加茂さんとホラーゲーム2
一人で色々やってみて、分かったことがある。
まず、通路の巨大ゾンビ。あれは銃では倒せないらしい。どこかに爆弾があるらしいので、先にそれを見つけなければならないのだとか。
次に、この建物と自分達の位置。舞台は高級ホテルで、理由は分からないが屋上を目指すみたいだ。
服の袖を引っ張られる。
「もう平気か?」
「…………(こくり)」
やっと復活した加茂さんは、最初よりは幾分か落ち着いていた表情だ。これなら始められるだろう。
「じゃあ、早速……やってくぞ?」
「…………(ごくり)」
加茂さんは息を呑み、画面を見つめる。
それを確認した俺も画面に視線を戻し、ゲームを再開した――。
* * * *
「加茂さん、近い。暑いから少し離れてくれ」
「…………(かたかた)」
「……今日だけだからな」
* * * *
「加茂さん、道二つあるけど手分けするか?」
「…………(がくぶる)」
「……だよな」
* * * *
「…………(ぶんぶん)」
「痛い引っ張るなコントローラー振り回すな落ち着け」
* * * *
「多分、この扉の先にいる。勘だけど」
「…………(ごくり)」
――グガァァァ。
「あ、やっぱり……え、おい、ちょ、待て」
「…………(がくがくぶるぶるかちゃかちゃ)」
「加茂さん止まれ、俺を攻撃するなっ、ステイッ……あ、死んだ」
* * * *
「俺、最初の話知らないんだけどさ……何だよ初期装備の銃弾30発って。2発しか残ってなかったぞ」
『本当の話をすると赤宮君が来る前に
ほとんど使っちゃって(´q`)』
「それ残ってればもっと楽に進めただろ……」
* * * *
「…………(ぷるぷる)」
「無理しないで目瞑ってろ。ここは俺一人でやってみるから」
「…………(こくこく)」
* * * *
「…………(かちゃかちゃ)」
「お、加茂さんナイス」
「…………(かちゃかちゃ)」
「もしかして、ホラー慣れたか?」
「…………(かちゃかちゃ)」
「……そっち壁だけど」
「…………(かちゃかちゃ)」
「無理してるのはよく伝わったからもう少し休んでていいぞ」
* * * *
「加茂さん上達したな」
「…………(えへへ)」
「動き上手くなったと――っ、危なかった……あれ、加茂さん?」
「…………(ちーん)」
「……よく頑張ってると思う。本当に」
* * * *
『赤宮君ってゲーム上手いよね』
「そうか……? まあ、それなりにやってたからかもな」
『私も結構長くやってるよ?』
「加茂さん、コミュニケーションの問題で仕方ないのは分かってるけど、そろそろそっちも操作してくれ。ここ援護がないとキツい」
『怖くて画面見れない』
――パァン。
「……画面見ないで操作して味方銃殺するのはどうかと思う」
『ごめんなさい』
* * * *
「終わった……のか?」
後半はゴリ押しが多かったが、ようやくエンディングまで来れた。
……終わってみると、意外に呆気ないものだ。
時計を見ると6時を過ぎている。このゲームを始めて五時間ぶっ通しでやっていたことになるが、それでも短い気がする。
加茂さんが躓いていたのも最序盤だったから、およそ六時間程度で終わってしまったことになる。
まあ、いいか。
スタッフロールが流れ始め、疲労困憊な様子の加茂さんに労いの言葉をかける。
「お疲れ様」
『お疲れ様\(๑╹ω╹๑ )/
今日はありがとう』
「ん」
軽くハイタッチを交わすと、加茂さんは後ろに倒れて寝転がる。
そして、足を前に投げ出して大の字になった。完全にくつろぎモードである。
「このゲーム、楽しかったか?」
『当分やりたくないかな』
寝転がったままボードに文字を書く加茂さんは苦笑いしつつも、充実したような表情だった。
「頑張ったな」
「…………(びくっ)」
「……あ、ごめん」
満足そうな加茂さんの顔を見て、思わず頭を撫でてしまった。俺はすぐに手を引くと、加茂さんはボードに文字を書く。
『もっと』
「……仰せのままに」
加茂さんにお願いされ、断る理由もない。俺がまた撫で始めると、彼女は目を細める。犬みたいだ。
――しばらく撫で続けていると、スタッフロールも終わりに差し掛かる。
「そろそろスタッフロール終わるぞ」
「…………(がばっ)」
加茂さんが勢いよく起き上がる。
スタッフロールが終わり、最後、主人公が朝日を浴びるシーンが流れ始めた。これが本当に最後のエンディングになるのだろう。
そして、俺達は次のシーンを見て固まった。
「えっ」
「…………(かちーん)」
主人公が燃えたのである。何の前触れもなく。
――このゲームのゾンビは、太陽の光を浴びると燃えるという特徴があった。
主人公の燃え方はその燃え方と酷似していて……つまり、そういうことになる。
消し炭になってしまって誰も居なくなった画面に"BAD END"の文字が表示される。
その後、自動的にスタート画面に戻ってしまった。
「…………(かたかたかたかた)」
「マジか……」
この演出とスタート画面に戻されたことから、ハッピーエンドもある可能性は高い。
結論を言うと、まだ終わっていなかった。エンディングに至るまでに、何かが足りなかった訳だ。主人公のための特効薬的な何かが。
気がつけば、加茂さんは俺の服の裾を摘んでいた。小刻みに体を震わせ、涙目で俺の顔を見つめてくる。
そんな彼女に、訊ねた。
「……どうする? まだやってみるか?」
加茂さんは全力で首を横に振った。





