加茂さんの救援要請
夏休みに入ったよ!\\\\٩( 'ω' )و ////
一緒に水着を買いに行く約束をしてから日は過ぎて、高校生活二度目の夏休みに突入。
俺は冷房が効いた自室のベッドの上で特に何かをすることもなく、悠々自適の生活を送っていた。
「自由だ……」
完全に堕落していた。
……これは仕方ないことなのだ。宿題は最初の三日間で集中して取り組んだ結果、大体終わってしまった。故に、やることがない。
それに、俺は結構睡眠が好きだったりする。だから、こうしてゴロゴロくつろいでいる。
勿論、洗濯は全て終わらせたし、簡単に掃除もした。
昼飯は……買いに行かないといけないが、まだ11時だ。買いに出るのはもう少し後でもいいだろう。
〜〜♪
「……加茂さん?」
ライナーの着信音が鳴り響き、体を起こす。そして、電話を取る前にカレンダーを一瞥する。
花火大会は7月30日だし、彼女と買い物に行く約束は8月2日だ。今日の日付は7月25日なので、今日は何もない筈である。
とりあえず、電話を取ってみよう。
「もしも――どうした!?」
通話ボタンを押すと、加茂さんが映る。しかし、何故か彼女は、布団に包まった状態で泣いていた。
目からは大粒の涙がぽろぽろ溢れ出ていて、ズズーっと鼻をすする音が聞こえる。
加茂さんは震える手で、ボードに文字を書く。
『助けて』
「何があったか教えてくれ」
突然すぎる事態に動揺しながらも、俺は状況把握のために加茂さんに訊ねる。
こういう時こそ、冷静な判断が必要だ。そして、場合によってはすぐに家を飛び出せる準備を並行して行っておく。
『怖い』
「何が」
『ゾンビ』
ゾンビ。
「……映画見てるのか?」
「…………(ふるふる)」
画面がテレビの方に向けられると、そこには不気味な雰囲気を醸し出す"GAME OVER"の文字。
俺は動きを止めて、一息吐いて、吸って、言った。
「紛らわしいわっ!」
「…………(びくっ)」
何かあったのかと思ったら、ゲームを怖がっていただけだった。心臓に悪いから驚かせないでくれ。
そもそも、何で苦手なホラー系のゲームなんてやっているんだ。ボロ泣きするなら最初からやるなよ。
「ったく……で? 今から行けばいいのか?」
「…………(こくこくこくこくこくこく)」
加茂さんは小刻みに何度も頷く。
俺は深くため息を吐いた後、外に出る支度を再開した。
* * * *
加茂さん宅に着き、インターホンを押す。しばらく待っていると、玄関ドアが開いた。
「…………(ばっ)」
「うわっ」
――中から加茂さんが飛び出してきて、俺は咄嗟にを受け止める。
彼女は体をぷるぷると震わせて、俺にしがみついて離さない。けれど、これでは困る。
「……離れてくれるか」
「…………(ふるふるふるふる)」
加茂さんにお願いするも、彼女は首を横に振って拒否してきた。
そして、強めにしがみついてくる。意地でも離さないつもりらしい。
「歩けない」
「…………(ぎゅー)」
多分、加茂さんはそれどころではないのだろう。しかし、一応、ここは外である。
人通りは少ないが、その少ない通行人の視線が痛い。あと、地味に恥ずかしい。
――何より、当たってる。気のせいかと思ったが、やはり当たっている。
柔いものが思いっきり押し付けられていて、俺自身の心臓の鼓動がうるさい。
「なあ、どうしても離れてくれないのか」
「…………(ぎゅーっ!)」
更に強い力を込めてしがみついてくる。
埒が明かないので、強硬手段に出ることにした。俺は加茂さんの頭を両手で挟んで掴み、横向きにして俺の胸元に当てる。
「聞け」
彼女の耳には、俺の心音がはっきり聞こえているだろう。
「…………(きょとん)」
「これ、加茂さんのせいだからな」
加茂さんは目を瞬かせて、固まる。
「…………(ぼふんっ)」
――俺の言いたいことを理解してくれた加茂さんは、顔を真っ赤にして俺から離れようとし始めた。
「この際だから教えてやる」
「…………(ぐぐぐ)」
俺は、離れることを許さなかった。慌てる加茂さんの頭の後ろに手を置き、少し力を込める。
彼女は真っ赤な顔のまま俺から離れようともがくが、それは叶わない。俺が離さないからだ。
加茂さんは俺に気を許しすぎている。
親友でも、超えてはならない一線は当然あるのだ。しかし、彼女はその一線をあまり意識していないのだろう。俺を信頼してくれているから。
しかし、俺だって男である。抱き着かれたりすれば、平静を保つので精一杯になってしまう。この自制心が利かなくなったらどうなるか、自分でも分からない。
だから、それを認識してもらう良い機会だと思った。
「どうだ、恥ずかしくなってきたか」
因みに、俺は恥ずかしい。人の家の前ですることではないのは重々承知している。
だから、加茂さんにも俺と同じ気持ちを味わってもらおうじゃないか。我慢、してもらおうじゃないか。
ヤケクソになってる自覚はある。
しばらくして俺から離れることを諦めたらしい加茂さんは、もがくのをやめて動きを止める。そして、今度はポカポカと俺を叩き始めた。
しかし、これは加茂さんの優しさだろう。彼女の打撃はとても軽く、全く痛くない。
――少し、意地悪をしてみたくなった。
「お返しだ」
「…………(!?!?)」
俺は最初の加茂さんを真似るように、彼女の背中に手を回して少し強めに抱き締めた。
安心してください、ちゃんと次話で家の中に入りますから……(´ω`)(そこじゃない)





