クリスマスは目前に
テストが終わって、球技大会も終わって、冬休み目前――それはつまり、赤宮君の誕生日&クリスマスを目前に控えていることを意味する。
だというのに、私はまだプレゼントの準備ができていない。それどころか、決まってすらいない。
『どうしよう』
私は登校中、鈴香ちゃんに二度目の相談をしてしまっていた。
「前に話した時は結局決まらなかったものね。でも、そんなに悩まなくても、九杉がこれ!って思う物渡せばいいんじゃない?」
私がこれだと思う物。家電とかが違うのは分かってるし、一応、既に思いついていた物もある。
『手作りの物』
「それでいいじゃない。駄目なの?」
鈴香ちゃんは、どうしてそれで悩む必要があるのかという風に訊ねてくる。
普通の友達にとかなら、ここまで悩まなかったと思う。ただ、相手は赤宮君だ。"手作り"というジャンルにおいて私が全く勝ち目を見出せない、あの赤宮君なのだ。
『赤宮君に勝てない』
「え、何、勝負でもしてるわけ?」
「…………(ふるふる)」
勝負している訳じゃない。ただ、私の気が済まないだけ。
『赤宮君がくれたプレゼントに
釣り合う物を返したい』
赤宮君はきっと、どんなプレゼントでも喜んでくれる。だけど、それじゃあ私が嫌だから。
ちゃんと返したい。だけど、単純にお金をかければいいという話でもない。赤宮君と同じか、それ以上のものを込めたプレゼントを渡したい。
「言いたいことは分かるけど」
鈴香ちゃんは私がどうして悩んでいるのかを理解してくれたらしい。だけど、納得はしていなかった。
「九杉は、自分が作った物じゃ赤宮君の手作りと釣り合わないと思ってるの?」
「…………(こくり)」
「そんな訳ないじゃない」
はっきりと断言して、鈴香ちゃんは訊ねてくる。
「もしも赤宮君が裁縫とか下手だったら?」
「…………(きょとん)」
「それでも、頑張って何か作ってきてプレゼントしてくれて、九杉は違う物がよかったとか考える?」
「…………(ふるふる)、…………(あっ)」
私は首を横に振りながら、鈴香ちゃんの言葉の意味を理解した。
「そういうことよ。好きな人から貰った物なら何でも一番嬉しいものなの。それが一生懸命作った物なら尚更ね」
『ありがとう
頑張ってみる』
「……頑張れ。応援してるからね」
「…………(こくっ)」
こうして、私はプレゼント決めに一歩前進できたのだった――。
* * * *
▼ ▼ ▼ ▼
今日は午前授業のみで、いつもなら部活のない俺達は真っ直ぐ帰宅する。しかし、加茂さんが部活に入った今、その"いつも"は暫くやってこないだろう。
そして、俺も。帰りに寄る場所があるため、弁当を持ってきて教室で食べていた。一人飯という訳ではなく、午後から部活がある秀人と共に。
「へー、加茂さん部活入ったのか」
加茂さんの話をすると、秀人は驚きつつもそこまで興味を示さなかった。
「それより聞いてくれよ!」
「それよりってお前な」
「だって加茂さんが部活に入っただけだろ? おめでとうって言えばいいのかよ」
確かにそれも変な話だけど。こういう時、秀人ってドライだなぁと思うが、それが秀人の良い部分だよなぁとも思う。
「別に、ただ俺が話したかっただけ。で? 何?」
「クリスマスに鈴香誘えた!」
「マジか」
逆に俺が驚かされてしまった。クリスマスデートに誘えるぐらいに神薙さんとの仲が進展してたのか。いつの間に。全然聞いてないぞそんな話。
……まあ、進展具合を逐一報告されるのも嫌だからいいんだけどさ。
「つー訳で、ここから本題な」
「本題?」
「光太って加茂さんに渡すクリスマスプレゼント決まってる?」
「……一応」
「何渡すんだ?」
どうやら秀人は俺のプレゼントを参考にしたいらしい。
今日、加茂さんはバレー部の人と昼食を取っているため教室にはいない。
それでも念のため、周りを見回して加茂さんが教室にいないことを確認してから秀人に教えた。
「手袋とマフラー編もうかと」
「普通は手袋かマフラーのどっちかなのに、両方用意しようとするの光太らしいよな」
二つともって、クリスマスプレゼントとしては多いのだろうか。クリスマスプレゼントを渡すこと自体が初めてだから、普通がよく分からない。
「変か?」
「別にいいんじゃね…………あ、やっぱりどっちかにしとけ」
「何で?」
「加茂さんはクリスマスプレゼントと誕生日プレゼント用意するんだろ。クリスマスプレゼントだけの光太が二つも用意してたら加茂さんどう思うよ」
「あ」
言われるまで気づかなかった。確かに、加茂さんの性格なら俺が用意し過ぎると逆に申し訳ない思いをさせてしまうかもしれない。
……秀人の方が加茂さんを理解しているようで悔しい。俺の彼女なのに。
「どっちかにしとく……」
「何で俺睨むんだよ……しっかし、分かってはいたけど光太じゃ参考にならねーな。手編みとか俺やったことないし」
「やりたいなら教えるぞ?」
「いい。別のプレゼント考える」
「そっか……」
これを機に秀人も編み物の楽しさに目覚めてくれないか期待したんだけどな。少し残念である。
「そういや、加茂さんの誕生日の時にケーキ作ってきたけどクリスマスも作るのか?」
「いや、バイト先の先輩に作ってもらうことになってる」
「へー。クリスマスも作りゃいいのに」
「自分の誕生日に自分で作ったケーキ食べろと?」
「……何か嫌だな」
「だろ」
加茂さんと二人で食べるとはいえ、誕生日に自作ケーキって食べながら虚しくなると思う。自分で自分の誕生日祝ってるみたいで。
加茂さんは喜んでくれるかもしれないが、一応、クリスマスだけではなく俺の誕生日も兼ねるのだ。やっぱり自分で作るよりも本職のケーキが食べたい。
「そういや、光太はイブって予定あんの?」
「イブ?」
「もし無いなら鈴香と加茂さん誘って四人で集まらね?って思って」
「おー……」
秀人の魅力的な誘いに流されたくなるが、残念ながらその日はどうしても外せない予定があった。
「ごめん、イブはバイト。和哉がどうしても人手欲しいって言ってて」
「あー、なら仕方ねーか。そういや、和哉さんクリスマスフェアやるって言ってたし忙しそーだもんな」
「ちょっと待てそれ初耳」
「え」
この日、俺は期せずして、自身がクリスマス前日に屍となることを知ってしまったのだった。





