加茂さんと修学旅行班
急に立ち止まった俺に気づいて、二人も立ち止まる。そして、俺に視線が集まった。
「…………(こてん)」
「赤宮君?」
加茂さんは首を傾げ、神薙さんは目をぱちくりとさせる。
二人は急に立ち止まった俺を不思議そうに見てくる。しかし、俺は神薙さんの一言に少し驚いていた。
「"やっぱり"?」
その言葉が引っかかった。それが、俺が立ち止まったたった一つの理由である。
「え、違うの?」
「"当然一緒の班でしょ"みたいな言い方されても」
「……違うの!?」
驚きの声をあげる神薙さんにどう反応すればいいか分からず、俺は加茂さんに目を向ける。
――彼女は口を半開きにして、呆然としていた。
その理由も分からない。分からないことだらけで、俺は困惑するしかなかった。
「加茂さん……?」
「…………(はっ)」
加茂さんは我に帰ると、脇に抱えていたボードに文字を書いて見せてきた。
『赤宮君って誰かに
もう誘われちゃった?』
「まあ、一応。女子は山田に任せてるけど、完全には決まってないと思う」
「…………(そわっ)」
加茂さんの体が小さく揺れる。そして、落ち着かない様子で俺の顔を見上げて、目が合ったら逸らされる。
まるで俺に何かを遠慮しているような……そんな態度だ。
「…………(ちらちらっ)」
……ここまで露骨だと、加茂さんが何に遠慮しているのかも流石に分かってしまう。RPGで言うとこうなるだろう。
"加茂さんが仲間になりたそうな目でこちらを上目遣いでチラ見してくる!"
"仲間にしますか?"
「…………(そわそわ)」
▼
"はい/いいえ/先走るな"
「加茂さんって、まだ誰とも組んでないのか?」
「…………(こくっ)」
脳内に流れるテロップに従って訊ねれば、加茂さんは即行で頷いた。そして、ボードに文字を書く。
『できたら、できたらでいいんだよ?
班に入れてほしいなーと思って』
加茂さんは上目遣いで俺を見上げる。不安げで、目も心なしか潤んでいた。
俺が断ったら、加茂さんはどこの班に入るのだろう。
彼女はぼっちではない。孤立する可能性はないと思うが……不思議なことに、他の班にいる彼女を想像することもできなかった。
それに、こんな彼女を放っておくようなこともできなくて……。
「分かった。帰ったら班員の空きがあるかライナーで聞いてみる」
俺はそんなことを口にしていた。
* * * *
[班員の女子ってもう決まったのか?]
夜、俺はライナーで山田に連絡を取る。すると、早々に既読が付き、返信が来た。
[班員発表は明後日のお楽しみで!]
その文面を読んだ俺は、一瞬だけ思考停止した。
……決まっちゃったらしい。早くね? あと、溜める意味あるか?
しかし、山田に女子の方を一任してしまったのは俺達だ。今更、とやかく言いにくい。
[分かった]
結局、そう返信することしかできなかった俺は、明日加茂さんに何と伝えるべきか頭を悩ませることになった。
* * * *
翌日の放課後、加茂さんと駅までの道を二人で歩く。
いつものように彼女の肩を支えて歩きながら、俺は結果を報告した。
「加茂さん、ごめん。遅かった」
加茂さんはピクッと肩を震わせた……気がした。
歩いているから、微かにしか分からなかった。もしかすると、今のは俺の気のせいかもしれない。
『大丈夫(´▽`)
今日 他の人に誘われたんだ。
だから心配しないで。』
「……そっか」
『無理言ってごめんね』
「何で加茂さんが謝る。俺の方こそ、ごめん」
俺は加茂さんの斜め後ろを歩いているから、表情を見ることができない。
表情を見ることができないと、困ることがある。感情が読めないのだ。悲しんでいるのか、あまり気にしていないのか……様子見もできなくて、これが結構辛い。
それでも、彼女と面と向かうこともできなかった。彼女の顔を見るのが、少し怖かった。
加茂さんを班に誘ってくれた人には、感謝しなければならない。おかげで加茂さんが孤立せずに済むから。
……名前、聞いておくべきか。機会があったらその人に礼を言っておこう。
「因みにさ、誰から誘われたんだ?」
『桃ちゃん』
「誰だ」
"桃ちゃん"は多分、下の名前だろう。
しかし、男子ならともかく、女子の下の名前まではあまり把握していない。下の名前で呼ぶ機会なんてないと思って、覚えていなかった。
――そして、次に加茂さんが書いた名前を見て、俺は衝撃を受けることになる。
『桜井 桃ちゃん』
「……………………え?」
まさかそこに繋がるなんて思わないだろ。





