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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
"親友"の境界線

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加茂さんは無垢

 ――期末テスト、全科目終了。


「終わったー!」

「……今回の勉強時間は?」

「10時間ぐらいだな。今回は結構良い点数かも」

「くたばれ」

「酷くね?」


 もう要領が良いという次元を超えている。たった10時間の勉強時間で赤点を心配しないどころか、良い点数が取れてるってどういうことだ。


「勉強頑張ってる全国の人に謝れ」

「できちゃったんだから仕方ないだろ」


 良い点数を取るのが良いことなのも分かっている。しかし、納得できないものはできないのだ。

 というか、これで加茂さんより点数良かったら俺が悔しい。それだけの理由だった。


 俺は手を合わせて、神に祈る。


「何してんだ?」

「加茂さんが秀人より良い点数取れますようにって」

「おい」


 割と本気で祈っていた。




 * * * *




 夏休みに入る前にテストは全て返された。

 そして、職員室近くの廊下に校内順位が貼り出される日の朝、俺と加茂さんは前回と同じように結果を見に来た。


「…………(どや)」

「頑張ったな」

「…………(えへへ)」


 胸を張る加茂さんに労いの言葉をかける。

 彼女の順位は246位。前回に比べて50位近く上がっている。凄まじい進歩だと思う。


『赤宮君は凄いね』

「前回より下がったけどな」


 俺の順位は14位。前回より少し落ちているものの、問題はない。


 その後、神薙さんの名前も見つけた。

 彼女は32位だった。勉強はできる方というのは知っていたので特に驚きはない。


 今回のテストで一番不服なのは、秀人の順位。199位だった。正直、ふざけるなと言いたい。

 たった10時間の勉強でこの順位って、化け物でしかない。ここ、一応進学校だぞ。

 いつも赤点をギリギリ回避するぐらいの点数だというのに……悔しい。加茂さんを秀人に勝たせてあげたい。


 因みに、俺が今回の秀人と同じことをすれば、赤点をギリギリ回避できるぐらいだと思う。

 しかし、これは普段の授業をまともに受けているという前提があってこその話。秀人は大体の授業で寝ているので、本当に頭おかしい。


 ――俺の思考を遮るように、横からホワイトボードが現れた。


『スマイル

 \(≧ー≦)/』

「……何でだよ」

『顔怖い』

「……ごめん」


 加茂さんを怖がらせてしまっていた。


 ……よし、割り切ろう。

 次こそは加茂さんに勝たせてあげたいが、地頭や才能に関してはどうにもならない。

 加茂さんも、秀人に勝ちたいとも思っていないだろう。彼女は自己新記録にしか興味がないタイプなのだと思う。


 俺の気持ちに付き合わせるのも悪いので、素直に諦めることにする。まずは、第一目標の200位を目指そう。


「この調子で次も頑張ろうな」

「…………(おー)」


 加茂さんは拳を真上に突き上げた。




 * * * *




 その日の放課後、俺と加茂さん、神薙さんの三人で駅まで歩いていた時のこと――。


「ねえ、赤宮君。夏休み暇でしょ? プール、一緒に行かない?」


 突然、神薙さんから誘われた。


「……何で?」

「た、楽しいでしょ?」


 何か裏があるだろうと疑った俺は正しいと思う。事実、今の反応から確信してしまった。

 加茂さんに誘われるならまだ分かる。しかし、神薙さんが俺を誘うなんて初めてで、普通ならあり得ないというのも理由の一つではある。


 加茂さんに視線を送ると、彼女はきょとんとした顔で神薙さんを見ていた。


「……本当の理由を言え。話はそれからだ」

「やっぱり今の話忘れて」

「おい」


 (いさぎよ)すぎる。そこまで言いたくないのか。

 でも、それならそれでいいか。変な企てに自ら突っ込む必要もないだろう。諦めてくれたのなら好都合だ。


『赤宮君も来ようよ!

 一緒に泳ごう!』


 ――加茂さんに裏表のないであろうお誘いをされてしまい、俺の意思は簡単に揺らいだ。


 思わず二つ返事に答えたら、加茂さんは喜んでくれるのだろう。だが、このまま神薙さんの計算通りになるのも癪だ。

 

「……俺、男だけど」

「…………(こてん)」


 俺が絞り出した躊躇いの言葉を、加茂さんは"何か変?"と言いたげな表情で首を傾げて一蹴する。


 ……これは俺がおかしいのか。二人きりで行くならまだしも、今回は神薙さんがいる。

 あくまで友達とプールに遊びに行くだけで、変なことは何もないのだから。


「分かった、行くよ」

「…………(ぱあっ)」


 加茂さんの表情は、たちまち花が咲いたように明るくなる。

 神薙さんが控えめにガッツポーズしていたのも見逃さなかった。分かりきってきたことだが、裏があるのは確定らしい。


 ……それでも、加茂さんに誘われたら断れない。

 最近、加茂さんに甘くなっている自覚はあるものの、それを"仕方ない"で済ましてしまう自分がいる。


『いっぱい遊ぼ!』

「……そうだな」


 ――まあ、いいか。


 彼女の無垢な笑顔を見て、俺はそう思った。

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