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加茂さんぼっち疑惑

 翌日、学校に来ると既に加茂さんはいて、自分の席で本を読んでいた。


「おはよう、加茂さん」

「…………(ぴくっ)」


 挨拶をすると、加茂さんは本を読むのをやめて俺の方に向き直る。

 そして、目をギュッと瞑り、手を合わせて頭を下げてきた。きっと、昨日のことを謝っているのだと思う。


「気にしてない。あと、改めて言っとく。届けてくれてありがとう」

「…………(ぶんぶん)」

「ちょっ、ストップストップ!」


 改めて礼を言うと、加茂さんは勢いよく首を横に振る。

 サラサラな亜麻色の髪はその度に揺れ動き、俺が慌てて止めた時には彼女の髪はボサボサになってしまっていた。


「…………(きょとん)」


 彼女の顔は前髪によって大半が隠れてしまい、くりくりの目が見え隠れしている。


「……大丈夫か?」

「…………(こくり)」


 加茂さんは頷くと、前髪を左右に分けると筆箱からピンを取り出して留める。彼女に髪型の拘りはないようだ。


『これ、変?』

「いや、全然。似合ってると思う」

「…………(さっ)」


 俺の言葉に、加茂さんは伏し目になって俺から目を逸らした。頰の緩みが目に見えて分かることから、恐らく照れているのだろう。

 そこまで照れられると、こちらもむず痒い気持ちになる。嫌ではないが、落ち着かない。

 

「「…………」」


 お互い居たたまれなくなり、俺達は黒板の方に体を向き直した。

 出席確認までの五分は、とても長く感じた。




 * * * *




 昼休みになり、俺は秀人と山田の三人で昼食を取っていた。

 山田は二年に上がってから、秀人繋がりで仲良くなった新しい友人である。


「二人は今日もパンか。栄養偏るぞ」

「おかん五月蝿い」

「おかん言うな」


 すかさず突っ込むと、山田は俺の弁当を見て羨ましそうに声をあげる。


「赤宮は毎朝弁当作ってもらえていいよなー」

「これは自炊だ」

「は?」


 俺の言葉に山田は固まった。そこまで変なことは言ってない筈なのに、どうしてそんな反応をするのか分からず首を傾げる。


「光太は家事スキル高いんだよ」

「これはおかんだわ……」

「何でそうなる」


 反論すると、秀人は突拍子もないことを言ってきた。


「俺達の分も作ってきてくれよー」

「いいぞ」

「ごめん嘘です要らない要らない」


 秀人に全力で拒否され、俺は内心へこんだ。そこまで嫌なのか。

 山田は秀人が俺作の弁当を拒否した理由が分からず、問いかける。


「何で? 作ってもらえるなら良くね?」

「野郎に飯作ってきてもらうってのが、自分の中で許せない。それに、作ってもらうなら野郎より彼女がいい」

「あ、それ分かるかも」

「二人は彼女居るのか?」

「「いねーよ」」


 つまり、これからの二人の食生活は、今後の出会いに懸かっているということになる。


「二人に良い相手が見つかることを祈ってる」

「他人事かよ」

「でも、赤宮って恋愛とか興味なさそうだよな」

「……興味がない訳ではないと訂正させろ」


 小、中学生の時も女友達は居た。ただ、恋愛までには発展せず、全てが良き友人止まりだった。

 そもそも、恋愛感情というのがよく分からないだけだ。どの程度の好意がそれに当てはまるのか、計測してくれる機械があるなら是非欲しい。


「お前は良い母親になりそうだよ」

「意味が分からん」

「赤宮の母性は凄まじいしな」

「やめろ気色悪い」


 二人から母親認定されたって嬉しくもなんともない。それどころか鳥肌が立つ。


「あ、でも赤宮、今朝女子と話してたよな」

「……何だと?」

「秀人、ステイ。先に話を聞け」


 明らかに嫉妬が含まれた視線を送ってくる秀人を落ち着かせるために、俺は二人に加茂さんのことを話した。




「喋らない、ねえ」

「だからいつもホワイトボード持ってるのか」


 俺の話を聞いた二人は納得したように頷いた。秀人に関しては、落ち着きも取り戻してくれたのでひとまず安心する。


「二人も知らなかったんだな」

「女子と話す機会はあっても、加茂さんとは一切接点なかったし」

「俺も同じく」


 二人も加茂さんのことはあまり知らないようだった。まあ、詳しかったら逆に驚いていたところだ。

 山田は二つ目の焼きそばパンに手をかけたところで、不意に口にした。


「加茂さん、クラスでいつも一人だよな」

「……そういえば、クラスメイトで誰かと話してるところ、あんまり見ないな」


 昨日の席替えからこの昼休みの時間に至るまで、俺は加茂さんが他のクラスメイトと話したところを見ていない。

 そして、この昼休みも加茂さんが教室に居ないことに気づいた。


「加茂さん、いつも昼休みは居ないよな。どこ行ってんだろ」

「他のクラスに友達でもいるんじゃね」

「まさかの便所飯とか」

「それはないだろ」


 口では否定しつつも、秀人の馬鹿馬鹿しい考えを心の底から否定できなかった。

 コミュニケーションの問題でクラスから孤立しているのなら、その可能性も0ではないのである。


 ――昼休み終了のチャイムが鳴る。

 俺が席に戻る頃には、加茂さんは自分の席に着いて次の授業の準備を始めていた。

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