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【本編完結済】加茂さんは喋らない 〜隣の席の寡黙少女が無茶するから危なっかしくて放っておけない〜  作者: もさ餅
いつまでも、ずっと隣で

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加茂さんと新聞

「母さん、話があるんだけど」

「何?」

「俺――」




 * * * *




「加茂ちゃん体調大丈夫ー?」

「今日は文字なんだね」

『ご心配おかけしました

 声かれちゃったから文字』

「うわぁ、そうなんだ」

「お大事にね」


 球技大会の翌日。完全筆談に戻ってしまった加茂さんだったが、声が枯れてしまったことを伝えると皆その理由に納得してくれているようだった。

 その辺りの心配は俺はあまりしていなかったが、加茂さんは結構不安がっていて。始めは硬かった表情が今では和らいでいるのを見ると、心からの安堵が伝わってくる。


「これが後方彼氏面ってやつかぁ」

「彼氏()じゃなくて彼氏なんだけど……何か用か?」


 休み時間、遠目からクラスメイトと談笑している加茂さんを見守っていたら、珍しく千葉が話しかけてきた。

 秀人と仲が良いのは知っているが、俺にとっては友達の友達ぐらいの立ち位置の人だ。


「昨日の球技大会のバレー、加茂の事を新聞に書いてええか聞きたくてなー」

「新聞?」

「せやねん。俺、新聞部やから」


 そういえばそうだったな。でも、加茂さんの事か……。


「どんなこと書くんだ?」

「シンプルに代打で大健闘した加茂さんの活躍と、あとはやっぱりあの加茂さんが喋っ「はっ倒すぞ」……赤宮って意外に口悪いんやな」


 つい、感情が理性をすっ飛ばして表に出てしまった。だけど、いくら何でも声の事にまで触れられるのはおかしいと思うのだ。


「大体、聞くなら俺じゃなくて加茂さんだろうが。何で俺に聞いてんだよ」

「加茂には聞いたで」

「は?」

「書いていいって許可貰っとる」

「は?」

「だから今度は赤宮にも聞きに来たんや」

「は?」

bot(ボット)なんかお前は」


 頭が追いつかず、同じ返しを繰り返してしまう。

 ただ新聞に載るならまだしも、声の事まで書かれることを加茂さんは了承したのか。というか、先に加茂さんに許可取ってたのか。


「……じゃあ、何で俺に聞いたんだ?」


 加茂さんに許可を取っておいて、わざわざ俺にまで聞きに来た理由は何なのか。

 訊ねると、千葉は「それがなぁ」と困ったような表情で理由を話し出す。


「加茂から書いていいとは言われたんやけど、えらく葛藤した末に言われてなあ。こっち気にして断りにくくて、仕方なく許可したってことなら不味いやろ? だから、赤宮にも確認しとこ思ってな。ほら、赤宮って加茂の保護者みたいなもんやし」

「彼氏であって保護者ではねえよ」

「……今思ったんやけど、赤宮、加茂と付き合ってること隠すのやめたんか? えらいオープンやけど」

「………………別に隠してたつもりは」

「今の間は絶対嘘やろ」

「うるせえ」


 そんな話はどうでもいいのだ。

 それより、これで千葉が俺に聞きに来た理由ははっきりした。千葉も千葉なりに、加茂さんのことを心配してくれていたらしい。


「で、どうなん?」


 ……こういう部分は、本当に今年がこのクラスでよかったとつくづく思う。


「加茂さんがOK出したなら大丈夫だと思う」

「ほんまか?」

「本当に嫌なことだったら加茂さんは断るよ」


 加茂さんは人に気を遣い過ぎることもあるけれど、NOと言える人だと思ってる。

 あと、加茂さんが葛藤していたというのは声の件と天秤にかけられるものがあったということで、今回はそっちの欲が大きそうだ。


「聞いたことないから俺の予想になるけど、加茂さんはどっちかというと新聞に載りたいタイプだぞ」

「え、逆に? 珍しっ」

「その新聞って基本的にポジティブな内容書くんだよな?」

「そうやな。流石に他人こき下ろす内容は書けんし、顧問が許さへんし、俺だって書きたくない」

「それ聞けて安心した。なら、大丈夫」


 声の件についてはどんな風に書くつもりなのか、実際に見てみないと分からない。だけど、この様子だとそこまで心配は要らないかもしれない。

 理由はまあ、これも予想になってしまうが、恐らく間違っていないと思う。


「加茂さんって人に褒められたりするの大好きだから」

「そうなんか?」

「うん。加茂さんって小テストの点数が良かったり体育で活躍できたりした日の放課後は、褒めてオーラがすっ」

「…………(ぶんっ)」

「ごっ!?」

「赤宮!?」


 後方から頭をぶっ叩かれて振り向けば、顔を真っ赤にして文句ありげな加茂さんがボードを両手で握りしめていた。久々にボードで叩かれた気がする。


「加茂さんおかえり」

『何話してたの』

「加茂さんが新聞に載る話」

「…………(ふるふるふる)」

「……加茂さんが褒められたがりって話?」

「…………(こくり)」


 加茂さんは頷き、ボードに文字を書き殴る。


『私のこと

 そう思ってたんだ』


 頬を膨らませて不満を訴えてくる加茂さんはとても可愛らしかった。


「褒められるの、好きだろ?」

「…………(つーん)」

「まあ、嫌ならもう褒めないけど」

「…………(えっ)、…………(ふるふる)」

「冗談だよ」


 俺も褒めるのを遠回しに催促してきたり、誇ってドヤ顔してきたり、少し間の抜けた姿を見せる加茂さんが好きなのだ。

 それに、普段から頑張り過ぎているぐらいなのだから、求められずとも俺はいくらでも加茂さんを褒めてやりたい気概でいる。


「…………(ぽかぽか)」


 加茂さんが照れ隠しのように弱い力で叩いてくる。

 可愛い以外の感想が浮かばない。自然と頬が緩んでしまう。


「何で俺は惚気見せられてるん?」


 あ、千葉の存在忘れてた。




 * * * *




 ――放課後。


「……加茂さんは分かるけど、あんた誰よ」

「俺は加茂さんの見学の付き添いです」

「ちょっと待って見学の付き添いって何!?」


 俺と加茂さんは、女子バレー部が活動している体育館にやってきた。

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