。
……この反応はまさか。
「どうした九杉、顔が真っ赤だぞ?」
「…………(あわわわ)」
ミガトに指摘されると、加茂さんは慌てて自分の顔を手で隠そうとする。
しかし、加茂さんの右手はミガトと繋がれており、左手ではりんご飴の棒を持っている。つまり、完全に両手が塞がれているのだ。
それでも、加茂さんはどうにかして顔を隠したいらしい。りんご飴の棒を持ったままの左手で、顔を覆おうとする。
全く隠せていなかった。
「うん? どうして光太も顔が赤いのだ」
「あ、いや、これはだな」
ミガトに説明するための上手い言い訳が思いつかず、視線を彷徨わせる。すると、加茂さんと再び目が合ってしまう。
加茂さんはじっと俺を見つめてくる。その視線に耐えかねた俺は、正直に話した。
「ごめん、気づいてたけどスルーした。加茂さん、こういうの気にするタイプか?」
「…………(ふるふるふるふる)」
加茂さんは強張った表情で、いつもより激しく首を横に振る。
「九杉、痛い。手に力入りすぎだ」
「…………(ぼふっ)」
「九杉!?」
彼女は嘘が下手くそだった。
しばらく歩いて、広場のような場所に辿り着いた俺達は少し休憩することにした。
「結構歩いてきたな」
『これなら間に合うね』
花火大会の時間まであと30分。この調子なら、花火が始まる前には神社に辿り着けるだろう。
「のう、聞いてもよいか」
「ん? どうした」
「お主達の腕に付けているそれは何なのだ? どういう原理で光っておるのだ?」
ミガトは点灯しているネオンの腕輪を指差し訊ねてくる。
これ、小学生にどう説明すればいいんだろう。"光る腕輪"以外に言葉が出てこない。
俺が言葉に悩んでいると、加茂さんがミガトにボードを見せる。
『私のあげようか?』
「む、そういうつもりで言ったのではないのだが……いいのか?」
ミガトは遠慮がちに、加茂さんに訊ねる。
それでも、視線は腕輪から離れていない。興味津々のようだ。
「なら、俺のあげるから、加茂さんは外さないでくれ」
もう起きないとは思うが、もしまたはぐれそうになった時に目印になる。
対して、はぐれたとしても俺は人混みに呑まれることはない。それに、俺は探す側だ。だから、目印はなんて必要ない。
「ミガト、赤でもいいか?」
「赤は好きだぞ。めでたいからな。でも、本当によいのか?」
「子供が変な遠慮するな」
「お主達もまだ子供だろうに」
「……可愛くねえな。いいから腕出せ」
「むう」
ませた発言をするミガトに、俺は付けていた腕輪を外して彼の腕に付ける。
「……うむ、綺麗だな」
ミガトは自分の腕を眺めて、ぽつりと呟く。
俺はスマホで時計を確認してから、二人に声をかけた。
「よし、そろそろ行くぞ。神社まであと少しだ」
「おう!」
「…………(おー)」
二人は拳を上に突き上げる。移動するだけなのでそこまで気合いを入れなくてもいいのだが、楽しそうだからいいか。
「加茂?」
――不意に、後ろから声が聞こえた。





