加茂さんと買い物に行こう
二つ目のレビューを頂きました!
verさん、ありがとうございます!(´ω`)
「水着? 服屋に行けばあるんじゃね?」
翌日、秀人に水着の売っている場所に心当たりがないか訊ねると、そんな回答が返ってきた。
「夏のレジャーショップみたいな場所じゃなくてもあるもんなのか」
「流石にあるだろ」
言われてみれば、夏場に服屋に行った時、水着フェアのようなものをやっていたような。
「急にどうした? 海にでも行くのかよ」
「いや、プール」
「一人で?」
「違う」
俺は一人でプールに行きたがるようなアクティブな人間ではない。それは秀人も分かっている筈だ。
……言ったら面倒臭そうだなと思いながらも、一応話しておくことにした。
「加茂さんと神薙さんと三人で」
「……え、俺は」
「部活あるだろ」
「何日」
「8月5日」
「………………合宿なんて概念消えてなくなれ」
「ドンマイ」
合宿だったのは初耳だが、どちらにせよ秀人は来れないことが確定した。
神薙さんがいるから来たがるだろうとは思っていたが、今回は諦めてもらうしかない。
「普通の部活ならサボれたんだけどな」
「それもどうかと思う」
堂々とサボる宣言をするな。
「石村?」
――底冷えするような声が、秀人の後方から発せられる。
そちらを見れば、良い笑顔をしている桜井さんが立っていた。俺が無言で合掌すると、秀人は顔からダラダラと発汗し始める。
「光太、俺の後ろに何が見えてる」
「修羅」
「そっかー、修羅かー」
「だーれが修羅なのかなぁ?」
俺はそっと視線を逸らした。
「平然と見捨てるなよ」
秀人の非難の声に、俺は視線を逸らしたまま答える。
「見捨ててない。生存本能だ」
「なら仕方ない」
「すっごく失礼だね」
「「ごめんなさい」」
こういう時は素直に謝るのが最善手だ。秀人も俺と同じ考えだったらしい。
「特別に赤宮君は許してあげる」
「桜井さんの寛大なお心に感謝申し上げます」
「それはやめてね」
「はい」
俺は桜井さんの許しを得ることができた。そして、秀人にも判決が下る。
「石村は今週の練習メニュー二倍って監督にお願いしておくから」
「嘘だ」
「本気♪」
桜井さんは満面の笑みを見せる。
ただ、目が笑ってないから滅茶苦茶怖い。彼女は怒ると怖いタイプらしい。俺は学んだ。
「レギュラーメンバーの癖に、普段から練習で手抜いてることも分かってるんだよ。そんな石村なら余裕だよね」
「そっかぁ」
秀人は諦めたように相槌を打つと、項垂れるようにもう一言吐き出した。
「そっかぁ……」
死んだ目をしている友人に、俺はなけなしの応援を送る。
「頑張れ」
「骨は拾ってくれ」
「断る」
後始末は引き受けなかった。今の話を聞く限り、自業自得な気もしたから。
手抜きというのは、やり過ぎると自分の身を滅ぼすのなのだ。
――トントン。
音が聞こえて見てみれば、加茂さんが手を伸ばして俺の机の上を軽く叩いていた。
俺が気づくと、彼女はボードをこちらに向けてくる。
『水着買うの?』
「まあ、近々」
『一緒に行かない?』
「……ちょっとよく分からない」
正確に言えば意味ははっきり分かるのだが、脳が理解を拒んでいた。
そんな俺を、彼女は分かりやすい言葉を使ってもう一度誘ってくる。
『私も水着買わなきゃだから
今度一緒に買いに行こうよ』
「うーん……」
今度ははっきりと理解させられてしまう。逃げ場もないので、真面目に考えてみよう。
男女で二人きり、水着を買いに行く。普通ではないことは、俺達は友達ではなく親友だということ。
もう少しだけ頭を柔らかくして考えてみる。
二人で買い物に行く。何故? 必要なものを買うため。
……こう考えると、結構普通だな。俺が考えすぎなければ、ただ二人で買い物に行くだけだ。
「分かった、行くか」
「…………(こくっ)」
了承すると加茂さんは頷き、笑みを見せる。そんな彼女を見て、俺も頰を緩ませる。
「……なんか、凄いね」
「いつもこれだから。慣れておくか山田と二人で対抗できるようにしとけ」
「慣れておくことにします……」
秀人と桜井さんのひそひそ話が聞こえたが、ここで慌てると逆に勘違いされかねない。だから、わざと聞こえていないフリをした。
はよくっ付けと言いたいところですが先はまだ長いのです……すろーぺーす(´・ω・`)





