加茂さんと夏休みの予定
「へー、加茂さんって夏休み色々なところ行くんだな。それって家族と?」
『キャンプは家族!
花火大会とプールは
鈴香ちゃんと二人!』
「いいなー」
「…………(むふー)」
羨む秀人に、加茂さんはドヤ顔を見せる。
「……ねえ、何でこいつがいるの?」
「知らん」
「赤宮君が知らないなら誰が知ってるのよ」
「そう言われても」
神薙さんに訊ねられるが、知らないものは知らない。
――期末テストまで一週間を切り、ほとんどの部活は休みになる。
場所は放課後の教室。俺と加茂さんに加えて、神薙さんの三人でテスト勉強をしていた……のだが、いつの間にか秀人も参加していた。
「なーなー、俺達も夏休みどっか遊びに行こーぜー?」
「お前本当に何のためにここに居る?」
ナチュラルに雑談に巻き込んでくる秀人に突っ込む。
秀人が座る机の上には、閉じた教科書とノート。そう、彼は一度もテスト勉強をしていないのだ。
「邪魔するなら帰れば?」
「うえー」
「帰りたくないなら真面目に勉強しろ」
「めんどい」
「もう帰れよ……」
俺達はテスト勉強をするために居残りしているのであって、雑談するためではない。
だから、いくら秀人でも、邪魔するだけなら帰ってほしい……否、帰らせる。
俺が強硬手段に出ようかと考えていると、加茂さんが俺と神薙さんの前にボードを立てた。
『まあまあ(´ω`)』
「……九杉がそう言うなら」
「まあ、ほぼ加茂さんのための勉強会みたいなもんだからな……」
俺も神薙さんはテストが危ない訳ではないし、高得点を狙ってもいない。
だから、テスト勉強の中心人物である加茂さんが許可するのならば仕方ない。
「加茂さんに甘くね?」
「そんなことはない」
加茂さんに甘いのではなく、秀人が緩すぎるだけだ。
「よし、じゃあ勉強休憩して駄弁ろうぜ!」
「「調子に乗るな」」
「はい」
俺と神薙さんで秀人に圧をかけると、彼は素直に返事をして姿勢を正した。
そして、動かない。頑なに勉強しないその姿は、ある意味凄いと思う。尊敬は全くしないが。
秀人が静かになったところで、勉強を再会しようと教科書に目を移した時だった。
トントンと机を叩く音が聞こえてそちらを向くと、加茂さんは文字を書いたボードで鼻から下を隠していた。
『私も休憩したいな
だめ?(´・ー・`)』
時計を見る。短い針は6時を差していた。
「休憩、入れるか」
「そうね」
「やっぱり加茂さんに甘いよな?」
気のせいだ。
ずっと座っていたので、体も固まっている。その体をほぐすように伸びをすると、コキコキと音が鳴った。
「加茂さん、花火大会ってこの辺りのやつ?」
「…………(こくり)」
「俺も去年来たけど、かなり混んでるよなー」
「…………(こくこく)」
正式に休憩に入ったからか、秀人と加茂さんは先程の会話を再開する。
「よし、光太。俺達も来ようぜ!」
「いきなり何言ってんだ」
夏休み中にわざわざ地元の駅から30分電車に乗って、学校の近くに来るのが面倒臭い。
『一緒に行く?』
「やめとく」
「…………(しゅん)」
俺が断ると、加茂さんは分かりやすく落ち込んだ。
「おい光太、行くぞ!」
「……分かったよ」
「…………(ぱあっ)」
加茂さんは、分かりやすく顔を明るくさせた。こうもあからさまに喜んでくれるのは嬉しいが、感情表現がストレート過ぎて俺の方が恥ずかしくなってくる。
加茂さんを直視しづらくなった俺は、神薙さんに確認を取る体で彼女に視線を移した。
「神薙さん、いいか?」
「九杉がいいなら、別にいいわよ」
「よし、決まり!」
「ただし、寝坊しないでね。遅れたら置いていくから」
「おう!」
前科持ちが一番元気に返事をするのも変な気がするが、俺のスカスカだった夏休みの予定が一つ決まった。
さて、そろそろテスト勉強の方を再開するべきだろうか。
「じゃ、休憩終わりな」
「そうね、再開しましょ」
「えー……」
「…………(うへぇ)」
嫌そうにする二人を無視して、テスト勉強を再開した。





