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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
"親友"の境界線

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加茂さんとお別れ?

 いつか、こんな日が来るのは分かっていた。


『寂しくなるね』


 加茂さんは、ボードをこちらに向けて微笑む。

 黒板に書かれている席順と、割り振られた番号。端の人から順番に、教卓の上にあるくじを引いている。


 ――そう、席替えだ。




「いや大袈裟だろ」


 いつかこんな日が来るって、当たり前である。一年中同じ席なんてあり得ないのだから。

 それに、寂しくなると言っても席が離れるだけだ。それ以外、今までと何も変わらない。今生の別れじゃないんだから、しんみりとした空気も要らない。


「次、赤宮だぞー」

「ん、今行く」


 くじを引くために教卓の前に立つ。そして、俺は深く考えることなく、残り少ないくじの一つを引いた。


「……マジか」

「うわ、豪運かよ」


 何故か席替えの進行役をしている秀人が、若干引いたような声を出す。

 俺が引いたのは、前回狙っていた窓側の一番後ろの席。現在加茂さんが座っている席だった。


「前世で何の徳を積めばそんな運良くなるんだか……」

「慈善活動でもしてたとか」

「今世はしてないよな?」

「来世が怖い」


 心にもない軽口を秀人と交わして、席に戻る。実際、来世なんて本当にあるのかも分からないものを心配しても仕方ないのだ。


『どこだった?』

「今加茂さんが座ってる席」

『当たり?』

「大当たり」


 淡々とした会話を交わしていると、すぐに加茂さんの番が回ってきた。


『引いてくる!』


 加茂さんは俺に向かって、控えめに敬礼ポーズを取る。気合い十分なご様子だ。


「加茂さん最後だし、気合い入れても結果は変わらないと思う」

『気持ちだけでも

 席替え楽しみたい』


 そういうものだろうか。




 そうして、加茂さんが引いたのは一番前のど真ん中、現在秀人が座っている位置だった。

 恐らく、皆が引きたくないハズレ席である。ご愁傷様と言うしかない。


『離れちゃったね』

「離れたな」


 しかし、当の本人はあまり気にしてなさそうだ。加茂さんは前の席に抵抗がないらしい。


「「…………」」


 会話も続かずにお互い沈黙してしまい、少し気まずい空気が流れる。


「まあ、たかが席替えだし」


 この空気を振り払うためにも、俺は絞り出すように会話を切り出した。


「帰りはいつも通り一緒に帰る……ってことでいいんだよな?」

「…………(こくこく)」

「分かった」


 頷く加茂さんを見てホッとした……いや、ホッとしたって、何にだ。


「移動始めろー」


 脳内で自問自答していると、佐久間先生の声で席の移動が始まる。思考は強制的に中断された。


「…………(ふりふり)」

「ああ、じゃあな」


 手を振る加茂さんに言葉を返す。それから、彼女は席の移動を始め、俺も机を移動させる。

 一応、これで加茂さんとはお隣さんではなくなる。そう考えると、少し物寂しい。


 ……寂しい? 席が離れるだけで、それ以外何も変わらないのに?


 胸が、モヤっとした。


「……何だ、これ」

「光太ー」


 耳に入ってきた声で、思考が途切れる。


「秀人?」

「俺、光太の前の席になったんだよ」

「……そっか」

「反応薄いな」

「悪い」

「謝らなくてもいいけどさ」


 秀人は机を移動させ終えると、ニヤニヤしながら小声で俺に話しかけてくる。


「加茂さんとそんなに離れたくなかったのか?」

「そうなのかもなぁ」

「え、あ、お、おお?」

「……? 何だよ?」


 正直に答えただけで、何故か秀人が動揺していた。別に変なことは言ってないと思うのだが。


「ラッキーマン、よろしくぅ」


 秀人の反応を不思議に思っていると、変な名前で声をかけられ、右を向く。

 すると、そこには新しいお隣さんがやって来ていた。身長は加茂さんと同じぐらい小柄な女子で、確か名前は……我妻さん、だっただろうか。


「よろしく。でも、ラッキーマンって何だ」

「二回も最後列引き当ててるじゃん。しかもかなり良い場所」

「ああ、成る程」

「……あんまり嬉しくない感じ?」


 我妻さんは不思議そうに訊ねてくる。

 言われて、確かにと思った。自分でも、前回より冷めている自覚はあったのだ。


「嬉しいっちゃ嬉しい」

「何だそりゃ」


 我妻さんは苦笑してから、目を細めて黒板を見つめる。


「……やっぱりキツいかなぁ」


 そして、困ったように呟いた。


「どうした?」

「私さ、目が悪くて」

「眼鏡は?」

「ないよ、ある程度は見えるから。でも、流石にここからは無理っぽい……はあ」


 ため息を吐き、我妻さんは渋々といった様子で手を挙げる。


「先生ー」

「何だ、我妻」

「目が悪いので黒板の文字が見えませーん」

「先に言えよ」

「だって言ったら絶対一番前の席にするじゃないですかー」

「当たり前だろうが」


 佐久間先生は面倒臭そうに頭を掻くと、目の前に座っている加茂さんに声をかけた。


「じゃあ、加茂、我妻と場所代わってやってくれるか?」

「…………(こくり)」

「移動してきたばかりで悪いな」


 ……どうやら、新しいお隣さんは加茂さんと席を交換することが決まったらしい。


「ということで、ラッキーマン、サラダバー」

「サラダバー?」

「……さらばだ、です。説明させるなよぉ」


 律儀に言葉の説明をしてから、我妻さんは机ごと前に引っ越していった。


 それからしばらくして、加茂さんが机を運んでくる。俺の顔を見て、へにゃりと笑って頭を軽く下げてきた。

 机を前と左右に合わせてから、彼女は席に着く。そして、ホワイトボードにペンを走らせる。


『戻ってきちゃった(´・▽・`)ゞ』

「みたいだな」


 俺が苦笑すると、彼女も苦笑する。


『またよろしくね』

「よろしく」


 こうして、あまり席が変わった気がしない二回目の席替えは幕を閉じた。

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