加茂さんにお弁当
「おはよう」
『おはよう!(^ ^)』
朝、登校して加茂さんといつもの挨拶を交わす。
俺が鞄をを机の上に置くと、横から加茂さんに机をトントンと叩かれる。そして、おずおずと千円札を差し出しながら、ボードをこちらに向けてきた。
『お母さんが赤宮君に渡してって』
「ああ、そうだった」
俺は千円を受け取り、鞄の中から弁当箱を一つ取り出す。そして、その弁当箱を加茂さんに差し出した。
「はい、これ」
「…………(きょとん)」
「……そっか。昨日は説明してなかったもんな」
「…………(こくこく)」
頷く加茂さんに、俺は昨日加茂さん母に頼まれたことを説明する。
「弁当、今日から俺が加茂さんの分も作ることになったんだよ」
「…………(ぱちくり)」
「で、この千円は一週間分の弁当代ってことになってる」
俺の説明に対し、加茂さんは驚いて目を瞬かせている。
そうなる気持ちは分かる。自分の居ないところで話が進んでいた挙げ句、これからは俺が作った弁当を食べることになっているのだから。
……本当に事前説明しなくてよかったのだろうか。今更、不安になってきた。
様子を窺うように加茂さんを見れば、彼女はボードに文字を書いてこちらに見せてきた。
『お弁当屋さん
赤宮亭?』
「平たく言えばそうなる」
「…………(ぱあっ)」
加茂さんは目を輝かせて俺を見る。純粋な期待の目だ。
期待が重い気がしなくもないが、すんなり受け入れたことに俺は安堵した。もし拒否されてたら、普通にへこんだと思う。
「それじゃあ、感想は放課後に聞かせてくれ。味付けとか合わなかったら変えるから」
「…………(こくっ)」
俺の頼みに、加茂さんは笑みを浮かべながら快く頷いてくれた。
* * * *
「修学旅行班、誰と組むか決めた?」
昼休み、秀人は購買の焼きそばパンを片手に、俺達に訊ねてきた。
「何も考えてなかった。決めるの今週だったか?」
「木曜日の六時限目だっけ。石村はもう誰かと組んだの?」
「まだ。じゃあここで組もうぜ」
「俺はいいけど」
「俺もいいよ。でも、男女混合班だよな?」
三人で組むことが決定したところで、俺達は修学旅行の班結成条件を振り返る。
「先生は男女混合で六人班が七つ。男だけ、女だけの班は不可。他には特にルールなしって言ってたな」
「そ。ってことで、後は女子だな」
「それなんだけど、一ついい?」
そこで声を上げたのは山田だった。
「女子なんだけど、桜井入れてもいい? 修学旅行の班のことで元々話しててさ」
「桜井さん? まあ、いいけど」
「さんきゅ。じゃあ、残り二人は桜井に聞いてみるわ」
これなら女子の件もどうにかなりそうだ。
秀人はともかく、俺は女子とあまり話すことが少ない。だから、これは助かる。
確か、桜井さんはサッカー部のマネージャーだった。俺も話したことはあるし、山田と秀人は言わずもがなだろう。
山田と桜井さんが話していたというのも、やはり同じ部活だからだろうか。
「山田の彼女って桜井だろ」
「え?」
突然、秀人は山田にジト目を送りながら、確信めいた口振りで言う。
「流石にバレるか。正解」
「普段のお前ら見てたら言われなくても分かるわ。ったく、マネージャーに手ぇ出しやがって」
「俺告られた側だし、ちゃんと健全なお付き合いしてるからな?」
「分かってるっつーの。ただし、桜井泣かせたら二年サッカー部総出でボコボコにしてやるからなー」
「えげつねえ……肝に命じておきまーす」
二人で話が盛り上がっている中、俺はそれを横で聞く。
俺だけが話に置いてかれていた。サッカー部の話題だから仕方ないが、少し寂しい。
そんなことを考えていると、こちらに目を向けてきた山田と目が合う。それから、彼は照れ臭そうに頰を掻いて言った。
「赤宮も隠してて悪かった。やっぱり恥ずくてな」
「それは気にしてないけど……まあ、お幸せに」
「おう、ありがとな」
祝福の言葉を送ると、山田は笑ってそう答えた。
裏話:山田君と桜井さんは本編の影でイチャついているのだ!





