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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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赤宮光太の新たな放課後

 学校を出た俺は、この前来たボクシングジムへとやってきた。


「歓迎するよ!」


 俺が入会したい旨を伝えると、ジムのオーナーである柳さんは快く迎えてくれた。

 前に一度顔を合わせた人とはいえ、前回来た時、俺は室伏と軽く口論をしてしまっていた。だから、あまり良い印象を持たれていないと思っていたのだが、室伏は柳さんに俺との関係を話していないらしい。口論の話すら知らないようだった。


 入会手続きが無事に終わり、始まったジムの練習メニュー。俺が未経験者ということもあり、今日は()()()()()()()()から一つ一つ説明を受けながら行うことになった。




 * * * *




「し、死ぬ……」

「お前体力無さすぎるだろ」


 説明と体験が一通り行われたところで、俺は力尽きて仰向けに倒れた。

 今日の専属トレーナーである室伏に、呆れた顔で見下ろされている。悔しいし何か言い返してやりたいが、残念ながら俺にそんな余力は残っていない。


「この調子だと加茂の方が体力あんじゃねえか?」

「当たり前だろ何言ってんだ」

「男の癖に自信満々に負け認めんな」


 何を言ってるんだ、この男は。


「加茂さんの底無しの体力知らねえのか」

「……知ってるけど、プライド無いのかよお前は」


 そう言われても、体力に関しては一生賭けても彼女に敵う気がしない。あれは意地や根性でどうにかなるレベルじゃないと思う。

 せめて室伏には負けないぐらいの体力は欲しいが、今はまだ、自分がそこまで辿り着ける想像すらできないのが現実だ。


「お前の場合はまず体作りからだな」


 ……一応、自分の練習メニューもある筈なのに、わざわざ真面目に付き合ってくれてはいるんだよな。


「……? 何だよ」

「別に、何も」


 礼は言わない。というより、どうしても言う気になれない。

 加茂さんと室伏の間では既に終わった話。だけど、やっぱり俺の中の許せない気持ちが消えなくて。これからも、消える気はしない。


「にしても、どういう風の吹き回しだ?」

「あ?」

「お前、俺が嫌いでここに通う気なかっただろ」


 そんな俺の本心に室伏も薄々勘付いていたらしい。まあ、それは隠す気もなかったから構わないが。


「お前は嫌いだけど、通う気は元々あったよ」

「……そうなのか?」

「ああ。俺だって、繰り返すつもりはないから」


 あんな思いをするのは一回でいい。二回目は起こさせない。そのための手段があるのに"嫌い"なんて理由で逃げ続ける程、俺も子供じゃない。


「それに、加茂さんが部活に入ったから、俺だけ何もしないのが嫌だっただけ」


 加茂さんが部活に入ったのは良いタイミングだったと思う。寂しいが、俺も新しい事を始めるきっかけになった。


「また陸上始めたのか?」

「陸上部じゃねえよ。バレーボール部」

「バレー? 加茂ってそんなにバレー好きだったか?」


 ……余計な話をしてしまった気がする。


「よし、もう動けるからこれからのメニュー教えろ」

「おい露骨に話逸らすんじゃねえ」

「無駄口叩くな早くしろ」

「てめえ……っ」


 室伏に何を言われようと、これ以上加茂さんの話をするつもりはない。


「二人って仲良いんだね。よかったよかった」


 室伏が怒りを露わにし始めていたところで、その様子を見ていたらしい柳さんが変な事を言ってきた。


「仲良くないです」「良くねえよ」

「ほら仲良い」

「…………」

「何で俺が睨まれなきゃなんねえんだよ!」


 反射的にした否定が室伏とハモってしまい、柳さんから仲が良い判定をされてしまった。どうしてくれる。


「いやー、誠ちゃんが同年代のお友達連れてきてくれて、お姉さん嬉しいよ」

「友達でもない……って、え?」


 柳さんの勘違いが加速し、俺が全力で否定しようとして、引っかかる単語が耳に入ったことに気づく。

 そんな俺を見て察したのか、室伏は俺の気づきを確信させる衝撃の事実を告げてきた。


「気づいてねえみたいだから言っとくけど、オーナーは女だぞ」

「……!?」


 改めて柳さんを見る。髪は男のような短髪で、身長は俺より高くガタイも俺よりは良い。

 だからだろう。ボクシングジムのオーナーだと紹介されて、違和感なく受け入れられたのは。


「あっはっは! やっぱり気づいてなかったんだ。ごめんね、騙す気はなかったんだけど」

「っ! い、いえ、こちらこそ勝手に勘違いしてすみませんっ」


 しかし、思い返してみれば一人称は私だし、声も男にしては少し高めだ。

 性別を聞かされてなかったとはいえ、勝手に男だと思い込むというとても失礼な真似をしてしまっていたのは結構なやらかしである。


「本当にすみませんっ」

「いいよいいよ。間違われるのには慣れてるから」

「オーナー、これで何人目だよ」

「覚えてないなぁ……そういえば、誠ちゃんも初めて会った時は同じ勘違いしてたよね」

「あの時はオーナーが男だって詐称したのが100%悪いだろ」

「だって誠ちゃん、女だって言ったら心開いてくれなさそうだったから仕方ないじゃん」


 室伏も最初は柳さんの性別を間違えていたらしいが、どうやら室伏の時は柳さんが故意に騙していたらしい。

 一体何がどうなったら性別を詐称する話に繋がるのか不思議ではあるが、室伏の話だからだろうか。正直、そんなに興味が湧かない。


「聞いてよ光太ちゃん、誠ちゃんってばね――」

「赤宮、もう十分休んだだろ。練習始めんぞ」


 ――室伏も、あまり聞かれたくない話なのか。


「柳さん、話の続きは練習終わってからでお願いします」

「ぶっ飛ばされてえのかてめえ」

「了解!」

「オーナーもやめろや!」


 人間、嫌いな奴の過去話に興味はないが、弱みには興味が湧いてしまうものなのである。

 そういう訳で、後で柳さんに室伏と出会った頃に彼がやらかしたエピソードを語ってもらったのだった。

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