エイプリルフール特別版SS
エイプリルフールSSです。
時系列は深く考えてないけど多分大学生ぐらい。
二人は同棲してます。
「嘘が思い付きません……」
4月1日。買い物に出る支度をしていた俺に、九杉は控えめな声で俺に助けを求めてきた。
「それ、今日のエイプリルフールの話してる?」
「うん。でも、何も思い付かなくて……知恵を借りに来ました」
「いや、思い付かないにしても俺に聞いたら駄目だろ」
俺が「こういう嘘は?」と言ってみたとして、九杉がそれをそのまま俺に言ってどうするんだ。嘘と分かりきってるものに俺がわざと騙された振りをすればいいのか。虚しくなる未来しか見えないが。
「お、お手本とか」
「いきなり言われてもな。というか、俺は別に今日嘘吐こうなんて思ってなかったし」
「うっ、地味に刺さること言わないで……」
俺の言葉に良心が痛んだのか、九杉は胸を押さえて言う。
……九杉がイベント好きなのは知ってるから、俺も今日のエイプリルフールは何かあるだろうと想定していた。
だけど、そもそもの話をしてしまうと、九杉はエイプリルフールに向いてないと思う。ただでさえ嘘をつくのが下手だし、それ以上に優しすぎるから。
「ああ、そうだ。話変わるんだけどさ、今日の夜、久々に中学の友達と飯食いに行くことになったんだ。だから、今日の夜ご飯の当番変わってくれないか?」
「え、そ、そうなんだ……分かった。いいよ」
九杉に伝えると、彼女の言葉尻が小さくなって分かりやすく寂しさが伝わってくる。
「まあ、嘘だけど」
「へ?」
九杉は目を瞬かせて、ぽかんとした表情でこちらを見る。
残念ながらと言うべきか。小学校ならまだしも、俺が久々に会いたいと思えるような仲の良い中学の友達はいないのである。
「今のがエイプリルフールの嘘」
「じゃ、じゃあ、今日の夜は?」
「当番変わらなくていいし、一緒に夜ご飯食べれるよ」
「そっかぁ」
そう言って、九杉は安堵の笑みを浮かべる。
そんな彼女の表情を見た俺は、つい支度の手を止めて彼女を抱き寄せに行った。
「ど、どうしたの?」
「寂しい思いさせてごめん」
「あ、そういう……でも、今のは私がお願いしたからだし、気にしなくていいのに」
「そうは言っても、気にしちゃうものは気にしちゃうんです。とりあえず、今日の夜ご飯はハンバーグ作らせてください」
「やった。光太君のハンバーグ好き」
――この後、本題を忘れてしまった俺達がエイプリルフールの話に戻ることはなく、結局、九杉がこの日嘘をつくことはなかったのだった。
お久しぶりです。もさ餅です。
これからは不定期に今回のようなSSだったり、後日談等を投稿していこうかなと思っています。
本編完結後の『加茂さんは喋らない』もどうぞよろしくお願いします!





