↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

309/315

ホワイトクリスマス

 二学期が終わって冬休みに入り、その日はすぐにやってきた。


「あったけぇ……」


 ――12月25日。冬に入って初めての雪が降り始め、世間では"ホワイトクリスマス"の話題で持ちきりになっている朝のこと。

 開店前のバイト先に着くと、すっかり冷え切っていた体が人類の叡智の結晶( エアコン )によって温められていく。


「お、赤宮君おはよー」

「おはようございます」

「……あれ? 赤宮君って今日休みじゃなかった?」


 ホールで一足先に開店準備をしていた倉田さんに不思議がられる。

 倉田さんの言うとおり、俺は元々今日は休みの予定だった。


「光太、今日はありがとね。予定もあったのに」


 倉田さんに理由を話そうとした矢先、キッチンの方から来た和哉(かずや)に礼を言われる。


「ん。まあ、午前中は暇だったし」

「青城(せいじょう)どういうこと?」

「実は一星(いっせい)が風邪引いてダウンしちゃって、今日は光太に午前中だけ出てもらうことになったんだ」

「え、そうだったんだ」


 そう。今日の俺は御厨(みくりや)さんの代わりなのだ。

 御厨(みくりや)さんは昨日、朝から体調が悪そうだった。しかし、昨日はクリスマスフェアで店がいつも以上に忙しく、和哉が早退を勧めても「俺は大丈夫だから」と無理して働き続けてしまったのだ。その結果、若干客足が落ち着いてきた夕方頃に完全ダウンしてしまったのだった。


「光太が一星に頼んでたケーキは、俺が代わりに腕によりをかけて作っておくから」

「……それはありがたいけど、午後大丈夫なのか?」


 今日は加茂さんが午前中に部活があったため、俺は午前中だけならという条件で急遽シフトに入ることになった。だから、どうしても午後は出られない。


「うん。光太と入れ替わりで午後にシフト入れる人は二人いたから大丈夫!」


 しかし、俺の心配は杞憂だったようだ。


「心配しないでクリスマスデート楽しんできな!」


 ――付け足された余計な一言に、心配しなきゃよかったと俺は軽く後悔した。


「え!? 赤宮君今日デートするんだ!? あ、もしかして前に店に来た子?」

「……はい」

「いいねぇ! 若いねぇ! 青春だねぇ!」


 和哉の余計な一言によって、特に今日の予定を話していなかった倉田さんが興奮しながら茶化してくる。

 正直なところ、俺は倉田さんは少し苦手だ。色恋の話が好きらしく、興奮の仕方が西村さんと重なって。


「あ、青城! どうせ作るならケーキ2つじゃなくてハートのカップルケーキ作りなよ!」

「ああ! それもそうだね!」

「普通でいいから!」


 開店前から、俺的この店の良心である御厨さんの存在を求めずにはいられなかった――。




 ▼ ▼ ▼ ▼




「加茂さん加茂さんっ」

「…………(きょとん)」

「見て見てっ、雪降ってるっ」

「…………(ぱあっ)」


 部活中、ひそひそ声で話しかけてきた茅ヶ崎さんに言われて外を見れば、冬に入って初めての雪が降り出していた。

 雪は好きだ。雪だるまや雪合戦、かまくら……は作ったことないけど、とにかく楽しくて夢がある。


「ほんとだ、雪降ってる。予報じゃ曇りだったのに」

「うわぁ……嫌だな……寒い……」


 横にいた鹿島さんと茂木さんにも私達の会話が聞こえたらしい。

 だけど、鹿島さんはあまり興味がないようで、茂木さんは逆に雪が苦手……というより、赤宮君と同じで寒さ自体が苦手のようだった。


「これ絶対積もるよねっ。部活終わったら雪合戦しよっ」

「…………(こくこくっ)」

「小学生か」

「そう言っていざ始めたら皐月も参加してくるくせにー」

「し、しないしっ」


 あ、そうなんだ。ということは、興味無い風に見えて、実は鹿島さんも私達と同じで雪嬉しいのかな。

 それにしても、雪合戦なんて小学生振りな気がする。部活の後で皆で遊べるなんて楽しみ……じゃない。今日はそんな時間無いんだった。


「…………(ちょんちょん)」

「ん? 加茂さん何?」

「…………(ばつ!)」

「うん?????」


 両腕を交差させて大きくばってんを表現する。だけど、茅ヶ崎さんに上手く伝わっていないのは反応で分かった。

 部活中は基本的にボードが使えない。どうしても伝えたいことがある時とかは使わせてもらうけど、こういう軽い雑談で使う訳にはいかない。


「もしかして皐月は駄目?」

「え……」

「…………(ぶんぶんっ)」


 違う違う。とんでもない方向に勘違いをされて、私は慌てて首を横に振る。

 どうしよう。休憩の時に伝え直すのが一番だとは思うけど、このままだと私が鹿島さんのこと嫌ってるみたいになっちゃう。


「雪合戦できないって言いたいんでしょ。今日は加茂さん予定でもあるんじゃないの」

「…………(こくこくっ)」


 ジェスチャーだけで伝わらなくて困っていると、茂木さんが私の代わりに伝えてくれた。


「そっか今日クリスマスじゃん!」

「な、なんだ。よかった……それにしても、今のよく分かったわね」

「まあ、同じクラスだから」

「あれぇ? 私も同じクラスなんだけどなぁ」


 今度は逆に茅ヶ崎さんがダメージを受けている気がするけど、とりあえず誤解は解けたからよし!

 一安心しながらも、やっぱりこのままじゃいけないなぁと自分を責めてしまう気持ちが生まれる……まだ声出してないのに心臓バクバクしてきた。あ、駄目だ、これ。負の連鎖始まりそう。


 ――勝手に苦しくなっていたところで耳に入ってきた鹿島さんの一言で、私の胸がスッと軽くなった。


「……このまま雪積もったら電車止まりそうじゃない?」

「…………(え?)」


 というか、そんなこと考えてる場合じゃなくなってしまった。




 * * * *


 ▼ ▼ ▼ ▼




「マジかよ」


 バイトが終わる頃には、外は道路が真っ白に染まるくらいの雪が積もっていた。


 雪は苦手だ。そもそも、冬が苦手だ。冷え症にとってこの寒さはかなり辛い。

 しかし、これから会う予定の彼女はこの雪を見て喜んでいるのだろう。そう思うと、この地獄のような寒さも少しはマシに感じる。本当に少しだけど。


 ……と、寒さに関しては些末な問題で、一番の問題は帰りの電車である。


「やっぱり止まってるよな……」


 スマホで調べてみると、案の定、電車は止まってしまっていた。

 冬休みだから多少はマシかもしれないが、恐らく駅は電車を待つ人で溢れ返っているだろう。しかし、電車が止まったのは一時間程前のことらしく、雪が降り続く現在、復旧の目処は未だ立っていないとのこと。


「ついてねえ……」


 家を出る前に見た天気予報でも、交通が麻痺してしまうレベルで積もるなんて言っていなかった。何でこんな日に限ってここまで積もるのか。せめて一日ズレてほしかった。

 ……嘆いても仕方ない。とりあえず、加茂さんに連絡しないと。


「あ、連絡来てる」


 大幅に遅れてしまうことを伝えようとスマホを見れば、先に加茂さんの方から連絡が来ていた。

 きっと、加茂さんも電車が止まっていることを知ったのだろう。となると、加茂さんのことだから内容は"気をつけてね"とかそんなところだろうか。


「――はい?」


 しかし、実際に書かれていた内容は俺が想像もしなかったものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 人類の叡智の結晶とかいうエアコン。もさ餅先生がこういうルビの使い方をするのが新鮮すぎてビックリ。 ふむ、ふむふむ。カップルケーキとな。 見守り隊がこっそり差し入れてあげようではないか………
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。