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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
ゆるっとした後日談

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「ありがとう」

〈近況報告〉

四度目の気胸になり、再発防止の手術を受けて入院してたりした影響で更新遅れてました。

無事に退院しました。まだ安静ですが元気です。

 初詣を終えて屋台に少し立ち寄った後、俺達は九杉の家に向かっていた。というのも、九杉から聞いた話によれば里子さんがお餅をご馳走してくれるらしい。


『少し2人で寄り道

 してきてもいい?』

「ん? じゃあ、俺達は先に加茂さんの家行ってればいいのか」

「そうね。いってらっしゃい」


 そんな道中。九杉から出された突然の要望に、秀人と神薙さんは深く訊ねることなく俺達を快く送り出してくれた。


 ――ただ、二人は勘違いをしている。


『鈴香ちゃんと話したいの』

「……私と?」


 慌てて補足を入れた九杉に、神薙さんは目を瞬かせながら聞き返す。

 まあ、今のは九杉の言い方が少し悪かった。初詣に行く前、二人を待っていた時に九杉から聞いていなかったら俺も勘違いしたと思う。


「…………(こくり)」


 九杉は頷き、神薙さんに真剣な眼差しを向ける。対して神薙さんは、突然改まってするような話に見当がつかないのか困惑しているようだ。

 ……邪魔をしないためにもさっさと離れるか。


「それじゃあ九杉、俺達は先に行ってるから」

「…………(ふりふり)」


 九杉に手を振り返して、俺達は一旦二人と別れた。




 * * * *




「加茂さんの用件、光太は知ってんの?」

「まあ、一応な」


 俺が驚かなかったからだろう。二人と別れた後、秀人が確認するように聞いてきた。


「それって俺聞かない方がいいやつ?」

「んー……まあ、大丈夫か」


 九杉から口止めはされていないが、あまり言い触らす話でもないのは確かだ。しかし、ここで変に隠す必要もないというか、逆に九杉のためを考えたら秀人には話しておいた方がいいかもしれないと思った。


「球技大会の時に頑張り過ぎた反動みたいなので、九杉が筆談に戻ったのは知ってると思うんだけど」

「あ、やっぱりそうだったんだな」

「俺と二人きりの時なら割と普通に喋れるっぽいんだ」

「……惚気か?」

「別に惚気じゃねえよ。里子さん……家族ともそこそこ喋れるらしくて、九杉の中で親しい人となら無理なく喋れるぐらいには良くなってるみたいでさ」

「よかったじゃん」

「だから、神薙さんともどうしても喋りたいんだと」

「ん? ……あ、そういうことな」


 秀人は俺のふわっとした説明で話を理解し、納得したように呟く。


「言っておくけど、九杉にとってはお前もちゃんと友達だからな」

「別に疑ってねーって。付き合いの長さが(ちげ)えし、加茂さんにとって俺が光太や鈴香と同等とは最初から思ってねーよ」


 念のために入れたフォローに対して、秀人はあっけからんと言い放つ。概ね予想通りの反応だ。

 秀人の性格はこの一年半でよく理解している。だから、実際は俺も心配していない。


「ってか、逆に加茂さんが勝手に気にしそうだよな」


 どちらかといえば、俺もそっちの方が心配である。


「くれぐれも後で九杉に"何の話してたんだー?"なんて聞くなよ」

「分かってる分かってる……そういや、加茂さんの家に入んの月見以来だわ」


 話のキリも良いところで、俺達は九杉の家に到着した。




 ▼ ▼ ▼ ▼




 "鈴香ちゃんと話したい"――そうして私が連れてこられた場所は、九杉の家の近くにある公園だった。


「九杉、話って……?」


 わざわざ改まって話したいと言われて、頭の中をぐるぐる巡らせても見当がつかなくて。私は少し緊張してしまっていた。

 多分、悪い話とかじゃない。赤宮君絡みの相談か何かだとは思う。それでも、ここに来るまで私達にしては珍しく会話がなかったからか、えも言われぬ不安に駆られている自分がいた。


「…………(ぱちぱち)」


 すると、九杉は私を見ては目を瞬かせて、少し慌てた様子でボードにペンを走らせた。


『ごめん話っていう話じゃない

 そんな身構えなくても大丈夫

 ほんとに少し話したいだけで』

「そ、そんな顔に出てた?」

「…………(こくこく)」


 自分では平静を装えていると思っていたけど、そうでもなかったらしい。


「ええと、それで私に話って、……?」


 気恥ずかしさを誤魔化すように九杉に訊ねようとして、気づく。九杉もまた、緊張していることに。


 ――私が「九杉」と声をかけようとした時だった。


「すずか、ちゃん」


 それは聞き違える筈がない、目の前から発せられた紛れもない彼女の声。


「――っ」


 咄嗟に声が出なかった。頭が真っ白になって、喋るべき言葉が浮かばなかった。


「ひゃっ」


 それでも溢れ出した感情は私の身体を動かして、私の名前を呼んでくれた彼女を抱き締めていた。

 これは何の証明にもならない。だとしても、耳に残った音が本物だと、この身で確かめずにはいられなくて。とびきり、強く、抱き締めていた。


「ごめんね、心配かけちゃって」

「……本当に、そうよ」


 九杉が声を出さなくなって、五年近くの月日が経って。つい最近、録音だけど、私はようやく彼女の声をまた聞くことができた。久々に聞けたことが嬉しすぎて、私はその時みっともなく泣いてしまった。

 その一ヶ月後の球技大会で、九杉が自分の意思で声を出したことを赤宮君から聞いた。その反動で、またしばらく録音を使うことが怖くなってしまったことも知った。


 ほっとした。

 録音でも声が聞けなくなるのは寂しいけれど、九杉の心が私にとっては何より大事だから。無理をする彼女を見続けるのは、辛いから。


 だから、生で声を聞けるとは思っていなかった。


「ずっと、伝えたかった」


 私に抱き締められながら、九杉は喋る。


「ずっと、守ってくれて、ありがとう」


 喋り続ける。


「側にいてくれて、ありがとう」

「……友達なんだから、当然でしょ……」


 止まらない雫が九杉の肩を濡らしていく。

 申し訳なさを感じつつも、それは私にはどうにもならなかった。

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