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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
新しい友達、手探りの距離感

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32/315

加茂さんは眠れない

 カシャ。


「あの」


 カシャカシャ。


「何枚撮るんですかね」

「あと十枚だけ、ね?」

「その"あと一枚!"のノリで十倍の量を求めるのやめません?」

「駄目?」

「……それ撮ったら、早く九杉さんを家の中に入れてあげてください」

「つまり?」

「撮るならさっさとお願いします」


 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ。


 ――現在、加茂さんの家の前ではミニ撮影会が行われていた。

 被写体は俺と寝ている加茂さん。撮影者は帰宅した加茂さん母である。

 何故か所持していた一眼レフのカメラを構えて、加茂さん母は俺と加茂さんを撮りまくる。


「ふう……ありがとう、赤宮君」

「ど、どういたしまして……?」


 ようやく写真を撮り終えた加茂さん母は、清々しい程に満足げな笑みを見せた――。




 * * * *




 家に帰り、夕飯を食べ、風呂に入り……すべきことを全て終わらせた頃には、時刻は夜の十一時を回っていた。

 明日は月曜日、学校だ。するつもりは元よりないが、夜更かしはできない。


 部屋の電気を消して、ベッドに転がる。

 今日の疲れを訴えるように睡魔が襲い――スマホの着信音によって、俺の安眠は遮られた。


「こんな時間に誰だ……え?」


 スマホの画面には"加茂 九杉"の文字。通話ボタンを押すと、加茂さんの顔が映った。


「どうした……切るのかよ」


 要件を聞こうとした矢先、通話が切れる。その後、すぐにライナーに通知が来た。


[ごめんね。寝てた?]


 どうやら、間違い電話という訳ではないらしい。ひとまず、要件を聞いてみることにした。


[まだ。何か用か?]

[ちょっと眠れなくて]


 ……なんとなく、事情を察した。

 眠れないのは、夕方に一眠りしたからだ。そして、ホラー嫌い特有の"夜怖くて眠れなくなる現象"も併発したのだろう。


[寝れるまで通話繋いでていい?]


 そんなに怖かったのかよ。だから無理すんなって言ったのに。加茂さん、結局最後まで頑張って見てたし。

 そういえば、どうして俺に電話を掛けてきたのだろう。電話なら普通、神薙さんの方が掛けやすいんじゃないだろうか。


[何で俺? 神薙さんは?]

[電話掛けてみたけど出なかった。多分寝ちゃってる]


 神薙さんは早寝らしい。意外とは思わなかった。むしろ、イメージ通りとも言える。


[迷惑かけてごめんなさい]


 この時間に電話なんて確かに迷惑だ。加茂さんもそれは分かっていた。分かっていて、掛けてしまったのだろう。

 今度は、俺から加茂さんに電話を掛ける。勿論、テレビ通話の方で。


「もしもし……でいいのか?」

「…………(ぱちくり)」


 何故、そこで驚く。電話したいと言ったのは加茂さんだろうに。


「今日は特別付き合ってやる。礼もまだしてないし」


 カフェで俺が奢ると言ったのに、結局、皆自分で払ってしまった。だから、加茂さんにも今日のお礼をまだ返せていないのだ。

 ――という理由もあるが、これは単なる理由の後付けに過ぎない。そういう建前が無くたって、別に電話ぐらい構わないと思ってる。


 ……やっぱり、不思議だな。秀人が同じことをしてきたら、即行で通話を切る自信がある。

 加茂さんだから、許してしまうのだろうか。それとも、女子だから? 俺、女子に甘いのか?


 自分の行動に対する疑問。しかし、すぐにその答えは出てこなかった。

 そうしている間に、加茂さんがホワイトボードに文字を書く。


『ありがとう』

「こっちこそ、今日はありがとな」


 面と向かって……と言えるかは微妙なライン。画面越しに、俺達は感謝の言葉を送り合った。


「んで、眠れないんだっけか」

『お恥ずかしい』


 加茂さんは若干頰を赤く染めて、目を逸らした。


 ……怖くて眠れない、か。

 確か、俺の手を握ると安心するんだったか。それなら、また握れば加茂さん母の帰りを待っていた時のように眠れるのだろうか。


 ――やってみる価値はあるかもしれない。


「寝るか」

「…………(えっ)」

「通話は切らねえよ」

「…………(ぱちくり)」


 瞬きする加茂さんをスルーして、俺はベッドに横になる。

 そして、スマホの画面を覆うように手で握った。通話を切るボタンを押さないように気をつけながら。


「加茂さんも、自分のスマホ握って寝てみろ」


 加茂さんに指示してから、しばらく間を空ける。

 自分の手のせいで画面が見えないため、加茂さんが指示通り動いているかは分からない。でも、俺の言ったことをやってくれていると信じて、俺は彼女に訊ねた。


「直接は握れないけど、これならどうだ?」


 反応はない。そもそも、分からない。

 少し手を離して、手の隙間から画面を除く。画面は真っ暗になっていたが、通話は切れていない。


 ……これで子守唄の一つでも歌えたらよかったのだが、残念ながら俺は一つも覚えていなかった。


「おやすみ。また明日」


 これ以上、俺に出来ることはない。だから、俺は加茂さんに一声かけて、そのまま目を閉じた。

翌朝充電ゼロ不可避( ˘ω˘ )

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