加茂さんと一緒の班
木曜日の六時限目、修学旅行班が決定。班員の顔合わせが始まった。
「ということで、女子は桜井、西村、加茂さんの三人になった」
「よろしくね」
「よろっ!」
「…………(ぺこり)」
「よろしくなー」
「よろしく」
挨拶を簡単に済ませると、西村さんが不満げな声をあげる。
「赤宮君と加茂ちゃんの反応が悪い!」
「意外に驚かなかったな」
西村さんと秀人のその言葉を聞いて、察した。
俺と加茂さん以外は、昨日の時点で班員を把握していたらしい。つまるところ、俺達は仲間外れにされていた訳だ。
「もしかして、二人共知ってた?」
「……ああ。ただ、何でこんな回りくどいことを」
桜井さんに問いかけられ、逆に問い返す。すると、四人が各々に答えた。
「喜ぶかなーって」
「驚くかなと」
「面白そうだったから」
「加茂ちゃんと赤宮君は離しちゃ駄目でしょ!」
四人の言い分は全員バラバラで、意味不明だった。
特に最後。西村さんには俺と加茂さんがどんな風に映ってるんだ。
「それに、二人って一緒に帰ったりするぐらい仲良しでしょ。班に赤宮君が居るって聞いて、絶対加茂ちゃんも誘おうって思ったの」
「体育祭ではお世話になったからねー。一緒の班にさせてあげようと密かに画策してたのさ!」
桜井さんと西村さんの言葉を聞いて、俺は反応に困った。こういう場合、何と返すのが正解なのだろう。
何故なら、加茂さんと同じ班になりたいという気持ちがあった訳でもない。彼女が班に入りたいと言ったから入れてあげたいと思っただけ。
一緒になりたいというより、目の届くところに彼女が居ると安心する。だから、山田に聞いてみようと思った。逆に言えば、それだけだった。
――だから、そこまで気を遣われていたと思うと、逆に申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「よ、余計なお世話だった?」
「ぶっちゃけると、うん。俺に直接、加茂さんから班入れてもらえないか聞かれてたし。だから、桜井さんが加茂さん誘ってるのは驚いた」
「すれ違ってた……!?」
「すれ違いというより、一方通行だな」
ややこしくなっているが、整理すれば単純な話だ。
俺が加茂さんに聞かれて、加茂さんが桜井さんに聞かれて、綺麗に右から左に話が流れていただけなのだから。
こうして振り返ってみると、加茂さんがこの班に入るのは必然だったとも言える。
話の全容を皆が把握したところで、山田が口を開いた。
「加茂さんの話、初耳なんだけど」
「女子決まったって言ってたから。任せてた手前、口出しづらかったんだよ」
「決まったとは言ってなかったんだけどな……」
「いや、言ってただろ。ほら」
俺が一昨日の山田とのライナーを皆に見せると、皆は一様に顔を引き攣らせる。
「ごめん。俺の言い方が悪かった」
「これは誤解してもおかしくないなぁ」
「だね……」
「でもまあ、結果的に一緒になれたし! よかった!」
――話がひと段落したところで、後ろから頭を小突かれた。
「授業中はスマホ禁止」
「あ、すみません」
「見なかったことにしてやるから早くしまえ」
佐久間先生に見つかり、慌ててスマホを鞄にしまう。
見て見ぬ振りをしてくれるのはありがたいが、この先生の場合は没収した後、保管するのが面倒臭いだけだと思われる。彼女は、そういう先生だ。
先生はそれだけを伝えに来たのか、すぐに教卓の前に戻っていった。
「……じゃあ、京都、どこ回るか話すか?」
「今日はよくね? ガイドブックとかまだ配られてないし」
「決める時間は別の日にあるもんね」
「他の班も雑談してるっぽいし、先生も特に何も言わないしな」
「じゃ、今日は親睦を深めよーう」
西村さんの提案に対して、誰も反論はない。
――そして、西村さんは俺を指差し、最初の話題を掲げた。
「ずばり、二人はどこまで進んでるのか!」
「……山田と桜井さん? 俺に聞くより本人に聞いた方がいいんじゃ」
「違う違う。赤宮君と加茂ちゃんのことだよ?」
「は?」
「へ?」
「…………(こてん)」
俺と、加茂さん……?
加茂さんに視線を移すが、彼女も首を傾げて困惑している。
「……あれ? 私の目、狂ったかな?」
最初の話題(?)で躓いた西村さんは、頰を掻いてそんなことを言った。すると、秀人が口を開く。
「西村、早い。まだそこまでいってねえよ」
「嘘!?」
「現実だ」
「……それはそれで、私にとってはご馳走様案件だからいいけどね!」
「ブレねえな」
西村さんは親指を立て、秀人は苦笑する。
「でも、なーんだ。てっきり、相思相愛ピュアップルかと思ったのになー」
「何でそうなる。あとピュアップルって何」
「純粋可愛いカップルの略」
「……だから何でそうなる」
聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる内容だ。
俺と加茂さんは友達以外の何者でもない。だから、まさかクラスメイトにそんな勘違いをされてるとは思っていなかった。
「俺達はただの友達だ」
改めて宣言すると、四人は微笑ましい視線を俺に向けてくる。解せぬ。
「なあ、加茂さんも何か言ってく……何で間に受けてんだよっ」
「…………(ぷしゅー)」
加茂さんに応援を求めようと彼女を見て、俺は思わず突っ込んだ。
――加茂さんは茹で蛸の如く、顔を真っ赤に染めていたのだった。
▼ ▼ ▼ ▼
慌てる二人を見ていると、頰が自然と緩む。山田と桜井も微笑ましそうにそれを見ている。
やっぱり、お似合いだと思っているのは俺だけじゃないらしい。本人達はまだ気づいてなさそうだけど。
「石村君やい」
「何だ、西村やい」
隣から西村に小声で話しかけられ、小声で答える。
「我々は独り身同士、四人を見守りつつ仲良くしましょうぜ」
「それ、言ってて虚くね?」
俺の返しに、西村は悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「それじゃ、ここでくっ付いてみる?」
「ないわ。俺、好きな人いるし」
「なら選択肢はないのだよ……って、好きな人いたの!?」
「悪いか」
「この世に新たなカップルが生まれる=正義!」
「お、おう」
西村は今日も歪みなかった。
※西村さんはカップル大好き人間。
(自分が「尊い!」と判断したカップルなら薔薇でも百合でもいけちゃうお方。業が深い。自分の恋愛には興味がない模様。苦手なものは泥沼)





