加茂さんは悩む
後半加茂さん視点あるよ!(゜ω゜)
放課後、学校からの帰り道。車の通りもなく、閑静な住宅街を二人で歩く。
彼女の肩を支えて歩きながら、俺は訊ねた。
「頭痛とか平気か?」
『心配しすぎ(´△`)』
「……するだろ、そりゃ」
最初、俺が家まで送ると言ったら、加茂さんに遠慮された。
しかし、彼女を一人で帰らせて途中で倒れられては困るので、嫌がられても送らせてもらうことにした。
彼女の風邪がどれだけ軽かろうが、何が起こるかなんて分からない。実際、俺は倒れた。
『カバンも自分で持てるよ』
「持たせろ。大して重くないし」
『悪いよ』
「病人は黙って人を頼れ」
俺が言うと、加茂さんは俯く。少し強く言い過ぎたかもしれない。
お互いに無言でしばらく歩き、彼女は再びボードに文字を書いた。
『気にしてる?』
「関係ない」
俺は加茂さんの言葉を否定をしたが、彼女は信じないだろう。
それに、彼女の言葉は正しい。俺を動かしていたのは、彼女に風邪を感染してしまったという罪悪感だった。
『キーホルダー
何もらった?』
「……キーホルダー……あ、これか」
唐突な加茂さんの質問に、少し遅れて答える。キーホルダーというのは、茅ヶ崎さんに貰ったもののことだった。
俺は紙袋の中からリアル熊のキーホルダーを取り出し、加茂さんに見せる。
『リアル(° °;)』
「加茂さんはどんなやつ貰ったんだ?」
俺が訊ねると、加茂さんはホワイトボードを脇に抱える。そして、紙袋からキーホルダーを取り出し、俺に見せてきた。
「……可愛いな」
「…………(こくこく)」
それはハムスターのキーホルダーだった。俺の熊と同様、リアルな作りの。
しかし、ハムスターという小動物系だからか、円らな瞳が愛らしい。加茂さんも気に入っているみたいだ。
『くまもかわいいよ』
「可愛いか? ……っと、着いたな」
話しているうちに、加茂さんの家に到着する。
足を止め、彼女が俺に向き直る。俺が荷物を返すと、加茂さんはボードに文字を書き始めた。
『ありがとう』
「……どういたしまして」
一応、形式的には礼を受け取る。恩の押し売り状態だった自覚はあるので、少し複雑だった。
加茂さんはインターホンを押して、反応を待つ。しかし、いつまで待っても、誰の声も聞こえてこない。
「家、誰も居ないのか?」
『買い物行ってるのかも』
「鍵は?」
「…………(がさごそ)」
加茂さんは鞄の中を漁ると、鍵を取り出した。今日はしっかり持ってきていたらしい。
……でも、家に誰も居ないということは、当たり前だが加茂さん一人ということになる。
「お母さん帰ってくるまで、俺も居た方がいいか?」
「…………(きょとん)」
気がつけば、そんなことを口走っていた。
加茂さんは目をぱちくりさせて、驚いたように俺を見つめてくる。
「あ、いや、迷惑なら帰るけど」
どうしてこんなことを言った。迷惑だから家には上がらないと決めていたのに、その決意はどこに消えた。
というか、言うにしても、もっと気の利いた言い方はできなかったのか。反省すべきことが多すぎて、俺は内心で頭を抱えた。
すると、加茂さんは遠慮がちにボードの文字を見せてくる。
『お願いしてもいい?』
「……ああ」
加茂さんからお願いされ、それを俺に断る理由はなかった。
▼ ▼ ▼ ▼
「お邪魔します」
赤宮君を家に招き入れてしまった。
……本当は、赤宮君には帰ってもらうべきだったのかもしれない。私に風邪が感染ったみたいに、今度は私が感染してしまう可能性もあるから。
でも、できなかった。一人でお母さんの帰りを待つことを想像したら、心細くなってしまった。
そして、今日もまた、彼に頼ってしまった。私は恩返しがしたいのに、赤宮君から受けた恩は貯まっていく一方で……。
「加茂さん?」
「…………(はっ)」
声をかけられて、私は考え事を中断する。
私は赤宮君をリビングに案内してから、ボードに文字を書いた。
『座って待ってて
着替えてくるから』
「階段一人で上がれるか?」
赤宮君、私を何だと思っているのか。要介護者じゃないよ?
最近、鈴香ちゃんに似てきている気がする。過保護的な意味で。私、そこまでひ弱に見えるのかな。
『大丈夫』
「……分かった」
私の言葉にそう答えた赤宮君の顔は、あまり変わらない。彼が人を心配する時のいつもの顔だ。
心配症だなぁと思いながら、私は自分の部屋に向かった。
部屋着に着替え終えた私は、ふと姿見を見る。
そこには、水色のブカブカTシャツを着て、灰色のスウェットのズボンを履いた私が映っている。
こんなにだらしない格好でいいのかな……駄目な気がする。
今は赤宮君がいるのだから、最低限外に出ても恥ずかしくない格好にしておくべきだ。
少なくとも、この格好は外に出られる格好じゃない。お洒落とか苦手な私にも、それぐらい分かる。
何より、このTシャツだけは絶対駄目。いつもパジャマとして着てる服だから気にしてなかったけど、肩が出てる服で人の前になんて出れない。
……ビデオ通話した時の、私自身の失敗を思い出してしまった。今思い返しても、恥ずかしい。
「っ……けほっ」
軽い頭痛の後に、咳き込む。
それから、ゆっくりベッドに転がった。少し休憩しよう、五分ぐらい。赤宮君、許してくれるかな。
――頭が碌に回らないまま、私は眠りに落ちてしまった。
最近お二人とも寝過ぎではと思わなくもない作者です。





